───かつて、悪魔でありながら人間の為に剣を取って戦った英雄、伝説の魔剣士……スパーダ。
スパーダは悪魔の世界を封印し、彼は人間の世界で人として生きる事を選んだ。
後にスパーダはエヴァという女性と結ばれ、2人の子供を授かり父となった。
「───俺はその子供の1人さ。だから俺には人間である母さんの血と、悪魔の父さんの血を両方受け継いでいるんだ。さっきの傷が消えたのは、父さんの血……悪魔の血の力だ」
ダンテは続けた。
スパーダが人として生涯を終えたとされた後、悪魔を裏切った彼に復讐をする為に魔帝が率いる悪魔が家族に襲いかかった。
その頃のダンテはまだ幼かった。
だから、力がなかった。
逃げる時の記憶は途切れ途切れなのに、その後の事は残酷な程に鮮明だった。
「……悪魔が去った後、俺だけが生き残ってた。母さんは悪魔共にやられて、兄貴もいなくなっちまった……。そう思ってた」
ダンテは
マヤの手を握る力を少し強めた。
「ところが……1年前に兄貴が現れた。ひょっこり現れるなり、なんて言ったと思う?」
『俺がこの手で魔界を蘇らせる』
「それがこのパーティーを主催した張本人……俺の兄貴、バージルだ」
「ダンテのお兄さん……?」
「ああ。……俺の予想だが、あの塔は魔界と関係してるんだと思う。……今よりもっとヤバイ悪魔が現れるのは間違いない。……それでも……俺と来てくれるか?」
脇に倒れるヘル=バンガードよりも危険な悪魔がうようよいるだろうと、
マヤに促すが彼女からの返事は……。
「ダンテと一緒に行くっ!」
「……え?そんなあっさり決めて大丈夫か?」
「だって、1人でいるよりもダンテと一緒の方が絶対に安全だし……私、ダンテと一緒にいたい!」
連呼される名前と『一緒』という言葉にくらりとする。
甘ったるい言葉で飾り立てられた台詞に嫌気が差していたダンテには、この真っ直ぐで純粋な言葉の方が効果的だった。
ニヤけそうになる顔を見られないよう、
マヤをギュッと抱きしめる。
「OK。一緒に行こうぜ」
すると、今になって手を握られていたのに気づいた
マヤの顔に熱が宿る。
「あっ……ちょっ……ダ、ダンテッ!!」
あたふたとして離れようとする
マヤの仕草に、堪え切れずにダンテは腹を抱えて笑った。
「ハハハッ!!
マヤっ……本っ当、いい奴だな~!」
頭をがしがしと撫でられ、頭に疑問符を浮かべる
マヤ。
「な、何がっ?っていうか、そんなに笑……っ!?」
その時、ダンテの背後で何かが動いた。
「ダンテ、後ろ!!」
マヤの悲鳴でダンテは銃を構える。
倒したと思われたヘル=バンガードが再び起き上がっていたのだ。
「どうやらガッツだけはあるみたいだな!!」
しかしバンガードは逃げるように建物の屋上を転々と移動した。
けたたましい悲鳴を上げながら、現れた時を巻き戻すかのように。
「……逃げた……の?」
「さあな。お喋りが出来ない奴の考えまでは、流石に分からない」
銃をホルスターに戻してダンテが言う。
しかし、違和感に気がつく。
「ん?」
2丁持っていた愛銃が片方しかない。
「エボニーがない……」
すると
マヤが思い出したように声を発した。
「あっ……ごめんなさいっ!!私がさっき……!!」
地面に落としてしまった黒い銃を拾い上げ、彼に申し訳なさそうに返す。
記憶を戻してみれば、さっき負傷した自分を庇った
マヤがバンガードに銃を向けていたなと、その時の事を呼び覚ました。
「
マヤもガッツあるんだな」
「え?」
「悪魔相手に銃を向けるなんて、大の男だって出来ないぜ」
「あ、あの時は必死だったから……!」
「……そうか。それにしても……
マヤも意外と大胆だな。いきなり抱きしめてくるなんて」
「へ?大胆……?抱きし……め……?」
しばしの間が空く。
そしてダンテの思わせぶりな発言を理解すると、かつてない程に顔を真っ赤にした。
「あ、あっ……あれは……そのっ……!!ち、違うのっ!!」
「何が?」
「だっ、だから……!!あっ……えっと……!!」
ダンテは思った。
素直に可愛い、と。
それと、あまりからかうと本当に彼女は爆発してしまうかもしれない……とも。
「……分かったよ。守ろうとしてくれてありがとな」
優しく頭を撫でてやり、ダンテは塔の天辺を睨んだ。
「って訳だバージル!1人分のパーティー料理を追加しておけよ!」
指差されたバージルはその素振りが見えたのか、その台詞が聞こえたのかは分からないが、眉間に深いシワを寄せる。
「さっ、行くぜ
マヤ」
「へ?あ……う、うんっ!」
翻る赤いコートを追いかける
マヤは、無意識に持っていたバッグを肩に掛けて走り出した。
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