弱々しい背中から、いつもの彼女らしい強さは消えてしまっていた。
「
ジャンヌ……」
どうしていいのか分からず、ビリーはしばらく悩んだ末に俯いた彼女の頭をそっと撫でる。
「……俺は
ジャンヌを足手まといなんて思った事は、たったの一度もない。逆に俺の助けなんて、必要としていないんじゃないかと思っていた。いつもお前は、1人で何とかしようとしていたからな」
「ビリー……」
互いが自分の胸の内を明かす。
互いが相手を尊敬し、自分を卑下していた。
それを知ると何だか恥ずかしくなった。
(ビリーも同じ事を思ってたのね……)
ジャンヌが痛みの引いた肩から手を離すと、パサリと1枚の紙が落ちた。
何だろうと紙を開いてみると、それは護送車が大破していた現場で拾った、ビリー・コーエンの移送指示書。
「あ……」
思わず
ジャンヌの口から声が漏れる。
振り返ってみると、ビリーはそれを見てどことなく悲しい表情を浮かべていた。
(そうだ……。私はこれを拾ったから、ビリーを探しにあの列車に行った……。そして、彼に出会ったんだ―――……)
始めは彼を見つけ次第、連行するつもりだった。
けれど行動を共にする内、その決意はいつの間にか消えていた。
本当にビリーが23人も殺害したのだろうか?
逆にそんな疑問が浮かぶようになったのはいつからだったのか……。
精神科への通院歴も確認されているが、同行中にそんな素振りは全く見せてもいない。
悲痛そうにする彼を見つめる
ジャンヌ。
(今私が……彼にしてあげられる事って……)
そっと瞼を閉じると、
ジャンヌは移送指示書を破り捨てた。
「!!」
驚いて瞳を見開くビリーの前で
ジャンヌは破った紙を重ねては破り、また重ねて破る行為を繰り返した。
「
ジャンヌ……?」
「こんな物……必要ないわ」
手の中の紙くずを、自分が落下しそうになっていた奈落へと捨てながら彼女は言った。
もう
ジャンヌの中に残る第一級犯罪者の影は、これでなくなった。
次にビリーに向き直し、彼女は意を決して言う。
「……ビリー。教えてくれる?真実を……」
彼が凶悪犯だという事に偽りを感じ、
ジャンヌはビリーこそが真実だと確信して続ける。
「本当にあなたが23人も殺したの?私はそうは思えない。本当の事を話して……」
向かい合う
ジャンヌは気概ある声ではなく、か弱い女の声音で切なそうに話す。
そんな彼女の真剣な眼差しにビリーは視線を逸らすが、話までは逸らせそうにない。
ビリーはもう一度彼女の瞳を見直すと僅かに口を開き、天井を仰いだ。
「……今から1年前の事だ……」
その口から語られたのは、あまりにも凄惨で残酷で非情な真実だった―――……。
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