咆哮[前編]
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部屋に入ると、二段ベッドがいくつか並べられていた。
処理場で働く作業員の寄宿舎のようだ。
「一息つくには、丁度いいな」
そう言ってビリーがベッドに腰かけたその時だった。
「だ……誰だっ!?」
「!?」
頭上から声が落ちて来た。
条件反射で拳銃を向けると、次は狼狽えたような悲鳴。
「う、撃たないでくれっ!!」
「えっ……?う、嘘……!?」
ビリーが座ったベッドの上段からした声の主は、毛布を頭から被って、こちらを見下ろしていた。
その両手は投降を示すように天井に上げられている。
「し、信じられない……。まさかこんな場所に生存者がいるなんて……!」
ジャンヌが驚きの中に呆れを含んで呟くと、まずビリーが銃を仕舞った。
「驚かせてすまない。俺達は無害だ」
「あなたと少し話がしたいの。良かったら降りて来てもらえるかしら?」
いきなり銃を向けた事を謝罪し、他の武器もベッドや床に置くと、やっと毛布の中の男が全貌を現す。
亜麻色の清潔感のある短い髪を震わせ、少し垂れた敵意を消し切れていない青い瞳でこちらを睨む男は、間を置いて漸く上のベッドから降りて来た。
「……アンタ達は何だ?そんな物騒なモンをたくさん持って……」
「俺達はここから出る為に中を調べていたんだ」
「私達、ウィルスの汚染事件に巻き込まれたの。武器はそれに感染した化け物と戦う為のものよ」
「ウィルス?化け物って……」
男の顔が曇る。
「信じられないと思うが、この近辺の建物は全部ウィルスに汚染されてて、まともな人間は俺達ぐらいなもんだ。他は全部化け物だけだぜ」
「う……嘘だろ!?そんな冗談……!!」
「嘘だと思うなら……この通路の先まで戻る?そうしたら、本当の怪物が見られるわよ」
動かないけどね、と付け足されるが『とんでもない!!』と、男は首をぶんぶん振った。
まるで自分は違う世界にいるのでは……と男が唸る。
「最初はショックが大きいと思うが……もう“信じろ”としか言いようがないな」
「確かに、酷なのは承知だけどね。……そういえば、まだ自己紹介してなかったわね。私はジャンヌ、よろしく」
「俺はビリーだ。アンタは?」
「……キース。キース・ホワイト……」
キースと名乗る男は、2人の名前を耳にしてやっと警戒を解いた。
そうして要約した事態を説明するけれど、キースは驚いて口をポカンと開けたまま2人を見つめるだけ。
どう見ても、処理が追いついていない様子だ。
そこでジャンヌはこちらが話してばかりだったので、話し手をキースにバトンタッチする事にする。
「キースはどうしてこんな場所に……寧ろ、よく無事だったわね。だって、この部屋の手前にもハンターがいたのに……」
「俺は……、っ……分からない……」
「え?」
「どうしてここにいるのか、全く覚えてないんだ……」
頭を抱え、不安を露にするキース。
ジャンヌとビリーも顔を見合わせ、話題を変える事にした。
「と……とにかく、無事で良かったわ。生存者がいただけで嬉しいもの」
「キースも俺達と一緒に行かないか?出来るだけの安全は保障する」
ビリーの提案にキースが悩む。
突然の提案だし、なかなか答えが出しづらいのだろう。
ジャンヌはそう考え、キースに声をかけようとしたところ、彼の胸元に金色に輝くチェーンを見つけた。
「その首飾り……ペンダント?」
視線を向けられたキースが自分の胸元を見る。
「ああ。一応ロケットになってるんだ」
鎖を引っ張ってペンダントを出すと、パチッとロケットを開いた。
中の写真は、そばかすがチャームポイントの三つ編みの女性。
手には白い花を添えている。
「この人は?」
「……俺の恋人のサラだ」
「へえ」
照れたように言うキースは余程彼女が大切なのだろう、写真を見ただけで笑顔になった。
「キースはサラの事が好きなのね」
「あ……当たり前だろ!!こ、婚約だってしてるんだからっ!!」
顔を真っ赤にしてキースが言えば、ジャンヌ達も『まさかこんな場所で、そんな話題を聞くとは思わなかった』と驚いて笑う。