Epilogue
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
互いにどことなくその空気を感じ、無意識に悲愴な面持ちになる。
けれどジャンヌは無理矢理に声を張って
「そういえば、まだビリーに教えてもらってない事があったわね」
と言うと、彼の隣に腰かけて悪戯な微笑みを向ける。
「教えてもらってない事?」
思わず体を起こして彼女に向き直るビリー。
「脱出したら教えてくれる約束だったじゃない。忘れたの?」
「……脱出したら……?……あっ」
言われて漸く思い出した。
「礼拝堂地下で言ってた、ビリーのやらなきゃいけない事よ。一緒に脱出したら、何なのか教えてくれる約束だったでしょ?」
忘れてたの?と睨むと、彼は一瞬だけ困った表情を浮かべる。
「……そんなに聞きたいのか?」
「じゃなかったら何度も聞かないわよ」
『俺はまだやらなきゃいけない事がある。だからこんな場所で死んだりしない』
その言霊が独りになった時に自分の支えになったから知りたい―――とまでは、ジャンヌも恥ずかしくて言えないが。
「……そうだな。約束だったしな」
教える流れを醸し出した後、唐突にビリーは明後日の方向を指差した。
疑う事なくそっちに顔を向けても、ジャンヌには薄い雲に隠れた太陽ぐらいしか見て取れない。
(太陽でも見たかったのかしら……)
だけどそれが『やらなきゃいけない事』とは結びつかないように思え、また尋ね直そうとした時だった。
出し抜けに腕が伸ばされ、ビリーに抱き締められた。
何が起きたのか分からず、しばし硬直するジャンヌを余所に、腕の中の彼女の頭を撫でるビリー。
肩に顎を乗せられている状況をやっと理解したジャンヌは怒りながら
「ちょっ……ビリー!何して……!質問に答えてよっ!!」
と抵抗して力が緩められた隙に抜け出そうとするも、今までにない笑顔を向けられて思わず固まってしまった。
そして彼は赤く染まるジャンヌの頬に優しく触れ、こう言った。
「ジャンヌ。誕生日おめでとう」
「…………!」
予想もしていなかった言の葉に、ジャンヌはスカイブルーの瞳を大きく見開く。
「養成所でお前の誕生日が今日の朝って知った時から、絶対に誰よりも先に……一番に言おうって決めてたんだよ」
あまりにも彼が嬉しそうに語るものだから、ジャンヌは半ば放心状態からゆるゆると言葉を紡いだ。
「……それが……ビリーのやらなきゃいけないって……言ってた事……?」
「ああ」
「それを言う為だけに……ここまで頑張ったの……?」
「水槽室で聞かれた時に言おうかと思ったけどな。朝まで我慢する事にした」
「っ……誰よりも先にって……他に誰がいるのよっ……」
まさか自分を何度も奮い立たせてくれた約束が、自分が生まれた事を祝福する事だったなんて……。
色んな感情が混ざり、ジャンヌの瞳が涙に濡れる。
「本当っ……バカなんだから……」
だけど何故だろう、自然と笑顔が零れてしまうのは。