咆哮[後編]
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振り向く暇も与えずに硫酸弾が撃ち込まれると、プロトタイラントの白い皮膚が音を立てて焼けていった。
ウィルス投与のせいで元からボロボロだった肌が、より酷く爛れる。
しかしタイラントは痛感がないのか、痛々しい体を引きずって迫って来た。
一歩。
また一歩。
決して軽くはない足取りで暴君が迫る。
(コイツも人を素体にした怪物なら、頭を狙えばいいのか……!?)
狙いが定まらず、銃口が揺れた。
その時、乾いた銃声が響く。
ビリーがハッと目を見開くと、タイラントの剥き出しの心臓に小さな風穴が空いていた。
―――ジャンヌが撃ったんだ。
彼女の方へ視線を移すと、辛うじて残る梯子に膝を引っかけ、逆立ちの状態でマグナムを構えていた。
そしてタイラントはビリーを睨むように立ち尽くしたかと思えば、俄かに俯せに倒れる。
安全が確認された上でビリーが彼女の所に行くが、梯子は届かない高さでなくなっていたので、彼が上層に行く事は叶わなかった。
まだ逆立ちのままのジャンヌに上を調べてもらうように伝えれば、代わりにマグナムと銃弾の入った箱を投げ渡される。
「弾の補充、頼んでいい?もうほとんど入ってないの」
「分かった。上は任せた」
「了解」
腹筋の要領で起き上がり、梯子を掴んで楽々と登る動きはやはり彼女も軍人だと感じさせる。
そして程なく、ひょこっとジャンヌが穴から顔を覗かせた。
「ビリー、基盤を見つけたわ」
「案外早かったな」
「目の前に丁度棚があったの。先に基盤を渡すわね」
穴の下のビリーに基盤を投げ渡すジャンヌ。
そして、はたと気付く。
「……私、どう降りたらいいかしら?」
飛び降りられない事はないが、ショットガンなどの装備を加わってるせいで着地が心配だ。
装備を先に下に降ろすか、それとも……。
「俺が受け止めてやろうか?」
悪戯な囁きが聞こえた。
「…………」
得意げな顔を真上から睨んでやるジャンヌは、3回目になる台詞を言った男に溜息を送る。
「あのねぇ……」
「でも一番ベストな方法だろう」
「それは……そうだけど……」
―――けど。
ジャンヌは気まずそうに視線を泳がす。
(恥ずかしいなんて言えない……)
言えばどうなるものか。
笑われるか、それとも呆れられるか。
とにかくジャンヌにとって、いい反応はないのは予想出来た。
しかしビリーは手ぶらになった両腕を広げて待っている。
―――短い沈黙が痛い。
結局、沈黙に堪えられなくなったジャンヌが折れた。
「お……重いわよっ?覚悟してよっ!」
「ああ。いつでもいいぜ」
無駄に緊張が走る。
万一彼の上に落ちたらとか、嫌な事ばかり考えてしまう。
しかしビリーはいつものような素振りで言った。
「来いよ」
―――もう何も考えずに降りるしかない。
「い……行くわよ!?」
ジャンヌは返事を聞かずに梯子から手を放すと、空気抵抗を感じる余裕もなく、あっさりとビリーの逞しい腕に包まれた。
「っと……」
「あ、ありがとう……」
「どう致しまして」
恥ずかしげに礼を言って彼の顔を見つめると、満足した会心の笑みを浮かべている。
不思議に思ってしばらくじっと見てたら、不意に目が合った。
「……やっと捕まえた」
「え?」
「ずっと恥ずかしがってたもんな」
「は……恥ずかしいに決まってるじゃないのっ!」
「その割には、降りようとしてくれないけどな」
「!!」
途端にジャンヌの顔が真っ赤になって、じたばたし始める。
仕方なさそうに名残惜しくもビリーが解放してやれば、ジャンヌはぷいっとそっぽを向いてしまった。
あまりからかっても悪いと思ったビリーは、さっき預かった基盤の代わりにマグナムを返してリフトに向かって歩きだす。
「どうした?早く戻るぞ」
「わ……分かってるわよっ」
慌てて自分について来る仕草に、つい気持ちが和む。
そんな2人はリフトに乗って調整室に戻った。