ビリーは瞳を閉じて顔を片手で覆い、大きく深呼吸をした後に改めて瞳を開いた。
真っ先に映るのは、金髪を風に揺らして微笑む
ジャンヌの姿。
迷いが消えたビリーの中の天秤が傾き、漸く答えが出た。
「……
ジャンヌも野暮な事を聞いてくれるな」
しばし柔らかい笑顔に見惚れていたビリーは体を起こすと、おもむろに首にかけていた自分のドッグタグを外した。
するとそれを彼女の首にかけながら、不意討ちのキスをする。
「んっ……」
認識票を付け終えてもなお、角度を変えたりしてキスを続けるビリー。
更にはそのまま首から彼女のタグを拝借する。
「ビ、リー……、待っ……」
「まだ。もう少し」
恥ずかしさから
ジャンヌが呼吸を乱しながら訴えるけれど、彼はまた味わうように唇を重ねた。
とっくに認識票は外しているのに、彼女の反応見たさからつい意地悪をしてしまう。
ずっと我慢していたのだから、罰は当たらないだろう。
主導権も握って満足したところで漸く解放してやれば、赤い顔で睨まれた。
余裕を取り戻したビリーは
「こんな事で今後大丈夫か?」
なんて拝借した認識票を自分の首に下げながら戯けると、彼女もまた
「……その言葉、いずれ後悔させるわよ」
と冗談を言い、2人して吹き出した。
「……一緒に行っていいんだな?」
「さっき捨てた手錠があったら、それで無理矢理に連れて行ってもいいのよ」
「ッ……ハハハッ、それを聞いて安心した」
ジャンヌらしいと、思わず声を出して笑ってしまうビリー。
こんな風に笑うなんて、一体いつ以来だろう。
互いの胸には、交換された軍の認識票が光る。
「誕生日プレゼントにあげられるのがそれだけで悪いな」
「あら、私のを持っていったんだから、これはプレゼントとは言えないでしょ?だから―――……」
ジャンヌは立ち上がって大きく体を伸ばして言った。
「これからの時間、ずっと一緒にいてもらうわよ」
花のように笑う
ジャンヌが彼に腕を差し出す。
背景の朝日が、その笑顔をより綺麗に映えさせていた。
見惚れるよりも先に、その手を取るビリーは
「喜んで」
と、跪いてその手に口づけをして彼女の隣に並ぶ。
次第に湧く胸の中がくすぐったい感情に、2人して顔を寄せて微笑んだ。
指輪でなく認識票を交換し合うなんて、いかにも自分達らしい。
―――ビリーと
ジャンヌの新しい時間が、今刻み出された。
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