第2話〜地獄の門番ケルベロス〜
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「このお店に入るの?」
「ああ。通りが塞がってるからな。店内が隣の店と繋がってるから、それを使って塔に近づく」
「お店が繋がってて良かったね」
(俺1人だったら、繋がってなくても壁を壊して進むけどな)
そんな物騒な事は、口が裂けても彼女には言える訳がない。
いつの間にか離れていたマヤはブルズアイのドアを押して入ろうとしていたが、ドアの向きは逆だ。
「マヤ。開け方が違うぜ」
そう言いながらドアを引いてやると、ぷうっと頬を膨らませて睨まれた。
「違うって気づいたら引くつもりだったもんっ!」
「ハハハッ。そりゃあ悪い事をしたな。……ではプリンセス、中へどうぞ」
エスコート気分でマヤを案内するが、彼女は頭だけ入れて踏み入れようとはしない。
「どうした?」
「だ、だって悪魔がいたら怖いんだもん……」
それもそうだとダンテも一緒に入ってみるが、店の中もすっかり物寂しい雰囲気になってしまっていた。
置き去りの酒のボトル達だけが、ぽつんと2人を出迎える。
「……お酒臭い」
「酒は苦手か?」
「少しは飲めるけど、カクテル以外は無理……。匂いが強いのはそれだけでクラクラしちゃうの」
「それじゃあ長居はしない方がいいな」
足早にブルズアイを抜けようとするも、ダンテの足が止まった。
急ごうと言ったのにどうしたのかとマヤが首を傾げると、前触れもなしにダンテは手を伸ばして飾られた物を手にした。
「マヤ、ほらよ」
「え?わわっ!?」
動転する彼女に投げ渡されたのは、なんと猟銃。
「な、何これ!?」
「ん?何って……ショットガン」
「じゃなくて!!私にこれでどうしろとっ!?」
「銃は撃つもんだろ。護身用だよ」
「ご、護身用って……!!私、銃なんて触った事ないよ~!!」
「さっき俺の銃に触っただろ」
「無理!!撃ち方も分からないもん!!」
「……はあ、注文は俺じゃなくてマスターにしてくれよな。……マヤ、こっち」
頑なに無理だ無茶だと主張するマヤの腕を掴むなり、自分の方に引き寄せるダンテ。
漸く彼女が自分の腕の中にいる満足感に満たされるが、名残惜しげに彼女の向きを変えさせる。
「なに、怖い事はない。銃も自分の体の一部だと思えばいい」
不慣れにショットガンを持つマヤの手を上から包む。
「マヤは右利きか?」
「え?あっ……うんっ」
「OK。なら引き金はこっちの指で……」
落ち着いた声色のダンテと、真逆に裏返った声で返事をするマヤ。
密着されるのが苦手なのを分かってやっているのか、耳元で囁くようにダンテにアドバイスをされ、マヤは爆発寸前だった。
(も、もう限界っ……!!)
強引に腕の中から抜け出そうとした時、手にしていたショットガンの銃口が上げられる。
「あの壁の絵があるだろ?あれを的だと思うんだ」
練習、と付け足された途端に緊張が走る。
こんな物騒な物を使う日が来ない事を願うが、今の状況ではまず無理だろう。
初めて銃を撃つという事に、緊張からカタカタとマヤの手が震える。
「……怖がらなくていい。俺が一緒だ」
「!」
マヤの胸がぴょんと跳ねた。
「ショットガンは散弾銃だ。だから少しぐらい照準がズレても問題はない。あと、足は少し開いておけ」
「は、はいっ」
「……少し照準が上すぎるな。気持ち、銃を下げていいぜ」
「す、すみませんっ」
変に他人行儀な返答にダンテは笑うが、手は彼女のと添えたまま。
「心の準備はいいか?」
「う……うんっ」
「OK。じゃあ……あとは引き金を引くだけでクリアだ」
キッとした瞳で的を睨む。
汗が頬を伝う。
唾を飲み込み、意を決したマヤは引き金にかけた指に力を込める。
そして――――。
『ガゥンッ!!』
「わあっ!?」
発砲した瞬間に絵が木っ端微塵になり、反動で思わずよろけそうになるが、マヤの体はダンテに受け止められた。
「ジャックポット!初めてにしちゃあ上出来だ!」
「……本当?」
「ああ。あとは、撃った反動が強いから足を前後に開いて踏ん張るか……壁を背にするかだな」
「銃を扱うって難しいんだね。……ところでダンテ、『ジャックポット』って何?」
マヤがまだ聞き慣れていない、ダンテの決め台詞について尋ねられる。
「そうだな……。つまりは『大当たり』って意味だ。この言葉が好きで、俺は決め台詞に使ってる」
「へ~!大当たり……ジャックポットか~!カッコイイね!」
「マヤも使うか?」
一緒に同じ決め台詞を……と提案されるが、マヤは首を横に振ってこう言った。
「カッコいいダンテにピッタリの台詞だから、私はいいよ」
勿体ないお言葉です、と添えると……。
「っ……マヤ……お前って奴は~!!」
「ふあっ!?」
抱きつかれた。
「本当に可愛い奴だな~!」
「やっ……だ、だから私は可愛くなんかないってば~!!」
「分かってないな~。人ってのは、心が体を綺麗にするんだぜ?」
「……じゃあ……」
「ん?」
「心が綺麗だから、ダンテはそんなにカッコイイんだね」
「…………」
マヤは確信犯かと思った瞬間だった。
純粋な言動が、まさにダンテにとってジャックポット。
(……あ~、神様。マヤを俺の所にトリップさせてくれてありがとう)
普段祈る事のない神様に、今だけ心の中で感謝するダンテは、前触れもなしに腕の中で微笑む彼女に顔を寄せた。
ところが……。
「きゃーっ!!」
唐突に逃げられた。
(え……?俺……嫌われてる?)
途端に心が痛み、極寒の冷たさを体に覚えるダンテにマヤが言い放つ。
「ダ……ダメだよダンテ!!」
「は?」
「そのっ……こ、こっちの世界では、スキンシップの1つかもしれないけど、私の世界では……その……ダ、ダメだからっ!!」
(―――あっ、俺はキスしようと思われたのか)
確かに正解だが、それは綺麗な前髪にしようとしただけだった。
なのにそれ程までに拒否されると、流石のダンテも傷つく。
でも彼女の事だ。
ダンテにというより、キス自体が恥ずかしいのではないか……と察する。
(初なプリンセスには強い刺激って訳か。忘れないようにしないとな)
口元を手で隠して溜息を吐く。
「怯えないでくれって。マヤがそんな顔を向けるのは、悪魔共だけで充分だぜ?」
「ご、ごめんね……。ビックリしちゃって……」
マヤはしゅんと俯いた。
「俺も驚かせちまったな。ゴメンな。……さ、早いところパーティー会場に行こうぜ」
「うん!」
漸く本来の笑顔になってくれたマヤに、ダンテの機嫌も上々になる。
その勢いでブルズアイと隣の店との扉を開くが、『しまった』という表情に一変した。
酒場の隣はラブプラネットという店で、極端に言うなれば猥りがわしい店である。