再会
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少しの沈黙を挟み、ビリーがジャンヌに尋ねた。
「あの後……何があったんだ?」
頭を撫でられながらの質問に、そっとジャンヌは答える。
「ロープウェイに乗って、工場に着いたわ……。そうしたら研究施設みたいな場所に行けたんだけど、閉鎖中で入れなかったの……。その後―――……」
ジャンヌは1人での探索した事を淡々と話した。
プロトタイラントとの戦闘。
一度は見つけられたビリーが謎の敵に襲われ、また引き離されてしまった事。
最後と思われる、人型ヒルとの戦い。
そして、貯水室でビリーと再会出来た事までを。
聞く分には数分の出来事だが、実際に彼女が味わった苦労や苦痛は、どれ程のものだったのだろう。
「ジャンヌ……つらかったか?」
「……うん。情けないけど、本音はね。でもそんな事、もうどうでもいいわ。こうしてビリーを助けられたんだもの」
数々の艱難も『そんな事』と片づけ、彼の体温に安心したように言う。
ビリーは安らぐ表情のジャンヌを見つめながら色々考えると、不意に湧いた質問を投げかけた。
「……ジャンヌ、あの時……」
(あの時……貯水室まで流れ着いた俺を助けてくれた時……)
「何?」
ところが小首を傾げるジャンヌの顔を見つめた途端に、口ごもってしまって続きの言葉が出て来ない。
「……いや、何でもない」
下手なはぐらかしにも、ジャンヌは
「変なビリーね」
と柔らかく微笑んだ。
そんな彼女が姿勢を変えようと身じろぎした時、思い出したようにジャンヌが言う。
「そうだ……。はい、ビリーの銃」
エリミネーターに襲われた時に落としたはずの愛銃が手渡された。
「持っててくれたのか?」
「当たり前じゃない」
武器だからでなく、ビリーのだから。
みなまで言わずとも理解してくれるだろうと、ジャンヌはそこで言葉を終わらせる。
「……ありがとう」
そう感謝しながら綺麗な髪を撫でると
「ふふ、くすぐったいわ」
と無邪気な笑顔を向けられた。
撫でられた感触と、感謝の言葉の両方の意味の『くすぐったい』にビリーは微笑み、ジャンヌの体を抱き直す。
「疲れてるだろ?少し寝てろ。俺が見張っててやるから」
「でも……」
「少尉の命令が聞けないのか?クルード准尉」
列車で一緒に行動しようと持ちかけた時、ジャンヌは自分にこう言った。
『お嬢さんて呼ばないで!』
『ジャンヌ・クルード。クルード“准尉”って呼んでくれても構わないですけどね!』
そんなたわいのない会話すら、今では懐かしく思える。
階級的にもジャンヌはビリーの下だし、自ら呼べと言った名称で言われては……と、溜息を1つして
「了解しました。コーエン少尉」
と、少尉に体を預けた。
いつの間にか服も大分乾き、体も温まっていたせいか、眠るにはいい条件が揃っている。
加えてビリーが頭を撫でるものだから、もうジャンヌは瞼を閉じるしか術がない。
(ずるいんだから……)
少しだけ悔しがりながら、ゆっくりと船を漕ぎ出して眠りの世界へ旅立つジャンヌ。
そんな彼女に優しい微笑みを向けるビリーだった。
安心して眠る彼女の寝顔を穏やかに見つめ、さっき尋ねようとした事を思い返した。
起こさないよう、親指でジャンヌの唇をそっとなぞる。
形の良い唇には、艶を出す淡いピンク色のグロスが塗られていた。
そして手の甲で自分の唇を軽く拭うと、同じ艶が手に付く。
「…………」
―――やっぱりそうか。
正直、彼女には寝ていてもらって良かった。
と言うのも、らしくなく耳まで赤くなっているだろうからだ。
ビリーは困ったように眉を下げつつ、口元に手をやって長い息を吐く。
「参ったな……」
ジャンヌは自分を精神的にも救ってくれたが、まさか人工呼吸までしてくれたとは……。
しかしそこまでしてくれた事が、とても嬉しくて堪らないのも事実。
「本当……パートナーがお前で良かったよ、ジャンヌ……」
胸の中で穏やかに眠るジャンヌの寝顔に、次第にビリーの真剣な顔が近づく。
完全に無意識の行動だった。
次第に2人の唇の距離が縮む。
20センチ。
15センチ。
10センチ。
5センチ……。
―――ところが、そこでビリーの動きが止まった。
少し間を置いて、また離れる。
(今の俺には、まだ資格はないな……)
生きて脱出した時までのお預けだと自分に言い聞かせ、元の体勢に直った。
「ビリー……」
「!」
名前を呼ばれて驚くが、ジャンヌは身じろぎをしてまた寝息を立てる。
(寝言だったか……。……どんな夢を見てるんだろうな……)
せめて夢の中だけでも、自分と幸せでいてほしいと切に願う。
「……ジャンヌ」
体を寄せ、耳元で口を開く。
「―――…………」
決して眠っている彼女に聞こえない思いを呟き、ビリーは優しく抱きしめた。
―――今の言葉は、いつかきっと彼女と向かい合って伝えよう。
そしてその時を迎える為に、共に生きて脱出しよう。
ビリーはそう胸に誓いを立て、もう一度だけジャンヌの手の甲に羽根のような口づけをした。
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