とにかく地下へ。
そう考えた
ジャンヌは、エレベーターで行ける最下層のボタンを選んだ。
壁の表には『処理場地下5階』とある。
(処理場なら、水路があるかしら……)
壁に寄りかかり、ずるずるとしゃがむ
ジャンヌ。
タイラントを倒した安堵からか、今頃になって自分で傷つけた手の甲が酷く痛み出す。
(結構無茶しちゃったわね……)
ポーチからハンカチを出して甲を止血しようとするが、どうにもやりにくい。
膝と口を使って何とか作業を終えると、大きな溜息を吐く。
(そういえば……)
そっと、ビリーが巻いてくれた包帯に手を伸ばす
ジャンヌ。
優しく丁寧に結ばれたそれに比べ、自分が今巻いたハンカチの不格好さに、つい吹き出した。
「……よし!」
疲れを吹き飛ばすように顔を上げ、エレベーターが地下に到達するのを待つ
ジャンヌはマグナムを強く握った。
―――彼女は気づいていなかったが、エレベーターの中の監視カメラが起動していた。
カメラ越しに
ジャンヌを見るのは、あのマーカスに似た謎の青年。
「遊びは終わりだ」
囁く青年が伸ばした腕にヒルが這う。
「もっと楽しませてもらいたかったが……君達には消えてもらう」
数々のクリーチャーを倒した
ジャンヌとビリーの様子を常に見張っていた彼から、2人を排除を予告する言葉が出た。
「私の復讐に邪魔なのでね……」
目的であるアンブレラへの復讐遂行の為に、2人は妨げになると判断した青年は、ヒルを我が子のように撫でて呟く。
その影が忍び寄るのはすぐの事だった。
合図が鳴ると、エレベーターは降下を止めた。
「着いたのね……」
水路を探すべくエレベーターから出ると、小さな連絡通路に出た。
轟々たる音を耳にすると、通路の下が水路なのを悟る
ジャンヌ。
(ここに繋がってないかしら……)
上流から下流に視線を移した時、
ジャンヌは顔を真っ青にして柵に飛びかかった。
激しい水流の中、障害物に引っかかって何かが浮かんでいるのが見えた途端、血の気が引く。
「ビリーッ!!」
間違いない。
俯せになっていて顔は分からないが、背格好やタトゥーを見れば一目瞭然。
「ビリー!!っ……どうしよう……!!どこか降りる場所は……!?」
すると自分の足ががくがくと情けなく震え出す。
無意識に『水に入る』という事から、過去の恐怖を蘇らせているようだ。
(何を怖がってるのよ!?今はそんな場合じゃないでしょう!?)
首を乱暴に振って、もう一度水路に降りられそうな場所を探そうと柵から見下ろした時だった。
ビリーの傍で、大きな何かがザブンと波を立てた。
「!?」
一瞬しか見えなかったが、ヒルの集合体にも思えたそれは水中に潜ると、かろうじて激しい流れに耐えるビリーに狙いを定める。
虫の知らせに似た第六感で、ビリーの危機を察した
ジャンヌがおろおろとして辺りを見回す。
(どうしよう……どうしよう……!!)
連絡通路はエレベーターと次の建物を結ぶだけの役割で、それ以外は何も担っていない。
段々と
ジャンヌの息が乱れる。
「ビリー……!!」
ぐしゃぐしゃな思考のままに叫んだ時、プラットホームで味わった絶望感がまた彼女を襲った。
水中からの突進にビリーの体が突き上げられ、彼は再び激流へと飲まれてしまう。
「―――……!!」
声にならない悲鳴。
もがくビリーは、そのまま見えない闇へと消えて行った。
「ビリーーーッ!!」
やっと絞り出した声も、精一杯伸ばした腕も、決して届かなかった。
膝を付き、銃を柵に叩きつけて吠える
ジャンヌ。
「どうして……!?どうしてなのよォ!!」
(やっと見つけられたのに……!!もう少しで助けられるはずだったのに……!!)
悔しさから涙がとめどなく流れる。
動けないビリーを狙った卑劣な攻撃と、自分の不甲斐なさを理由に……。
―――けれども泣いてる暇は彼女にない。
泣いてる時間があれば、自分は先へ進まなければならないのだ。
ごしごしと涙を浮かべる目を擦り、ビリーが流された場所をしっかり見据える。
「待ってて……!今行くから……!!」
(今まであなたがしてくれたように、私も必ず助けるから……!!)
強くした決心を胸に、
ジャンヌは処理場へと駆け出した。
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