1学期
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その日、E組の教壇に立っていたのは大量に分身した殺せんせーだった事に、生徒は驚きと困惑を隠せず言葉を失った。彼の言う事には、来たる中間テストに向けて生徒それぞれの苦手科目をマンツーマンで教えるらしい。
苦手科目の鉢巻をした殺せんせーが生徒の前に立つのだが、寺坂に教える殺せんせーの鉢巻は「NARUTO」のソレであった。その事に声を荒げて寺坂がツッコミを入れる横で、リンネも機嫌を損ねた様子で頬を膨らませていた。
「待ってよ殺せんせー、それって僕も寺坂レベルってコトー? さすがに失礼過ぎない?」
「お前は俺に失礼が過ぎるんだよ!」
そう、リンネの前に立つ殺せんせーの鉢巻も「NARUTO」――しかも地味に趣向を凝らして砂隠れの里のもの――を巻いていた。いつもの様に怪しく笑う殺せんせーはリンネの机に教科書とノートを広げながら、ひとつひとつ改善点を挙げる。
「リンネさんはどの教科も出来がいい。ですが、時折基本を見落としがちです。目に見えるものを有るがままを受け入れるのも大事なことですよ」
そう言った殺せんせーは、まるで目の前の問題ではない何かに対して言っているようで、リンネは少し居心地が悪かった。だから、変な鉢巻きに対する文句を飲み込んで言われるがままに手元の問題を解くのだった。
あっという間に一日が過ぎて、放課後となった教室はこの後どう過ごすか語り合う声でにぎわっていた。その中で、隣の席にいたはずの姉の姿を探すカルマは近くにいた渚を捕まえて問いかける。
「渚くんリンネ知らない?」
「リンネちゃん? ……ごめん、わかんないや」
そっかー。と教室を見回すカルマに、2年の終わりに感じていたぎこちなさが消えていると気づくと思わず口角が上がった。素直に楽しかったと思えた頃に近づけた。渚にはそう思えたからだ。
「……最近、なーんか思い詰めてるっぽいんだよねー……」
そう思えているのは、渚だけとは知らずに。
渚はカルマと別れ、廊下を歩いている殺せんせーとすれ違った。何となく、そのまま職員室に入っていく彼を目で追っていると、職員室には友人の探し人の他に、この隔離教室には珍しい来客がいるのに気が付いた。カルマの元へ教えに行く選択肢もあったが、それをしなかったのはリンネと理事長の距離が近く感じたのもあるが、職員室に広がる異様な空気が好奇心を刺激した事が一番の理由だろう。
渚が窓の隙間から聞き耳を立てると、リンネが學峯にルービックキューブを強請る声が聞こえた。適当に色を混ぜてやってから渡す様子も、2人の間の気安さを渚に覚えさせた。
そうした後、學峯が誰にでも簡単に色をそろえる方法を他の教師に訊ねた。リンネがその間に色をそろえて學峯の目の前に差し出してその問いに答える。
「法則が決まってるんだから誰だって普通にそろえられるでしょ」
「確かに、すべての人間が簡単に解ける程の能力があればそれに越した事は無い」
綺麗に色のそろった玩具を受け取った學峯がそれにドライバーを突き立てると、ルービックキューブをバラバラに壊した。
「分解して並べ直す。合理的です」
そんなのズルじゃん。そう文句を垂れるリンネを手で制した學峯が殺せんせーに向き直って挨拶をする。殺せんせーのよいしょを受け流して続く話題は、自然と殺せんせーの暗殺についてになってくる。
暗殺が成功した場合の未来。その為に必要な犠牲として、E組に5%の怠け者の役目を押し付ける事によって完成する教育方針。それは殺せんせーが掲げるものとは遠くかけ離れている。今は明確に対立する2人の教師がぶつかり合う事は無いが、先に動きを見せたのは學峯の方であった。
複雑に絡み合った知恵の輪を殺せんせーに投げ渡すと同時に、一秒で解けと声をかける。すると、一秒後に見えたのは知恵の輪を解いた殺せんせーの姿ではなく、何故か知恵の輪の穴に首を通して絡まる黄色いタコの姿だった。あまり褒められたものではない姿に渚もツッコミを抑えきれないが、學峯はそのスピードの方に目を付けていた。床で転がる殺せんせーに目線を合わせるようにしゃがみ込むと、學峯は淡々と告げた。
「この世の中には……スピードで解決できない問題もあるんですよ」
鋭く言い切る學峯は、殺せんせーの首に繋がる首輪の様な知恵の輪を1つずつ外して遊ぶリンネの肩を叩いて呼ぶと、烏間とイリーナに声をかけた。
「では私はこの辺で。行きましょうか、輪廻さん」
「はーい、じゃあねー殺せんせー」
キン。と、金属音を短く響かせて手に持っていた分の輪を外したリンネが、學峯に続くのを確認した渚は、慌てて窓から離れた。
丁度學峯が職員室から出てくるのに鉢合う形となり、渚は思わず後ずさりしてしまう。
「やぁ! 中間テスト期待しているよ。頑張りなさい!」
その言葉は生徒を励ます良い教師そのものの筈なのに、一瞬でE組という立場を弁えさせるプレッシャーで満ちていた。限りなく恐怖に近い感情に、立ち尽くして去って行く學峯を眺めるしかなかった渚は、リンネの声にハッと目を覚ます。
「……ごめんね、渚ちゃん。できればカルマちゃんには僕があの人と一緒に居るって知られたくないんだ。黙っててくれると嬉しい」
「え、あ……うん。いいけど、随分と……その、親しそうだね。理事長先生と……」
「まぁ、ね」
短い肯定を最後に、リンネが持っていた知恵の輪のパーツを渚に投げる。渚がそれを慌ててキャッチすると、既にリンネの背中は小さくなっていた。
「…………遠いなぁ」
それが指しているのが、少女の背中なのか、3人で過ごした過去なのか、今度はわざと有耶無耶にして、渚はカルマには伝えない事を決めると踵を返してその場を去った。
苦手科目の鉢巻をした殺せんせーが生徒の前に立つのだが、寺坂に教える殺せんせーの鉢巻は「NARUTO」のソレであった。その事に声を荒げて寺坂がツッコミを入れる横で、リンネも機嫌を損ねた様子で頬を膨らませていた。
「待ってよ殺せんせー、それって僕も寺坂レベルってコトー? さすがに失礼過ぎない?」
「お前は俺に失礼が過ぎるんだよ!」
そう、リンネの前に立つ殺せんせーの鉢巻も「NARUTO」――しかも地味に趣向を凝らして砂隠れの里のもの――を巻いていた。いつもの様に怪しく笑う殺せんせーはリンネの机に教科書とノートを広げながら、ひとつひとつ改善点を挙げる。
「リンネさんはどの教科も出来がいい。ですが、時折基本を見落としがちです。目に見えるものを有るがままを受け入れるのも大事なことですよ」
そう言った殺せんせーは、まるで目の前の問題ではない何かに対して言っているようで、リンネは少し居心地が悪かった。だから、変な鉢巻きに対する文句を飲み込んで言われるがままに手元の問題を解くのだった。
あっという間に一日が過ぎて、放課後となった教室はこの後どう過ごすか語り合う声でにぎわっていた。その中で、隣の席にいたはずの姉の姿を探すカルマは近くにいた渚を捕まえて問いかける。
「渚くんリンネ知らない?」
「リンネちゃん? ……ごめん、わかんないや」
そっかー。と教室を見回すカルマに、2年の終わりに感じていたぎこちなさが消えていると気づくと思わず口角が上がった。素直に楽しかったと思えた頃に近づけた。渚にはそう思えたからだ。
「……最近、なーんか思い詰めてるっぽいんだよねー……」
そう思えているのは、渚だけとは知らずに。
渚はカルマと別れ、廊下を歩いている殺せんせーとすれ違った。何となく、そのまま職員室に入っていく彼を目で追っていると、職員室には友人の探し人の他に、この隔離教室には珍しい来客がいるのに気が付いた。カルマの元へ教えに行く選択肢もあったが、それをしなかったのはリンネと理事長の距離が近く感じたのもあるが、職員室に広がる異様な空気が好奇心を刺激した事が一番の理由だろう。
渚が窓の隙間から聞き耳を立てると、リンネが學峯にルービックキューブを強請る声が聞こえた。適当に色を混ぜてやってから渡す様子も、2人の間の気安さを渚に覚えさせた。
そうした後、學峯が誰にでも簡単に色をそろえる方法を他の教師に訊ねた。リンネがその間に色をそろえて學峯の目の前に差し出してその問いに答える。
「法則が決まってるんだから誰だって普通にそろえられるでしょ」
「確かに、すべての人間が簡単に解ける程の能力があればそれに越した事は無い」
綺麗に色のそろった玩具を受け取った學峯がそれにドライバーを突き立てると、ルービックキューブをバラバラに壊した。
「分解して並べ直す。合理的です」
そんなのズルじゃん。そう文句を垂れるリンネを手で制した學峯が殺せんせーに向き直って挨拶をする。殺せんせーのよいしょを受け流して続く話題は、自然と殺せんせーの暗殺についてになってくる。
暗殺が成功した場合の未来。その為に必要な犠牲として、E組に5%の怠け者の役目を押し付ける事によって完成する教育方針。それは殺せんせーが掲げるものとは遠くかけ離れている。今は明確に対立する2人の教師がぶつかり合う事は無いが、先に動きを見せたのは學峯の方であった。
複雑に絡み合った知恵の輪を殺せんせーに投げ渡すと同時に、一秒で解けと声をかける。すると、一秒後に見えたのは知恵の輪を解いた殺せんせーの姿ではなく、何故か知恵の輪の穴に首を通して絡まる黄色いタコの姿だった。あまり褒められたものではない姿に渚もツッコミを抑えきれないが、學峯はそのスピードの方に目を付けていた。床で転がる殺せんせーに目線を合わせるようにしゃがみ込むと、學峯は淡々と告げた。
「この世の中には……スピードで解決できない問題もあるんですよ」
鋭く言い切る學峯は、殺せんせーの首に繋がる首輪の様な知恵の輪を1つずつ外して遊ぶリンネの肩を叩いて呼ぶと、烏間とイリーナに声をかけた。
「では私はこの辺で。行きましょうか、輪廻さん」
「はーい、じゃあねー殺せんせー」
キン。と、金属音を短く響かせて手に持っていた分の輪を外したリンネが、學峯に続くのを確認した渚は、慌てて窓から離れた。
丁度學峯が職員室から出てくるのに鉢合う形となり、渚は思わず後ずさりしてしまう。
「やぁ! 中間テスト期待しているよ。頑張りなさい!」
その言葉は生徒を励ます良い教師そのものの筈なのに、一瞬でE組という立場を弁えさせるプレッシャーで満ちていた。限りなく恐怖に近い感情に、立ち尽くして去って行く學峯を眺めるしかなかった渚は、リンネの声にハッと目を覚ます。
「……ごめんね、渚ちゃん。できればカルマちゃんには僕があの人と一緒に居るって知られたくないんだ。黙っててくれると嬉しい」
「え、あ……うん。いいけど、随分と……その、親しそうだね。理事長先生と……」
「まぁ、ね」
短い肯定を最後に、リンネが持っていた知恵の輪のパーツを渚に投げる。渚がそれを慌ててキャッチすると、既にリンネの背中は小さくなっていた。
「…………遠いなぁ」
それが指しているのが、少女の背中なのか、3人で過ごした過去なのか、今度はわざと有耶無耶にして、渚はカルマには伝えない事を決めると踵を返してその場を去った。
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