第6話〜青い悪魔バージル〜
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誰かが話す事が聞こえた。
でも頭が重く、瞼も開けられないマヤ。
「……まさか君がただの人間を連れてくるとはな」
「恐らくただの人間でない。……後で調べる」
遠くでした声に、真上からの声が答える。
(誰……?)
何とかして瞼を開けると、冷たい青がまず目の前にあった。
ダンテに似た顔立ちだが、こちらの彼はダンテに比べて瞳が鋭いように見受けられる。
「目が覚めたか」
こちらに気づき、淡々と喋る男はバージルだった。
「っ……あなたは……!!」
自分を抱き上げる彼を突っぱねようとするが、意思に反して体に全く力が入らない。
「無理もないな。ただの人間があれだけ長い間、雨に打たれ続けたのだからな」
「雨……?」
思い浮かべる雨の記憶が、何故か赤に染まる。
―――何の赤?
ダンテのコート?
違う、もっと鮮やかなダンテの……。
「!!」
ハッとしてマヤがバージルに問い質した。
「ダンテは!?ダンテはどうしたの!?」
「またそれか」
「あの時……ダンテに何があったの!?悪魔の血って何!?」
バージルが答えない代わりに、アーカムが口を開く。
「君が知る必要はない。ただ彼に従えばいい」
「従えって……私は何も出来ないのに……」
「何も出来ないかどうかは俺が決める」
一向に目を合わせようとしないバージルを一瞥し、今自分達が立つ場所を確認した。
「ここは……?」
「禁断の地だよ。さっきいた、テメンニグルの地下だと思ってくれればいい」
頭の整理が出来ない。
テメンニグルというのは、さっきいた塔の名前で、そこの地下に今いる。
でも地下にしては雰囲気が違うような感じだ。
寧ろあんな高い塔から飛び降りてどうして無事なのか。
「少し考えていろ」
それだけ言うと、バージルはアーカムに続いて歩を進め始める。
改めてマヤが、自分がバージルに抱き抱えられている状態だという事に気づくと、いつものように暴れ出した。
「お、降ろしてっ!!」
この男、髪型は違えどダンテと同じ顔をしているのが厄介だった。
同じ顔で冷酷な態度。
マヤがパニックになる要因としては充分だ。
バージルは胸の中で顔を赤くして喚くマヤを見るなり眉を顰め、面倒そうに彼女を降ろす。
でも解放なんてしてやらない。
左腕でマヤの肩から引き寄せ、僅かに閻魔刀を鞘から抜いた。
数センチの距離にある凶器にマヤは固まる。
「!!」
「逃げようなんて思わない方が身の為だぞ。俺は力を手に入れる為なら、女子供でも容赦なく斬る」
バージルのプレッシャーにマヤは押し黙る。
ごくりと飲み込む唾の味も分からない。
閻魔刀に映る自分の顔は、一変して青ざめていた。
彼は本気だ。
実の弟にすら、平気な顔で剣を突き立てる男だ。
出会ったばかりの自分なら、当然斬り捨てられるはず。
「いいのかね?彼女の力に興味があるんだろう?」
「……フン。ただ警告しただけだ」
警告というより脅しだ。
それでもマヤを威圧するには充分で、腕の中で静かになる彼女を見、バージルは満足した様子。
「人々はこの塔をこう呼んだ。テメンニグル……」
いつの間にか本を開いていたアーカムが言う。
「“恐怖を生み出す土台”と……」
この塔はまだ始まりの段階だと口にするアーカムが嗤った。
「恐怖……そう、恐怖だ」
恐怖という言葉を嬉しそうに口ずさむアーカムを、バージルとマヤは冷たく睨む。
その視線に気づいているのか分からないが、アーカムは本を閉じると数歩下がって扉を見た。
「感じるか?怨念を。怒りを」
扉が独りでに開いて彼らを迎える。
「この地に封じられた哀れな者達。魔の力を求めた彼らと共に、スパーダは魔界への道を封じたのだ」
先が見えない扉の奥の闇に飲み込まれそうで、マヤは思わずバージルの青いコートを掴んだ。
アーカムの言葉に関心がないのか、見上げた先の彼は目を閉じていた。
しばし間を空け、目を開けたバージルはマヤに回してた腕を解き、代わりに彼女のか細い手首を掴んで歩き出す。
(怖い……!でも……私はダンテを待たなきゃ……!)
体中が震えると、唐突にバージルの足が止まった。
「どうした?」
尋ねたのはこちらにではない。
後ろに佇むアーカムにだ。
しかしアーカムは今まで来た道を振り返り、後ろを気にしていた様子だが「……何も」と短く答えるだけだった。