離別
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廊下に出たすぐ正面にスイッチが設置されていた。
何とも分かりやすい様子にジャンヌはシニカルな笑みを浮かべてそれを押すと、下を見下ろせる柵が轟々と音を立てて迫り上がる。
人型ヒルがいるか確認をしたいが、ジャンヌの位置からは下が見えなくなってしまったので、取り敢えず先にビリーに無線を飛ばした。
「ビリー、吹き抜け廊下のスイッチを押したわ。多分これで進めるとは思うけど、ヒルがいるかもしれないから気をつけて」
「了解した。もう行動した方がいいか?」
「あっ……。もう少し待機してて。まだ鍵らしい物を見つけてないの」
「ああ。じゃあ何か収穫があったら連絡してくれ」
「OK。……さてと」
通信を切ってジャンヌは廊下の先を見つめる。
L字型の廊下の先には扉が2つ。
手前は『機械室』で奥に『マーカス研究室』とプレートにある。
(マーカスの研究室に飼育室の鍵があるんだったわね……。それで、飼育室にいるハンターがダイヤルを持ってて、そのダイヤルが別の扉の鍵で……)
鍵が必要な場所に鍵があるというややこしい流れに、ジャンヌは頭を掻きながら溜息を吐く。
取り敢えず機械室は後回しにしてジャンヌはマーカスの研究室へと赴いた。
入るなり、銃声が通ったばかりの廊下に響く。
部屋に入った途端にゾンビとして蘇った死体に演出を感じ、自嘲を込めた笑みを浮かべて部屋を調査するジャンヌ。
ところが、どこを探しても鍵らしい物は一向に見つからない。
まだ資料室の死体がゾンビになっていないから、古い情報ではないはずなのだが……。
「他に探してない場所は……」
ジャンヌが部屋を見渡し、ある場所で視線を止めた。
見て分かる程の危険な色に染められた、グローブボックスの中だ。
しかし安全装置が働いてドアは開かない。
中のガスを浄化しなければならないようだ。
「何か説明書とかないのかしら……。多分滅菌剤みたいなのがあるはずなんだけど……」
今度は鍵でなく、資料を探す為にデスクを総ざらいするジャンヌ。
あれでもない、これでもないと、関係のない紙切れは容赦なく床に捨てられる。
徐々に汚くなる床に反して机の上は綺麗になっていく。
ジャンヌが資料室にならあるかもしれないと思った時、ある物が目に止まる。
この研究所の管理人の日記の中に、所長の名前が出されていたからだ。
「……“マーカス所長に頼まれてプラットホーム入口のパスワードを変更した。その後で、所長にパスワードの由来を聞いてみた。なんでも自分の子供の成長記録から取ってきたそうだ”……か。プラットホームって事は、何か乗り物があるのね」
脱出の糸口を見つけたジャンヌは再び無線を繋げた。
待機、と言われても特に出来る事がないビリーは、さっきのクリーチャーに関しての資料を見るしかなかった。
手持ち無沙汰な状況の中、また無線から彼女の声がする。
「ビリー、聞こえる?」
少し間延びした声にビリーも同じような口調で返す。
「ああ。何か収穫があったのか?」
「少しね。今研究室まで来たんだけど、飼育室の鍵を見つけるまでには、もう少し時間がかかりそうなの。それで……ちょっと気になる資料を見つけたの」
「気になる資料?」
「どうやら別の場所に繋がる乗り物があるみたいなの。それで脱出は出来そうなんだけど、ホームに行くにはパスワードが必要らしくて……」
ジャンヌは音声メモの内容からも推理し、プラットホームの鍵が恐らくダイヤルで、パスワードはマーカスの子供がヒントになっている事を伝える。
「だけど日記によると、マーカスは子供は疎か、結婚もしてないみたいなの。言葉の意味そのままじゃないみたいよ」
「子供……か。分かった。こっちでも調べてみる」
そう言って無線を切るビリー。
そんな彼の背後から、突然何者かの腕が伸ばされる。
「!!?」
咄嗟に振り返れば、調査隊員のゾンビが目の前にまで迫り、彼の生き肉を喰らおうとしていた。
銃を向ける前に間違いなく喰われると察し、肉弾戦で蹴りを放つと、立つ事よりも“喰う事”しか思考にないゾンビはあっさりと倒れる。
だが活動は停止してはいない。
距離を確保したビリーはカスタムハンドガンを床に臥すゾンビに向けて引き金を引いた。
(恩を仇で返すようなマネをして……すまない……)
脱出する為のヒントをくれた彼に銃を向けるなんて、と申し訳ない気持ちが湧くが、生きる為には心苦しいが仕方ない。
それに、彼が“本当の”化け物になる前に止める事が恩返しだろう……。
滅菌剤がない以上、この研究室で出来る事はもうなさそうだ。
入って来たのとは別の扉の部屋で調査をする為にドアの前に立つジャンヌだが、プレートの文字を見てしばらく停止してしまう。
『手術室』
「…………」
青い瞳でドアを睨む。
医療現場でない施設にある手術室なんて、ろくでもない事に利用していたに間違いない。
ジャンヌの脳裏に、養成所地下の嫌な思い出が過ぎる。
だがこんな場所で立ち止まる訳にはいかない。
もうひと踏ん張りで脱出が出来そうなのだから。
「……よしっ」
肝を据えて扉を蹴破るジャンヌ。
そんな彼女を迎えるのは、武装した兵士のゾンビが2人。
「調査隊の一部……?って、聞いたところで答えてはくれないわよね……!」
覚束ない足取りで近づくゾンビに銃弾を撃ち込むが、爆薬に当てないように注意しようとすればする程、照準がブレてしまう。
逃げ場のない状況に流石のジャンヌも焦りを感じた頃、漸くゾンビは息絶えた。
部屋を進むと、小さなエレベーターを発見する。
そういえば……と思い出した記憶は、ビリーと別れた資料室と小型エレベーターが繋がっていると、音声メモで語られていた事だ。
(まずは部屋を一通り調べてみるか……)
彼には待機するように言ってあるから、戦闘しているはずがないし、報告は調査が済んでからで大丈夫だろうとジャンヌは考える。
……まさかビリーが安全だと思っていた資料室で、しかもさっきの通信終了直後にゾンビに襲われたとは夢更思わず。