こちらの部屋では男性がベッドに横になっていたが、残念ながらもう息を引き取っていた。
寝ている間に襲われたのだろう、男性とベッドには謎の粘液が付着していた。
「……触らない方がいいわね……」
去り際にふと目に止まったのは、血で汚れ破られた1枚のメモ。
血で読めない部分があるが、閉鎖した施設の再利用を目的とした調査が行われていて、既に現地入りして調査を開始しているが別部隊に手助けを頼みたい……といった内容だ。
「名前が読めない……。片方は多分ウィリアムだと思うけど……もう一人は名前の最初が“ア”ってだけか……」
溜息を吐き、やる瀬ない表情で
ジャンヌはメモを元の場所に戻した。
「もう用はないわね」
ジャンヌは静かに201号室のドアを閉める。
廊下を進んだ先に『車掌室』と表示したドアがあるが、ちっとも開かないしノックをしても応答はない。
(やれやれね……)
しばらく戦闘がなかったからか、少しずつ
ジャンヌに余裕が戻ってきた。
取り敢えず運転室に行けば誰かいるに違いないと考え、
ジャンヌはどんどん前の車両へと進もうとするが……。
「……?ここも開かない……」
ドアの脇にはカードリーダーがある。カードがなければドアは開いてくれないと理解し、また溜息を吐く。
「…………」
立っている左側の血で汚れた壁には乗員の死体が寄りかかっていた。
気にはなっていたが、ゾンビとして襲って来ないのなら銃弾の節約も考え無視をしていた。
でもその手にはキラリと光る、鍵のような物が握られている。
周りの壁の状態を見て、まず彼がゾンビか何かに襲われたに違いなく、触るのにはいくらか抵抗があった。
(……これでたいした事ない物だったら撃ってやる……)
動き出さないか、感染しないかという不安に怯えながら
ジャンヌはナイフを使って手にある物を引っかけ、器用に取る。
チャリンと音を立て、ナイフの先端に引っかかった鍵のタグには『食堂車』とあった。
(この先は運転車両だけだから……食堂車は逆方向ね)
ジャンヌが踵を返そうとしたその瞬間、空気がぴりりと冷たくなった気がした。
突然真後ろに現れた人の気配。
しかもこの音は、引き金を指にかけて自分に銃口を向けている。
(……鍵を取るのに夢中になりすぎちゃったみたいね……)
ジャンヌは自嘲の笑みを浮かべ、武器を手にする事なく振り返ってそこに立っていた人物と対面すると、その笑みは消失する事となる。
見覚えのある、右腕に施された派手なタトゥー。
その反対の腕に付けられた囚人用のブレスレット。
そして移送指示書に載せられた写真と同じ顔の男。
「ビリー・コーエン、少尉……!」
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