弾丸論破 短編
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※プロローグ軸、捏造増し増し、自分の地雷にしか配慮してない、何でも許せる人はどうぞ
ダンガンロンパ。それは中高生に人気のアングラなとある番組。「超高校級」の才能を持った高校生達が、コロシアイをしながら友情や愛情を育み、疑い合うのを楽しむのだ。
そんなダンガンロンパも、次回は53回目だという。人気だとしても、ここまで続くのは素直にすごいと思うし、僕が高校生になるまでよくもってくれたと踊って喜んだ。
ダンガンロンパはオーディション制だ。現役高校生から出演者を選び、本当に殺し合わせる。今年高校生になった僕はやっと、このオーディションに応募できる。ダンガンロンパでなら、つまらない僕もきっと何かになれる。クロになっても、殺されてしまっても、僕にスポットが当たる。でもそこに、酷く臆病で小さく脆い僕はいない。僕だけど僕じゃないつまらなくない僕がいるんだ。
この時の僕は、ダンガンロンパを見終えた直後で、自分も高校生になったという事実に浮かれていたんだ。
正気に戻ったのは、1次選考を突破し、2次選考の面接を終え、家に合格通知が来た瞬間だった。
もう後には引けなくなってから、急に怖くなった。僕は今から僕を捨て、僕を知らない何処かに死にに行くんだと。その日から毎日震えて眠った。学校では周りがダンガンロンパのオーディションに落ちただの、友人の親戚の彼女が受かっただのと賑わっていたが、僕の指先は冷えて固まっていた。
親にもクラスメイトにも言えないまま、ダンガンロンパは始まろうとしていた。
僕の真面目な性根は、合格通知と共に記された集合場所に勝手に向かう。通された控え室には、コロシアイの熱に浮かされた男女が声高々に生き残りを宣言しあっていた。
ああいうタイプにはなれないと思いながら、人の少ないすみっこの空いている席に座った。特にする事もなく賑わうグループを眺めていると、隣に誰かが座った。
「貴方はどうしてダンガンロンパに?」
不躾に質問をしてくる相手の顔を見やると、無表情で無愛想な少女がこちらを見ずに、ぴしりと真っ直ぐな背筋で座っていた。
「つまらない人生が嫌だった、から」
こちらを見ないのが、逆に気が楽だった。だから答えようと思った。どうせ、僕も彼女も、みんな忘れて違う誰かの記憶が植え付けられるんだから。
「それなのに、怖くなってしまったのね」
その言葉に、無意識に指先を握り擦っていた手を止めた。いつから擦っていただろうか、ああ多分、あの合格通知を貰った日からだ。
「そうだね、死ぬのが怖い」
「諦めなさい。もう、ここにいる私達は死ぬのだから。たとえ未来で生き残っても」
そう。ここにいる僕らは死ぬ。それを、はしゃぐ彼等は理解しているんだろうか。
「君は、どうなの?」
「怖いわ。何も生み出せずに死んでいくのが、とても怖い」
じゃあ、どうしてここにいるの。そう問おうとしたけど、彼女の唇が次の言葉を紡ごうとしているのが目に入って、口を閉ざした。
「だから、残そうと思ったの。生み出せないのなら、私は私の命を使って誰かの心に傷を遺したい」
隣に座る彼女が、僕を見る。人形かロボットの様に揺らがない背筋が、彼女の人間性を表していると思った。きっと、彼女は真っ直ぐで真っ当な道を進んでいただろうに。途端に、彼女が哀れで可哀想に感じた。死ぬ事でしか残せない人間だと言い切る彼女の、10と数年の人生はどんな物だったのだろうか。
「例えば、貴方に」
急に胸に爪を立てられ、体が大袈裟に跳ねる。服の上からだから痛みはないはずなのに、心臓は激しく鼓動してじくじくと痛みを孕んだ。
「私を憐れんだ目で見るからよ」
「憐れんで、なんか……ないって」
嘘が下手くそなのね。そう言って笑う彼女に、気恥ずかしさで顔が赤く染まるのを感じて背を向ける。
「ごめんなさい。でも、嘘が下手なのも美徳よ」
彼女はまだ笑いながら、今度は背中に指先を滑らせる。僕の、同年代と比べて小さな背中に、彼女がへのへのもへじを書く。突然子供みたいな事をするから、僕もなんだか笑えてきて、仕方なく振り向く。目が合った彼女ははにかんで笑ったあと、ハッとして取り繕うように無表情になる。
「無表情、作ってるんだ」
「誰にでもころころ表情を変えるのは、はしたないと言われてるの」
「笑ってる方がいいじゃん」
思った事を素直に告げると、もう癖だから。と彼女は言った。僕の知らない誰かの型にはめられて息苦しそうな彼女が、やはり憐れで、それはまるで標本の蝶の様で美しくもあった。
「折角今から死ぬってわかってるんだし、ここでぐらい自由になってもいいと思う」
だからあえて、蝶の羽を止めるピンを引き抜き、完成された標本を壊す快感を味わいたくなった。だって僕は、自由に空を飛ぶ蝶の方が綺麗だと思うから。
「じゃあ、じゃあね。どうせ無くなるなら、私の愚痴を聞いてもらえるかしら」
そう言って彼女は話し始めた。
彼女の家は少し古い家で、昔から決められたしきたりが多く面倒だと嘆いた。習い事なんて行かずに遊びたかったし、お洒落や短いスカートにも憧れていたと。
僕は視線を下にずらすと、膝を覆い隠す長めのスカートが目に付いた。
「私、婚約者がいるの」
高校の卒業と同時に嫁に行き、一生を好きでもない結婚相手に捧げるのが決まっていたのだと。産まれた瞬間から、頭から爪の先、髪の毛1本に至るまで、知らない男の為に育てられた。逃げ出したくても方法がわからなくて、結果縋り着いた先がダンガンロンパだった。
「このまま生きたら、私は次の被害者を産んで、ずっとそれが続いていくの。それが私には酷く、恐ろしく感じたわ」
彼女の話を聞いて、そっと手を重ねた。その知らない男の物に、先に手垢を付けるように。理解してなのかわからないけど、彼女も手を握り返してくれた。
「未来の話をしましょう。忘れてもいいわ。今この瞬間だけの、貴方と私の約束」
「約束?」
「そう。貴方と私、どちらかが先に生きるのを諦めたら負け。そして負けた方が勝った方を殺すの」
最初、彼女が何を言っているのかわからなかった。負けた方が生き残るなんて、勝つ意味が無いじゃないかと。
「敗者は勝者を苦しませずに殺すの。敗者はクロとして卒業できるかもしれないけど、おしおきされる方が可能性が高いわ。きっと、苦しんで死ぬ事になる」
彼女の言いたい事がわかってきた。
「コロシアイの中で心中しましょう」
繋いでいた手を離して、今度は小指を絡める。果たされない約束は約束と呼べるのだろうか。
「苦しませない殺し方ってなんだろう」
約束に前向きな姿勢を見せると、彼女は顔を明るくさせて考え始めた。
毒殺。物によっては苦しまないかもしれないが、そんな都合のいい物が手に入るかわからない。
撲殺。普通に痛い。けど、1発で殺せたらありかもしれない。
首を吊るのも溺れるのも落っこちるのも腹に穴を開けるのも病気で死ぬのも、苦しいだろう。
死ぬって、苦しいんだな。
「圧死は1番苦しい死に方と聞いたわ、だから圧死は駄目」
「ギロチンも、首が落ちてから15分は意識があるって言うよね、苦しそうだから首を落とすのもやめておこう」
「そうね。じゃあ……」
「それだと……」
……。
…………。
………………。
散々話し合っても結局、苦しまない殺し方なんて思いつかなかった。覚えてられないから、そもそも考える必要なんてなかったけど、彼女と話していた間は、死に向かう恐怖を忘れる事ができた。
ダンガンロンパのスタッフだという大人に、移動の為に集まるよう指示される。とうとう僕は僕とさよならする時が来た。立ち上がる彼女の背中に声をかけた。
「ねぇ、最後に名前を聞かせてよ」
「これから死ぬ女に名前なんて無いわ。けど、そうね。ここで貴方に恋をした馬鹿な女と覚えておいて」
そうか、じゃあ僕は馬鹿な男だね。とは口に出さなかった。彼女と心中の約束をした時点で、僕の気持ちなんてわかりきっていた。
心中は、想い合う2人でないとできないのだから。
向かう先で、僕等は舞台に上がることなく死に、違う僕等が生まれる。
初めまして、王馬小吉。約束は果たせそうにないや。
ダンガンロンパ。それは中高生に人気のアングラなとある番組。「超高校級」の才能を持った高校生達が、コロシアイをしながら友情や愛情を育み、疑い合うのを楽しむのだ。
そんなダンガンロンパも、次回は53回目だという。人気だとしても、ここまで続くのは素直にすごいと思うし、僕が高校生になるまでよくもってくれたと踊って喜んだ。
ダンガンロンパはオーディション制だ。現役高校生から出演者を選び、本当に殺し合わせる。今年高校生になった僕はやっと、このオーディションに応募できる。ダンガンロンパでなら、つまらない僕もきっと何かになれる。クロになっても、殺されてしまっても、僕にスポットが当たる。でもそこに、酷く臆病で小さく脆い僕はいない。僕だけど僕じゃないつまらなくない僕がいるんだ。
この時の僕は、ダンガンロンパを見終えた直後で、自分も高校生になったという事実に浮かれていたんだ。
正気に戻ったのは、1次選考を突破し、2次選考の面接を終え、家に合格通知が来た瞬間だった。
もう後には引けなくなってから、急に怖くなった。僕は今から僕を捨て、僕を知らない何処かに死にに行くんだと。その日から毎日震えて眠った。学校では周りがダンガンロンパのオーディションに落ちただの、友人の親戚の彼女が受かっただのと賑わっていたが、僕の指先は冷えて固まっていた。
親にもクラスメイトにも言えないまま、ダンガンロンパは始まろうとしていた。
僕の真面目な性根は、合格通知と共に記された集合場所に勝手に向かう。通された控え室には、コロシアイの熱に浮かされた男女が声高々に生き残りを宣言しあっていた。
ああいうタイプにはなれないと思いながら、人の少ないすみっこの空いている席に座った。特にする事もなく賑わうグループを眺めていると、隣に誰かが座った。
「貴方はどうしてダンガンロンパに?」
不躾に質問をしてくる相手の顔を見やると、無表情で無愛想な少女がこちらを見ずに、ぴしりと真っ直ぐな背筋で座っていた。
「つまらない人生が嫌だった、から」
こちらを見ないのが、逆に気が楽だった。だから答えようと思った。どうせ、僕も彼女も、みんな忘れて違う誰かの記憶が植え付けられるんだから。
「それなのに、怖くなってしまったのね」
その言葉に、無意識に指先を握り擦っていた手を止めた。いつから擦っていただろうか、ああ多分、あの合格通知を貰った日からだ。
「そうだね、死ぬのが怖い」
「諦めなさい。もう、ここにいる私達は死ぬのだから。たとえ未来で生き残っても」
そう。ここにいる僕らは死ぬ。それを、はしゃぐ彼等は理解しているんだろうか。
「君は、どうなの?」
「怖いわ。何も生み出せずに死んでいくのが、とても怖い」
じゃあ、どうしてここにいるの。そう問おうとしたけど、彼女の唇が次の言葉を紡ごうとしているのが目に入って、口を閉ざした。
「だから、残そうと思ったの。生み出せないのなら、私は私の命を使って誰かの心に傷を遺したい」
隣に座る彼女が、僕を見る。人形かロボットの様に揺らがない背筋が、彼女の人間性を表していると思った。きっと、彼女は真っ直ぐで真っ当な道を進んでいただろうに。途端に、彼女が哀れで可哀想に感じた。死ぬ事でしか残せない人間だと言い切る彼女の、10と数年の人生はどんな物だったのだろうか。
「例えば、貴方に」
急に胸に爪を立てられ、体が大袈裟に跳ねる。服の上からだから痛みはないはずなのに、心臓は激しく鼓動してじくじくと痛みを孕んだ。
「私を憐れんだ目で見るからよ」
「憐れんで、なんか……ないって」
嘘が下手くそなのね。そう言って笑う彼女に、気恥ずかしさで顔が赤く染まるのを感じて背を向ける。
「ごめんなさい。でも、嘘が下手なのも美徳よ」
彼女はまだ笑いながら、今度は背中に指先を滑らせる。僕の、同年代と比べて小さな背中に、彼女がへのへのもへじを書く。突然子供みたいな事をするから、僕もなんだか笑えてきて、仕方なく振り向く。目が合った彼女ははにかんで笑ったあと、ハッとして取り繕うように無表情になる。
「無表情、作ってるんだ」
「誰にでもころころ表情を変えるのは、はしたないと言われてるの」
「笑ってる方がいいじゃん」
思った事を素直に告げると、もう癖だから。と彼女は言った。僕の知らない誰かの型にはめられて息苦しそうな彼女が、やはり憐れで、それはまるで標本の蝶の様で美しくもあった。
「折角今から死ぬってわかってるんだし、ここでぐらい自由になってもいいと思う」
だからあえて、蝶の羽を止めるピンを引き抜き、完成された標本を壊す快感を味わいたくなった。だって僕は、自由に空を飛ぶ蝶の方が綺麗だと思うから。
「じゃあ、じゃあね。どうせ無くなるなら、私の愚痴を聞いてもらえるかしら」
そう言って彼女は話し始めた。
彼女の家は少し古い家で、昔から決められたしきたりが多く面倒だと嘆いた。習い事なんて行かずに遊びたかったし、お洒落や短いスカートにも憧れていたと。
僕は視線を下にずらすと、膝を覆い隠す長めのスカートが目に付いた。
「私、婚約者がいるの」
高校の卒業と同時に嫁に行き、一生を好きでもない結婚相手に捧げるのが決まっていたのだと。産まれた瞬間から、頭から爪の先、髪の毛1本に至るまで、知らない男の為に育てられた。逃げ出したくても方法がわからなくて、結果縋り着いた先がダンガンロンパだった。
「このまま生きたら、私は次の被害者を産んで、ずっとそれが続いていくの。それが私には酷く、恐ろしく感じたわ」
彼女の話を聞いて、そっと手を重ねた。その知らない男の物に、先に手垢を付けるように。理解してなのかわからないけど、彼女も手を握り返してくれた。
「未来の話をしましょう。忘れてもいいわ。今この瞬間だけの、貴方と私の約束」
「約束?」
「そう。貴方と私、どちらかが先に生きるのを諦めたら負け。そして負けた方が勝った方を殺すの」
最初、彼女が何を言っているのかわからなかった。負けた方が生き残るなんて、勝つ意味が無いじゃないかと。
「敗者は勝者を苦しませずに殺すの。敗者はクロとして卒業できるかもしれないけど、おしおきされる方が可能性が高いわ。きっと、苦しんで死ぬ事になる」
彼女の言いたい事がわかってきた。
「コロシアイの中で心中しましょう」
繋いでいた手を離して、今度は小指を絡める。果たされない約束は約束と呼べるのだろうか。
「苦しませない殺し方ってなんだろう」
約束に前向きな姿勢を見せると、彼女は顔を明るくさせて考え始めた。
毒殺。物によっては苦しまないかもしれないが、そんな都合のいい物が手に入るかわからない。
撲殺。普通に痛い。けど、1発で殺せたらありかもしれない。
首を吊るのも溺れるのも落っこちるのも腹に穴を開けるのも病気で死ぬのも、苦しいだろう。
死ぬって、苦しいんだな。
「圧死は1番苦しい死に方と聞いたわ、だから圧死は駄目」
「ギロチンも、首が落ちてから15分は意識があるって言うよね、苦しそうだから首を落とすのもやめておこう」
「そうね。じゃあ……」
「それだと……」
……。
…………。
………………。
散々話し合っても結局、苦しまない殺し方なんて思いつかなかった。覚えてられないから、そもそも考える必要なんてなかったけど、彼女と話していた間は、死に向かう恐怖を忘れる事ができた。
ダンガンロンパのスタッフだという大人に、移動の為に集まるよう指示される。とうとう僕は僕とさよならする時が来た。立ち上がる彼女の背中に声をかけた。
「ねぇ、最後に名前を聞かせてよ」
「これから死ぬ女に名前なんて無いわ。けど、そうね。ここで貴方に恋をした馬鹿な女と覚えておいて」
そうか、じゃあ僕は馬鹿な男だね。とは口に出さなかった。彼女と心中の約束をした時点で、僕の気持ちなんてわかりきっていた。
心中は、想い合う2人でないとできないのだから。
向かう先で、僕等は舞台に上がることなく死に、違う僕等が生まれる。
初めまして、王馬小吉。約束は果たせそうにないや。