「アンタもパーティーかい?慌ててるが、招待状はお持ちで?」
マヤも不思議そうにバイクに跨がる女性を見つめる。
後ろ姿なのに、異様な威圧感や殺気を感じるのは何故だろうか……。
―――と、
マヤの予感は的中した。
女性は振り向く事をせず、肩のランチャーを構える。
その銃口が向く先は……自分とダンテ。
悲鳴を上げる間もなく発砲され、
マヤの頭にまた走馬灯が見えた。
けれど、視界がぐるっと回って目の前が女性の背中でなく、氷に覆われた天井とダンテの綺麗な顔の下からのアングルになる。
(……ん!?)
また抱き上げられたと察するも、どうしてか今度は景色が逆転していた。
何故?
その時、
マヤの意識が飛びかけた。
なんとダンテが体を後ろに反らし、飛んできたランチャーの弾に乗って空中を飛び回ったのだ。
「いやあぁぁあぁーっ!?」
「イヤッホーッ!!ハッハーッ!!」
マヤの阿鼻叫喚とは真逆に、ご機嫌に叫ぶダンテはまるでいい波が来て喜ぶサーファーのようだ。
何秒か何分か分からなくなる程、空中を波乗りしていると、ダンテの足が弾から離れて見事に床に着地する。
残された弾は蛇行して、ケルベロスが守っていた扉の上部で爆発して大きな穴を作った。
あんなのに当たったら木っ端微塵になるとゾッとする矢先、攻撃が無駄だと知った女性が振り返る。
肩より上の短い髪。
鼻筋には薄い傷痕。
そして一番の特徴なのは……。
(オッドアイ……)
遺伝子により左右の瞳の色が違うオッドアイ。
それでも彼女の瞳はどちらも殺気を放っている。
「あ、あの……」
マヤが恐る恐る声をかけようと試みると、まるで聞きたくないと言うように女性はアクセルを全開にした。
そして狙いを定めると、こちらに向かってバイクを走らせる。
「ちょっ……!?」
「
マヤ。大丈夫だ」
突然ダンテが後ろから抱きしめ、更に片手で目を覆ってきた。
マヤは視覚が塞がれたので、他に頼りになる聴覚だけで察するしか出来ない。
耳に入るエンジン音が一気に迫る。
マヤが聞き取ったのはその音と、少し間を開けて後ろにバイクの走行音。
何が起きたか分からない
マヤ。
ダンテは今の一連を瞬き1つせずに見ていたので、女性がどうしたのかを熟知していた。
バイクはギリギリまで2人に迫ると、ジャンプをして彼らは疎か、何メートルもある巨大な門をも飛び越えてしまったのだ。
今し方開いたばかりの穴にそのまま飛び込み、女性はバイク共々消えた。
一度も言葉は交わさずとも、彼女がこちらにいい感情を持ち合わせたとは思えないダンテは、
マヤの顔から手を離すと、僅かに不快そうに鼻を鳴らした。
「……こんな展開も悪くないか」
そしてダンテは思った。
(今日だけで2人目のオッドアイ……か)
まだ
マヤと出会う前。
事務所にてシャワーを浴びたばかりの自分の下に、兄……バージルの遣いを名乗る神父のような容姿の男が現れた。
その男も、今の彼女と同じ色のオッドアイだった。
(偶然か、それとも……。―――まあ、どちらにしてもバージルからすれば、招かれざる客って事か)
「……ダンテ?どうしたの?」
「ん?ああ、ちょっと考え事。随分
マヤの体が冷えたと思ってさ」
「そりゃあ……こんな場所にいれば寒くなるよ……」
はあ……と両手に息を吐く。
「なら早く入るか。
マヤが冷凍されちまう前にな」
「ふふっ、ダンテったら」
清純なる微笑みを見て自分には勿体ないと思い始めるが、妙なところでダンテに独占欲が湧いてくる。
独占も何も、別に他の誰かがいる訳でないのに、変な話だが。
そうして2人は塔へと足を踏み入れる。
───しかし、
マヤは自分も『招かれざる客』である事に気づいていなかった。
第3話⇒