―――自分が上に行こう。
決心して相手の名を呼ぶと、その言葉が重なり合い、同時に互いの距離が近いのに気づく。
さっき
ジャンヌがレコーダーに身を寄せたのがきっかけだったらしく、思わず
ジャンヌは紅潮させた顔で慌ててビリーから少しだけ離れた。
「ご、ごめんなさいっ!」
「あ……気にするな。今……何か言おうとしたか?」
話そうとしたのは自分も同じだが、敢えて彼女から話してもらうように促すビリー。
「私が上を調べるって……言おうと思ったの……。ロープの損傷もあるから、私の方がいいと思って……」
ジャンヌの言葉にショックを受けるビリー。
完全に、傷んでいるロープの事を失念してしまっていた。
強引に
ジャンヌを言い聞かせ、自分が茨に飛び込もうとしたのに、無理に自分が行ってロープを切ってしまえば元も子もない。
身を切る思いだが、彼女に上を行ってもらう他に手段はない。
「……分かった。だが準備は万全にするぞ。合流出来るのがいつになるか分からないからな」
そう言ってビリーはその場に座り、装備品を全部出した。
ジャンヌも同じように武器や弾薬を床に広げると、まるでちょっとした露店のような光景になる。
「まず……ヒルがいた時の為に、グレネードはビリーが持った方がいいわね。弾も渡しておくわ」
「なら
ジャンヌにはショットガンだな。ハンターは素早いから、こっちの方が撃ちやすいだろう」
「ハンドガンの弾は……半分ずつがいいわよね」
銃と弾薬の交換や分配が淡々と行われる。
後で失敗がないようにしなければならないので慎重に相談を重ね、漸く準備が整った。
「俺はいつ動いたらいい?」
「そうね……。まずは私が通路を開いて……それからね。でもヒルがいるかもしれないから、焦りは禁物よ。上の調査があらかた済んだら無線を使うから、それまでここで待機していて」
「分かった」
立ち上がった2人は部屋の中を移動して、天井が抜けた場所で足を止めた。
上に開いた大きめの穴からは、頼りなさげなロープが垂れている。
ジャンヌが顔を顰めてロープを引くが、一応何かに括り付けられているようで、強い手応えはあった。
「途中で切れないか不安だわ」
「落ちても受け止めてやるから、安心していいぞ」
さらりと冗談を言うと、
ジャンヌに呆れられたように睨まれる。
「私はそんな冗談にいちいち答えないわよ」
軽くあしらおうと
ジャンヌが言うが、ビリーは何故か口角を上げて彼女を見つめた。
「やっと
ジャンヌらしくなったな」
「えっ?」
「ずっと眉間を寄せて、不安そうな顔ばっかりしてたぞ」
図星を突かれ、つい握っていたロープから手を放して彼に言い迫る
ジャンヌ。
「あ、当たり前でしょう!こんな状況なんだもの!」
「“こんな状況”なんて、とっくの前からだっただろう。……他に何か不安に感じてる事でもあるんじゃないのか?」
「!」
隠そうとしていた不安が見抜かれてショックを受ける。
そしてどうせバレてるなら……と、観念したように
ジャンヌが言葉を紡ぐ。
「……さっきエレベーターに乗ってたら、この先1人になりそうって感じてたの……。それが本当になるから、余計に不安になって……」
「確かに分かれての行動になるが、また合流は出来る。そんなに心配する事はないだろう?」
「でも……このまま会えなくなったらって思ったら……」
「……
ジャンヌ」
不意にビリーが
ジャンヌの肩を掴み、鋭い瞳で彼女を見つめた。
「俺はまだやらなきゃいけない事がある。だからこんな場所で死んだりしない。……お前もだ、
ジャンヌ。どちらかだけじゃダメだ。2人一緒に、ここから脱出するんだ。いいな?」
「ビリー……。……そう……よね。ごめんなさい。弱音なんか吐いちゃって……」
目を伏せて謝罪の言葉を述べると、頭をぽんぽんと柔らかく叩かれた。
「たまにならいい。……気をつけて行けよ」
「……了解。それじゃあ……行って来るわ」
吐き出した不安。
それをなくした
ジャンヌはショットガンを肩に掛け、ロープを手繰って上層へと登って行った。
一時の別れ。
そう信じていた2人だったが、後に無残に引き裂かれてしまうのを、彼らはまだ知らない―――……。
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