「手に入れたかね?」
どこから現れたのか、いつからいたのか分からないアーカムが言った。
「ああ。これでスパーダの封印は解ける」
「……その女は?」
「連れて行く」
質問の意図とは違う答え方をされたが、アーカムは頷いてダンテの方を見遣った。
誰にも気づかれないぐらい、小さく舌打ちをしながら。
バージルが腕を掴む力を強めた時、
マヤの意識が戻る。
「お願い!!離して!!私はダンテの傍に……!!」
「行ったところで無駄だ」
「でも……!!」
バージルの言う通り、名前を呼んでも、体を揺さぶっても、こんなちっぽけな自分1人では何も出来ない。
でも何もしないよりかはマシだと思った。
突然投げ出された知らない世界で、ダンテが唯一だったから。
「言われただろう?それ以上彼の機嫌を損ねると、本当に斬られるぞ」
アーカムが
マヤに告げると、バージルも「来い」とダンテから離すように引っ張る。
「やっ……ダンテー――ッ!!」
マヤが叫んだその時だった。
ダンテの血を受けたリベリオンの柄に施された髑髏が、覚醒を示した。
まるで大砲が打ち上がったかと思うぐらいの音と衝撃がダンテから放たれ、もの凄い殺気を纏ってバージルに迫る。
驚く
マヤを押し退け、突き出された拳を閻魔刀で受け止めると
「どうやらお前の中の悪魔も目覚めたようだな」
と興味深そうに言った。
刃が刺さっているのにも構わず、ダンテは閻魔刀の刃を鷲掴みにする。
「
マヤを放せ……!!」
「力の制御が出来ない分際で……」
「黙れっ……!!」
さっきの衝撃で雨は雲ごと吹き飛ばされて、また月明かりが皆を照らすが、
マヤは口に手を押さえたまま動けなかった。
―――初めて、ダンテに恐怖を感じた。
いつもの冗談を呟く表情や、あの時見せた微笑みは微塵もなかった。
バージルの言った『悪魔』という言葉が最も今の彼に相応しい。
ダンテは自分の血で真っ赤になった右手で刀ごとバージルを投げ飛ばすが、彼はひらりとたやすく着地するなり、刀に手をかける。
───が、アーカムがそれを制した。
「待て!……ここは退くべきだ。既に目的は果たしている」
そうだ。
目的は弟からアミュレットを奪う事だ。
バージルは刀から手を離し、代わりに恐怖で震える
マヤの肩を強引に掴む。
虚ろな目で、一歩ずつ重たく踏み締めてダンテが距離を詰めて来るが、その姿はまるで別人のよう。
(ダンテ……どうしちゃったの……!?)
歩調に呼応するように、白いオーラが彼を包む。
(確かに……暴走しかけた奴を相手にするのも面倒だな……)
バージルが強引に
マヤを引き寄せた。
「来い」
「っ……!!」
頭の中がぐちゃぐちゃで声が出ない。
涙を流して振り返るも、彼にはいつもの温かさが失われていた。
バージルへの抵抗も敵わず、
マヤはそのままテメンニグルの縁に立たされる。
(飛び降りるの……!?)
途端に目眩を起こすが、バージルが許さないというように強引に抱き寄せてきた。
「お前もあんなダンテの姿を見ていたくはないだろう?」
「!」
核心を突いて簡単に大人しくさせたバージルは返事を聞く事もせず、彼女を腕に抱えてテメンニグルから飛び降りた。
視界に入る、白い威圧を放ちながらこちらを見据える彼に、
マヤは最後に言った。
「ダンテ、信じてるから……!!」
直後、
マヤは意識を飛ばした。
「
マヤッ……」
うなされるように彼女の名を口にするダンテを、アーカムが嬉しそうに見て笑うと、2人に続いて塔から降りる。
取り残されたダンテが、体内から沸き上がる力に耐え切れずに満月に向かって咆哮した瞬間、彼を纏うオーラが真っ赤になり、溢れ出た力と共にダンテの姿が変貌した。
人ならざる、父の血が覚醒した悪魔の姿へと―――。
咆哮が止むと同時にオーラは消え、ダンテはその場に崩れた。
(
マヤ……)
自分を見つめる彼女の、初めて自分に向けた恐怖した瞳がひどく悲しかった。
意識を失ったダンテは先程よりも大きな血溜まりを広げ、そのまま流れる時に身を委ねた。
第6話⇒