旅立ち、時々寄り道
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リンクに留守番を任せたルナとナビィは、なンでも屋にいた。
ヒゲ面の店主が座るカウンターから、精一杯背伸びをして顔を出すルナ。
「すみません、デクの実とデクの種を30個ずつお願いします」
「毎度!今日は珍しい物を買ってくねぇ!」
「これから旅に出るの」
「旅?ルナちゃんが?」
商品を袋に詰めながら笑って尋ねる店主の様子から、遊びか探険ごっこぐらいに思われたようだが、ここでハイラルを救うなんて言えば、信じられるどころか大笑いされて終わるだろう。
(私が大人なら信じてもらえたのに……)
むぅ、と頬を膨らませながらお釣りと商品を受け取ると、店主は何とか笑いを抑えながら
「ハハ、ゴメンよ。ルナちゃんなら、いつも遠くの森まで1人で旅してるもんな」
と頭を掻く。
「お詫びと言っちゃあ何だが、これをやるよ」
そう言う店主が棚から出したのは短剣だった。
店主はスッと鞘から短剣を抜くと、銀色の鋭い光が放たれる。
「切れ味はいいから、リンゴの皮剥きにでも使ってくれ。勿論、危ない時は護身用にな」
ニカッと笑う店主の心遣いが嬉しく、ルナは鞘に納められた短剣を受け取る事にした。
「ありがとう!」
「良かったネ、ルナ」
「うん!……あっ、でもお金……」
「金ならいらないって!気をつけて行ってきな!」
清々しい程の店主の笑顔に、ルナはルピーの詰まった財布を仕舞い、代わりに一番の笑顔で手を振って店を後にした。
「ルナ、他に買う物は?」
「隣の薬屋さんに行けば終わりだよ。注文はしてあるから、後は受け取るだけだし、食料も家にあるから……あっ」
「?」
通りの向こうに息を切らせて走る……いや、もう歩くスピードより遅い兵士の背中を、厳しく追い立てるインパの姿が見えた。
「どうした!まだ半分も往復していないぞ!」
「す、すみませ~ん!」
(本当に訓練してる……)
一筋の冷汗を流すルナの顔は青かった。
ナビィも
「インパさん、やっぱり厳しいネ……」
と小さな体を震わせる。
すると―――……。
「あっ。あの子も一緒だ」
インパの後ろを走るのは、フードの少年。
「あの子ね、毎日お城で剣の練習をしてるんだって」
ルナは真っ直ぐに彼を見つめながら続ける。
「最近は魔法も習ってるって聞いたよ。私も見習わなきゃ」
「それはいい心がけだネ!……ところでルナ、1つ聞いていい?」
改まってナビィは素朴な疑問を打ち明けた。
「あの男の子の名前、なんていうの?」
固有名詞で呼んだ事もなく、彼から名前を聞いた事もなかったナビィ。
一番仲の良いルナでさえも、それがなかったので聞いてみると……。
「私も知らないんだ」
「え」
「前に聞いたら、理由があってまだ教えられないって」
名前を教えられないとは、一体どんな事情なんだとナビィは呆気に取られたように、純粋に語るルナを見遣る。
「ルナはそれで良かったの?だってあの子とは友達でしょ?名前を知らないなんて……」
―――淋しくない?
皆まで言わぬところでルナが首を振った。
「平気だよ。だって私達、もう友達だもん」
大人びた言い方で子供のように無邪気に答えるルナ。
本人がそれでいいなら……と、ナビィはそっと彼女の頬に擦り寄った。
「余計な事言っちゃったネ。ゴメン、ルナ」
「ううん。気にしなくていいよ。それより、早く買い物して帰ろ」
薬屋の木製の扉を引いて中へ入る彼女達の後ろ姿が、偶然フードの少年の目に止まる。
(ルナ……)
体力を尽くして倒れる兵士の泣き言も、それを叱るインパの声も、賑やかな城下町の雑踏も、少年の耳には届かない。
聞こえるのは、自分の高鳴る心臓のうるさい音だけ。
「…………」
その部位に手を当て、愛しい彼女の事を想っていると、俄かにインパに言われた。
「私達は一足早く城に戻り、剣の稽古を始めよう」
「は、はいっ」
「どうした?声が上擦っているぞ」
「す……すみません」
らしくないと呟いたインパが顔を上げると、今朝見たばかりの金髪の少女が妖精を連れ、嬉しそうに袋を抱える姿を見つける。
(成る程な)
理由は分かったが、彼女は厳しい指導者。
「今回の稽古は更に厳しいぞ」
それだけ言って、息の切れた兵士を残して城へと歩き出した。
少年も気持ちを切り替え、キッと真剣に自分より逞しい背中を追う。
「……今回の訓練を最後まで終えられたら……」
「!」
少年の足が止まる。
インパの足も止まる。
そして続けて彼女は言った。
「カカリコ村までなら出かけて構わない。彼らに会っていいぞ」
「……!はいっ!!」
その時の少年の表情は、本来の子供のようだった。
インパは
(シーカー族とは、また厳しい場所に立つ種族だな)
と目を伏せ、再び歩き出した。
―――シーカー族とは通称、闇の民。
光となる主がいて、存在出来る。
反せば、主がいなければ存在しないのだ。
だからシーカー族は、代々主となる王家に仕えて生きてきた。
その血族が減り続けても、なお……。
自分を存在させる為に―――。
「彼らはこれから過酷な旅に出る。その導き手となるには、まだまだ修業が必要だぞ」
「は、はい……!」
インパは城の門を開いて振り返ると
「覚悟はいいな?」
と、笑みを消した眼差しで問う。
少年も彼女と同じ赤い瞳で強く頷けば、2人の姿は城の奥へと消えて行った。