1学期
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体育の授業の担当が烏間になり、内容がナイフの扱い方になった。生徒の声は体育のそれだが、ナイフを正しく8方向に振る姿は異様である。リンネは至って真面目に訓練を受けていた。彼女は自分に出来る事を増やすのに貪欲であり、それが暗殺の術でも喜んで吸収した。空手、柔道、合気道、剣道、弓道。日本で金を出せば学べる物は親に頼んだり、自分で作ったコネを利用して学んだ。だが、自衛隊持込みのナイフ術などそうそう学べるものでは無い。ゴム質のナイフを振り、リンネは楽しげに授業に取り組んだ。だがその心には、今日停学が解ける筈だった弟への心配で満ちていた。
生徒達の隣で烏間は殺せんせーを無駄とわかっていて追い払う。最終的に砂場で1人遊んでいるよう言い付けた。殺せんせーは自分の体育の方が評判が良いと言うが、菅谷に否定される。
「うそつけよ殺せんせー。身体能力が違いすぎんだよ」
殺せんせーの体育では、反復横跳びで視覚分身からのあやとりを要求され、生徒達はできるかと匙を投げたのは記憶に新しい。口々に体育は人間の先生がいいと言う生徒達に、殺せんせーは泣きながら砂場に帰って行った。
「……やっと暗殺対象を追い払えた。授業を続けるぞ」
「でも烏間先生、こんな訓練意味あんスか? しかも当の暗殺対象がいる前でさ」
ナイフをブラつかせながら前原が烏間に聞くと、烏間は大きく頷きながら基礎の大切さを説く。そして磯貝と前原を呼ぶと、烏間は自身にナイフを当ててみろと挑発した。かすりでもすれば授業を終わっていいと言う烏間に、2人は戸惑いながらも2対1なら余裕だろうとナイフを振るった。
だがナイフが烏間に当たる事はなく、どんなに2人が同時に切り付けても避けられ、いなされ、時には弾かれる。2人を相手取りながら烏間は言う。
「このように、多少の心得があれば素人2人のナイフ位は俺でも捌ける」
当たらないナイフに磯貝と前原は悪態を吐いて腕を振り上げた。烏間は2人の腕を軽々と掴むと、大きく回して転げ倒した。一瞬の内に地面に転がった2人は驚きに呆けた。
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう」
唖然とする生徒達に烏間は言ってのける。烏間は親指で後ろを差して視線を誘導する。
「見ろ! 今の攻防の間に奴は、砂場に大阪城を造った上に着替えて茶まで立てている」
和服に身を包んだ殺せんせーがニヤニヤと笑って茶を飲む姿に、生徒一同腹が立った。磯貝と前原の手を取って起こし、烏間は授業を締める。
「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々……体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
丁度よくチャイムが鳴り、緊張状態から解けた生徒達が思い思いに教室に戻り始める。リンネはその途中に自分と同じ赤髪を見つけて立ち止まった。正面から顔を見るのは久しぶりだな。と、リンネは少年を見つめる。
「カルマ、ちゃん……」
当のカルマはリンネに気付く様子もなく、渚と一言二言交わし、殺せんせーを見て近付いた。
「わ。あれが例の殺せんせー? すっげ、本トにタコみたいだ」
他の生徒が見守る中、カルマは殺せんせーに対面する。リンネは突然の再会に戸惑い、その場から逃げた。その後ろでは、カルマが殺せんせーに初めてダメージを与えていたが、そんな事、今のリンネには気にしていられなかった。
鐘の音が聞こえる。もう次の授業が始まってしまった。山の中にある小さな沢を見つめて、リンネは座り込んだ。
「…………逃げちゃった……」
膝を抱え直して、久方ぶりに見た弟の、リンネの想い人の顔を脳裏にリフレインさせる。ご飯は食べていると両親に聞いていたが、少しヤツれただろうか。あの教室でなら、逃げ出さずにいられると思ったけど、そう上手くは行かないようだ。リンネは小石を拾って沢に投げ入れる。ポチャン。静か過ぎて、世界に自分ひとりだけになったみたいだな。とリンネは膝小僧に額をつけて項垂れた。
赤羽リンネは弟を愛している。
それはもう10年近く自問自答を繰り返し、逃れられない事実だと飲み込んだ。近親姦のリスクや世間体については暗記する程調べた。少なくとも日本では“禁止”されている恋愛。自分に似た双子の弟を好きになるなんて、ナルシストなのでは、と悩んだ日もあった。リンネは自由奔放で、確固たる自分を持ったカルマが眩しかった。リンネに無い自由な想像力と行動力。眩しくて、羨ましくて、だから欲しかった。誰より近くに居た。彼がいなかったら自分はつまらない人間になっていたであろう自覚がある。
つまり、リンネが何を言いたいかというと、赤羽リンネにとって赤羽カルマとは。リンネにとってのカルマへの愛とは。
赤羽輪廻という人間の基礎なのである。
リンネが勉強するのも、遊ぶのも、食事をするのも、呼吸をするのも、全てカルマの隣に居続ける為。その為だけに生きてきた。彼に相応しい人間である事。それがリンネの誇りだった。
サボりなど今のリンネにとって珍しい事でもないが、リンネの体感で結構な時間が経った気がする。1人で悩めば悩む程、悪い方に考えが行ってしまい、悩みがひとつこぼれ落ちる。
「もう、カルマちゃんは僕なんていらないのかな?」
「リンネ」
後ろからかけられた声に後ろを振り向こうとするが、頭を鷲掴みにされて固定される。
「カルマちゃん……だよね」
返事は無い。だけどリンネには今背後に居るのはカルマだとわかった。すぐ側に、カルマがいる。それだけで心拍数が上がり、逃げた罪悪感が背筋を這い回る。
「俺が殺るから。そしたら、ちゃんと話がしたい。俺も逃げないから、リンネも逃げないで」
カルマの絞り出すような声にリンネは黙って頷き、リンネの後頭部にこつりとカルマの額がぶつかる。それだけで2人は信じ合えた。頭をくっつける時は、上手く言葉にできないが信じて欲しい時と決めているから。
そっと離された肌を、リンネはもう寂しいとは思わない。離れて行く足音に、リンネは振り抜かずに声を張る。
「覚えてないかもしれないけど、あの日言った事に嘘は無いよ」
立ち止まらずに去って行くカルマは、まるでそんな事最初から知っていると言っているようだとリンネは感じた。だからリンネは自己嫌悪に陥る。初めから、信じていなかったのは自分だけだったのかと。
「……違う。不安だっただけ」
言い聞かせるように呟く言葉は頼りなく、不安に揺れる視線の先の水面は変わらず凪いでいた。
生徒達の隣で烏間は殺せんせーを無駄とわかっていて追い払う。最終的に砂場で1人遊んでいるよう言い付けた。殺せんせーは自分の体育の方が評判が良いと言うが、菅谷に否定される。
「うそつけよ殺せんせー。身体能力が違いすぎんだよ」
殺せんせーの体育では、反復横跳びで視覚分身からのあやとりを要求され、生徒達はできるかと匙を投げたのは記憶に新しい。口々に体育は人間の先生がいいと言う生徒達に、殺せんせーは泣きながら砂場に帰って行った。
「……やっと暗殺対象を追い払えた。授業を続けるぞ」
「でも烏間先生、こんな訓練意味あんスか? しかも当の
ナイフをブラつかせながら前原が烏間に聞くと、烏間は大きく頷きながら基礎の大切さを説く。そして磯貝と前原を呼ぶと、烏間は自身にナイフを当ててみろと挑発した。かすりでもすれば授業を終わっていいと言う烏間に、2人は戸惑いながらも2対1なら余裕だろうとナイフを振るった。
だがナイフが烏間に当たる事はなく、どんなに2人が同時に切り付けても避けられ、いなされ、時には弾かれる。2人を相手取りながら烏間は言う。
「このように、多少の心得があれば素人2人のナイフ位は俺でも捌ける」
当たらないナイフに磯貝と前原は悪態を吐いて腕を振り上げた。烏間は2人の腕を軽々と掴むと、大きく回して転げ倒した。一瞬の内に地面に転がった2人は驚きに呆けた。
「俺に当たらないようでは、マッハ20の奴に当たる確率の低さがわかるだろう」
唖然とする生徒達に烏間は言ってのける。烏間は親指で後ろを差して視線を誘導する。
「見ろ! 今の攻防の間に奴は、砂場に大阪城を造った上に着替えて茶まで立てている」
和服に身を包んだ殺せんせーがニヤニヤと笑って茶を飲む姿に、生徒一同腹が立った。磯貝と前原の手を取って起こし、烏間は授業を締める。
「クラス全員が俺に当てられる位になれば、少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃、暗殺に必要な基礎の数々……体育の時間で俺から教えさせてもらう!」
丁度よくチャイムが鳴り、緊張状態から解けた生徒達が思い思いに教室に戻り始める。リンネはその途中に自分と同じ赤髪を見つけて立ち止まった。正面から顔を見るのは久しぶりだな。と、リンネは少年を見つめる。
「カルマ、ちゃん……」
当のカルマはリンネに気付く様子もなく、渚と一言二言交わし、殺せんせーを見て近付いた。
「わ。あれが例の殺せんせー? すっげ、本トにタコみたいだ」
他の生徒が見守る中、カルマは殺せんせーに対面する。リンネは突然の再会に戸惑い、その場から逃げた。その後ろでは、カルマが殺せんせーに初めてダメージを与えていたが、そんな事、今のリンネには気にしていられなかった。
鐘の音が聞こえる。もう次の授業が始まってしまった。山の中にある小さな沢を見つめて、リンネは座り込んだ。
「…………逃げちゃった……」
膝を抱え直して、久方ぶりに見た弟の、リンネの想い人の顔を脳裏にリフレインさせる。ご飯は食べていると両親に聞いていたが、少しヤツれただろうか。あの教室でなら、逃げ出さずにいられると思ったけど、そう上手くは行かないようだ。リンネは小石を拾って沢に投げ入れる。ポチャン。静か過ぎて、世界に自分ひとりだけになったみたいだな。とリンネは膝小僧に額をつけて項垂れた。
赤羽リンネは弟を愛している。
それはもう10年近く自問自答を繰り返し、逃れられない事実だと飲み込んだ。近親姦のリスクや世間体については暗記する程調べた。少なくとも日本では“禁止”されている恋愛。自分に似た双子の弟を好きになるなんて、ナルシストなのでは、と悩んだ日もあった。リンネは自由奔放で、確固たる自分を持ったカルマが眩しかった。リンネに無い自由な想像力と行動力。眩しくて、羨ましくて、だから欲しかった。誰より近くに居た。彼がいなかったら自分はつまらない人間になっていたであろう自覚がある。
つまり、リンネが何を言いたいかというと、赤羽リンネにとって赤羽カルマとは。リンネにとってのカルマへの愛とは。
赤羽輪廻という人間の基礎なのである。
リンネが勉強するのも、遊ぶのも、食事をするのも、呼吸をするのも、全てカルマの隣に居続ける為。その為だけに生きてきた。彼に相応しい人間である事。それがリンネの誇りだった。
サボりなど今のリンネにとって珍しい事でもないが、リンネの体感で結構な時間が経った気がする。1人で悩めば悩む程、悪い方に考えが行ってしまい、悩みがひとつこぼれ落ちる。
「もう、カルマちゃんは僕なんていらないのかな?」
「リンネ」
後ろからかけられた声に後ろを振り向こうとするが、頭を鷲掴みにされて固定される。
「カルマちゃん……だよね」
返事は無い。だけどリンネには今背後に居るのはカルマだとわかった。すぐ側に、カルマがいる。それだけで心拍数が上がり、逃げた罪悪感が背筋を這い回る。
「俺が殺るから。そしたら、ちゃんと話がしたい。俺も逃げないから、リンネも逃げないで」
カルマの絞り出すような声にリンネは黙って頷き、リンネの後頭部にこつりとカルマの額がぶつかる。それだけで2人は信じ合えた。頭をくっつける時は、上手く言葉にできないが信じて欲しい時と決めているから。
そっと離された肌を、リンネはもう寂しいとは思わない。離れて行く足音に、リンネは振り抜かずに声を張る。
「覚えてないかもしれないけど、あの日言った事に嘘は無いよ」
立ち止まらずに去って行くカルマは、まるでそんな事最初から知っていると言っているようだとリンネは感じた。だからリンネは自己嫌悪に陥る。初めから、信じていなかったのは自分だけだったのかと。
「……違う。不安だっただけ」
言い聞かせるように呟く言葉は頼りなく、不安に揺れる視線の先の水面は変わらず凪いでいた。