暴君
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ロープウェイを降りると、別施設の建物が彼女を迎えた。
一番近くの扉を開こうとするが、反対側からロックされているようで通る事は叶わない。
そのドアを背にして見える、長めの階段上にも扉がある。
慎重に登り、ドアに手をかけるジャンヌ。
勢いよく扉を開くと、壁に当たったドアの音が反響した。
「工場……かしら……?」
久しぶりに見上げられた空は変わらず夜のままで、礼拝堂のあった研究所の雷雲は遠くに見える。
無造作に残されたドラム缶も錆びていて、中身が何なのか確認も出来そうにない。
「取り敢えず水路を探さなきゃ……」
ジャンヌはぐるりと辺りを見渡し、ぽっかりと空いた場所から下を見下ろすと、ターンテーブルが見える。
どうやら操車場のようだ。
「ここからは行けないか……」
飛び降りるなんて事は不可能。
となると、ジャンヌが出来る事は他の道を探す事のみ。
この操車場には、入って来たのとは別の扉が1枚しかない。
「パネル室……」
ドアに書かれた文字を読み上げ、ゆっくりと扉を開くジャンヌ。
幸い中は平穏なる無人だった。
壁に貼られた地図と一緒に、コルクボードにはいくつかのメモがある。
新人の職員の覚え書きらしいメモには
『ターンテーブル起動の際は、リフトに乗って外通路を渡り、モニター室にてキーを用意する事。なお、キーを使用する際は上司の許可を取る事』
と、丁寧な字で書かれていた。
メモをボードから剥がし、ジャンヌはポケットに仕舞う。
他に手がかりになる物がないか部屋を見回すが、作業用のヘルメットぐらいしか残されていない。
(流石にヘルメットを被って、この先を進む訳にはいかないわよね)
冗談半分に考えながらパネル室を出るジャンヌは、操車場の片隅にあった1人分の小さなリフトに乗り込んで、ターンテーブルを動かす為のキーを取りに進む。
少し暗がりなモニター室前通路は、2人分の幅しかない程に狭かった。
ジャンヌが歩く度に網状の床が鉄の音を鳴らす。
他に聞こえる音はない。
部屋の中にある気配も、彼女のものだけだ。
狭い通路の曲がり角を3つ越えると、モニターとそれと連動している機械のある場所まで辿り着いた。
6つあるモニターの内、1つが何かを映しているのでジャンヌは画面に顔を近づけた。
「何なの、これ……!?」
どこのものを映し出しているのかは知る術がないが、『P-tyrant』と書かれたカプセルに入った人型の生物が映っている。
モニター越しでも伝わる兵器のような凶暴さに、ジャンヌは恐怖を感じた。
(……まさか……この施設もウィルスの研究を……?)
ゼロではない可能性にジャンヌは冷汗を流すが、今はビリーを捜す事が先決だと、手元のボタンに手を伸ばす。
「他の場所は映らないかしら……」
運よくビリーの姿を確認出来ないかとボタンを切り替えると、色々な景色が映し出された。
吹き抜けになった建物に、ターンテーブル。
短い橋と機械が並んだ部屋……。
「ビリー……。ビリーはいないの……!?」
焦りからスイッチを押す指は引っ切りなしに連打を繰り返す。
ところが、ある画面に切り替わった瞬間に手が止まった。
見覚えのある場所に黒い影が長い爪を携えて走っている映像に背筋が凍りつき、ジャンヌはすぐさまグレネードを構えて振り返ってトリガーを引いた。
「ギシャアアアアアッ!!」
飛びかかるハンターに着弾させ、先手で奇襲攻撃を封じる事に成功するも、戦いにくい地形にジャンヌは苦渋の表情を浮かべた。
(ここで戦うのは不利だわ……!逃げるのを選んだ方が適切ね……!!)
まだ活動を続けようと呻くハンターを睨むと、ジャンヌは壁にかけられたターンテーブルの鍵を掴み取って狭い通路を必死に駆ける。
さっきよりも速いテンポで足音が部屋に響く。
「一体どこから現れたのよっ……!?まさか扉から……っ!?」
もう少しで部屋から出られると思った直後に、天井の鉄板が轟音を立てて落下して来た。
顔を強張らせるジャンヌは、落ちて来た鉄板に乗る狩人と睨み合う。
「待ち伏せなんて悪趣味ね……!」
ちらっと後ろを確認すると、さっきのハンターはまだ苦しんでいる。
(こっちのをどうにかすれば……!)
ジャンヌが再び天井から現れたハンターに目を向けると、姿勢を低くして金切り声を上げて飛びかかって来た。
「!?」
無意識に体が後退すると、ハンターの長い爪が目の前を空振りする。
完全に狙われていた首に尋常でない渇きを覚えるが、すぐにグレネードを発砲するジャンヌ。
強力な弾を撃ち込まれて勢いよく吹き飛ぶハンターが床に落下したところを、彼女は脇を潜り抜けて駆けた。
のたうつハンターは反撃の余地もなく、ジャンヌの逃亡を許すのだった。
パネル室に戻ったジャンヌは地図を確認していた。
「ロープウェイの進路と川の流れの方向は一緒だから……ビリーが流されたとすると、この方角よね……」
だが地図には水路の事まで書かれていない。
そしてこの工場に、水路に関わる施設もなかった。
もしかしたら彼は自分の手が届かない所にまで流されてしまったのでは……。
そう思うと不安が込み上げ、全身に冷たさが走る。
無理矢理に『そんな事はない』と己に言い聞かせ、ジャンヌは手に入れた鍵を機械に差し込んだ。
(私がビリーが無事だと信じなくちゃ……。だって……)
『2人一緒に、ここから脱出するんだ』
律儀で義理堅い彼がそう言ったのだ。
『協力しよう』と口先だけで交わした約束にも、ビリーは自らの危険を顧みずに助けてくれた。
その彼が自分が言った事を守らないはずがない。
(私が信じなきゃ……。ビリーはこんな事ぐらいで倒れたりはしないわ……!)
地図を握り締め、ジャンヌは機械を起動させてパネル室を後にした。