町が活気づく時間になる。
そろそろ寝ぼけた体が目覚める頃に、門番は欠伸1つ。
「随分気が緩んでいるようだな」
「っ!?イ、インパ様!?」
後ろに子供2人を率いた姫の乳母の声に、兵士の眠気は彼方へ吹き飛ぶ。
「午後の訓練では食事を取った後、私が特別に稽古を付けてやろう」
「は、は……い」
紅の瞳に睨まれて強張る兵士。
やはり、来る時に聞いたインパの噂はあながち間違いではないようだ。
すると城から出る直前にリンクは走り出すと、インパに向かい合うようにして言った。
「インパさん!俺にも剣を教えてくれませんか!?」
「何?」
「これからもモンスターと戦うなら、もっともっと強くならなきゃいけないんだ!
ルナも守りたいし、だから……!!」
さっきまでの幼さはどこへやら、リンクの表情は門番よりも遥かに凛々しかった。
まだ森から出て来たばかりのお上りさんと言っても過言でない剣士は、返事を待つ間も勇ましい眼差しを変えたりしない。
しかしインパの返事は―――……。
「その頼みは聞けないな」
紅い目を伏せて告げるインパ。
「リンク、お前の潜在能力は凄まじい。私にはそれを全て引き出す為の力はない」
「そんな……」
「―――だが、アドバイスぐらいは出来る」
「……?」
「いかなる時も冷静に敵を観察しろ。どんな強敵にも、隙は必ずある。それと……日々の基礎の鍛練を怠らぬようにな」
「は……はいっ!!」
「
ルナもだ。魔法というのは、心の強さだ。そして想像する力……」
「想像……?」
復唱する
ルナを見たインパが頷く。
「作り出した炎をどうするか……。より大きくするか、熱するか、爆破させるか……。色々想像出来る事を、魔法に乗せるんだ。お前にも素質があるぞ」
「あ、ありがとうございます!」
本当は、インパも稽古をしてやりたかった。
しかし城での行動はガノンドロフに見聞される危険がある。
この幼き少年少女が、ガノンドロフを倒す唯一の存在になるのを信じるインパが出来るのは、これが精一杯だった。
「……考えるより実戦あるのみだ。皮肉にも最近のハイラルはモンスターが多い。無理しない程度に戦うといい」
「わ……分かりました!」
「礼などいらない。姫様の為にも残りの精霊石、必ず手にするんだぞ」
「はいっ!!」
幼くして逞しい眼差しを受けたインパは嬉しそうに微笑むと、煙玉を手にした。
「武運を祈る」
煙玉を地面にぶつけた直後、インパの姿が忽然と消え失せる。
思わず彼女が立っていた場所を探るが、まるで最初からいなかったかのようだ。
「すごぉい……」
「2人共、感心してる場合じゃないヨ!残りの精霊石を探さないと!早くカカリコ村に行こう!」
「わ、分かってるよ。……でも……」
一気に緊張が解けた2人の目がトロンとする。
「まずは寝かせて……」
今にもその場で寝てしまいそうなリンクと
ルナの周りを、ナビィが慌てて飛び回って
「こんな所で寝ちゃダメー!
ルナの家まで頑張って!」
と、目覚まし時計のようにけたたましく叫ぶのだった。
小さな勇者と天使の、精霊石を探し求める旅が始まる。
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