「制御装置はここ、運転室と後部デッキにあって、専用磁器カードを後部デッキの装置に使う事で電源が入るみたい。そして後部デッキのロックから解除、次に運転室側のロックも解除すれば……」
「手動ブレーキが使えるって訳……か。よし、じゃあ俺が後部デッキに行って装置を……」
「待って!……私に行かせて」
遮るように
ジャンヌが口を開く。
「あなたは大蠍と戦って疲れてるでしょう?それに……私も助けられてばかりじゃ癪だし……。……でも……私を信用出来ないならいいけど……」
儚げに呟く
ジャンヌを見つめ、ビリーはしばし考えた。
人型ヒル戦を除けば彼女の戦闘判断や技術は優秀で問題はないし、こうしている時間も勿体ない。
何よりも、ここで
ジャンヌを申し出を断るのは彼女を信用していないという事だ。
ジャンヌは死刑囚である自分なんかを信用して、一緒に行動を共にしてくれているというのに……。
自分の中の良心が告げた。
―――彼女に任せろと。
ビリーは黙ってカードを
ジャンヌに手渡した。
下手な言葉よりも信頼を示す彼の行動に、
ジャンヌは嬉しそうに応える。
「ありがとう……!」
タイムリミットは5分を切っていた。
一刻を争う事態に、
ジャンヌは急いでドアを出ようとする。
そこに……。
「
ジャンヌ」
ビリーが呼び止め、続けてこう言った。
「……上手くやれよ?」
返された返事は「当たり前でしょう」という言葉と、自信に満ちた最高の笑顔だった。
―――ウィルスの進行時間を越えたのか、死体達が一斉にゾンビになって
ジャンヌの行く手を阻む。
飢えからか『新鮮な』肉を求め、ふらふらとゾンビに相応しい呻き声を上げながら彼女に近づいて来る。
ジャンヌは愛用の銃を右手に構え、もう一方の手で押収した密造銃を持った。
所詮はちゃちな造り物。
さっさと使えるだけ使い、あとは捨てようという考えだ。
進行方向に3体、後ろに1体。
数の多い方に集中する為に、まずは後ろのゾンビの頭に風穴を開ける。
続けて前にいる3体に標的を変え、2つの銃を同時に放つ。
「残り1体……!」
気合い充分に特攻する
ジャンヌ。
しかしここで思いもよらぬハプニングが……。
なんと密造銃がもう動作不良を起こしていたのだ。
「うっそ……!?もうジャムったの!?」
ジャンヌとゾンビの距離は2メートルもない。
「―――っ!!もうどうにでもなれよ!!」
ゾンビが
ジャンヌに喰らいつこうとした瞬間、彼女は自分の代わりに密造銃をゾンビの口に突っ込んで引き金を引いた。
『ボウン!!』
普通とは少し違う発砲音がした後にゾンビは
ジャンヌに向かって倒れかけるが、狭い通路で避けられないので思い切りゾンビを蹴り飛ばした。
「さてと、あと少し……一気に進むわよ……!!」
残り時間は間もなく1分を切る。
ビリーが心配になっていると、やっと
ジャンヌから後部デッキのロックを解除したと連絡が来た。
「こっちは任せろ!」
ロック解除後、ビリーは使用可能になったブレーキレバーを引いた。
「よし、これで止ま…………!?」
言いかけた瞬間、引込み線に入ったのか車体が大きく揺れた。
「な……何!?」
ジャンヌが線路に目をやれば、ブレーキは作動したらしいが列車の加速についていけずに車輪から火花が激しく散っていた。
ここにいては危険だ。
そう感じた時は既に遅く、
ジャンヌの景色が反転した。
(え…………)
ジャンヌの視界が90度も擦れている。
説明するまでもないが、列車が脱線して横転したのだ。
「きゃあああああっ!!」
衝撃で
ジャンヌはデッキから吹き飛ばされ、運転室にいたビリーも外に放り出されてしまった。
サバイバルはまだ、終わらない。
next hazard⇒