弾丸論破 短編
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※王馬幼馴染みネタ、育成計画軸、捏造増し増し、自分の地雷にしか配慮してない、何でも許せる人はどうぞ
私の幼馴染みは、つまらない事が大嫌いな嘘吐きでイタズラ好きな迷惑野郎の王馬小吉である。
出会いは幼稚園。小さいながらも既にガキ大将として君臨していた王馬は、たまたま家が1番近かった私に目を付け、毎日イタズラの被害に遭っていた。
小学生になる頃には、それはもう王馬の事が大嫌いで、感情のままに殴り合った事も視界にも入れないように無視した事もある。それでも私に突っかかり続ける王馬に、私は思い付いてしまった。
私が王馬の仲間になってしまえばいいんだ。
そうと決まれば、イタズラを仕掛けてきた王馬にダメだしをして、もっと楽しくなる方法を説いた。するとどうだ。あんなにウザかった王馬が、目を輝かせて私の案をすごいと褒めたのだ。正直嬉しかった。
その日から私はイタズラを受ける側ではなく、仕掛ける側として王馬と走り回る事になった。王馬が掲げた「笑えるイタズラ」をモットーに、老若男女問わずその毒牙にかけて遊んだ。
でもそれは、中学生になった辺りで崩れ始めた。
中学生にもなると、男女が一緒にいるだけで色恋沙汰の噂が立つのだ。私も王馬も気にしなかったが、周りはそうはいかなかった。
男子にしては小柄で可愛らしい顔立ちの王馬は、その性格故関わると面倒だが、遠くから見るには目の保養になるのだ。つまりは、私は王馬から離れるよう説得という名の嫌がらせを受けるようになった。
ので、嬉々として返り討ちにしたのだが、それがまた王馬の琴線に触れたらしく、転げ回って笑い倒したと思ったら急に真顔になって私に言った。
「オレさ。もうイタズラなんてちゃちな事、卒業しようと思うんだ」
その言葉に、私からも表情が消える。私は王馬と笑えるイタズラをずっと続けたくて、嫌がらせにも耐えて反撃したのに、王馬はそんな私を置いて卒業しようとしている。
そんなの、そんなの……。消えた笑顔の裏から、涙がじわりと滲み出てくる。巻き込まれたのは私からだけど、こんな無責任に放り出されるなんて思っても見なかった。死んでも王馬に涙なんか見せなくなくて、涙が乾くよう目を見開いた。
王馬は笑っていた。
いつも通り、人を食ったような歪に口の端を持ち上げた笑顔で笑っていた。見覚えのあるその笑みに、私は安心した。王馬は変わっていない。王馬は王馬のままであると。
「オレと秘密結社を作ろう!」
今度は私が王馬の案に目を輝かせる番だった。
「もうイタズラなんて低レベルだよ! みょうじとならもっと上の『笑える犯罪』だって起こせるさ!」
ああ、それは。
きっと何より楽しいだろうさ。
私達は2人の悪ガキから、秘密結社「DICE」となった。そうは言っても所詮は子供。やれる事を増やそうと、信用できる大人を巻き込んだり俯くあの子に手を差し伸べたりして、気付くと人数は10を超えていた。
ひとつ、人殺しは絶対にしない。
ふたつ、最後に皆が笑える様にする。
みっつ、仲間を見捨てない。
まさに理想の悪の組織だった。王馬を中心に皆で案を出し合って、達成した事件は数知れず。私の中学生時代は夢とロマンに溢れた、少し薄汚れた薔薇色だった。
「オマエ高校どうすんの?」
……薔薇色だったのだ。王馬の一言で現実に帰された私は進路希望を睨み付けた。
「私は〜……やっぱ王馬と同じ所かな」
「無理。早く身の丈にあった高校探せよ」
「え? そんな頭いい所行くの?」
「それもあるけど違う。男子校行くんだよ」
そう言って王馬はカバンから取り出したパンフレットを私に見せる。そこには帝都大帝都高校の文字。伝統ある男子校でとんでもなく偏差値が高く、入学できれば某有名大学各所への入学が、ほぼほぼ確約されると噂の高校だった。
「嘘……私てっきり高校も一緒だと思ってたのに」
「あ、バレた? そう、嘘なんだー! ……って、言えればいいんだけどね」
「ぅあー! 王馬にそう言われると現実が3割増しで私に襲いかかって来る!!」
王馬の家は別に学歴主義という訳では無い。ただ期待が重いのだ、王馬ができてしまうからこそ。親の期待に応えると自由が増える。けど応えてしまうと次の期待が芽生えてしまう。そうやって、王馬はずっとテストで1位を取り続けてでも、DICEとの時間を選んだのだ。
「私、参謀の座を王馬に返却するね。王馬に頭で勝てる気しないし……」
「え、オマエその程度の脳ミソで秘密結社の参謀やってると思い込んでたの? うっわ、気付かなくてごめんね? 今度頭のお医者さん一緒に行こうか」
「わぁー、無駄に優しい言い方が逆に刺さるぅー」
こうやって、教室で王馬とくだらない話をするのも後わずかだと思うと、急に寂しさが込み上げて来て、もしかしたら高校生になったら王馬は忙しくなって、総統のいないDICEになってしまうんじゃないかという、根拠もクソもない不安で胸が満たされてしまった。
「また……そんな顔すんなってー。イザという時はヘリで迎えに来いよ! そしたら授業中でも喜んで飛び乗るからさっ!」
「やだ。王馬は嘘吐きだからそれも嘘なんだ」
「はぁ? めんどくさいなぁー、じゃあみょうじが連絡寄越せよ。超進学校でも、休みくらいはあるだろ」
「王馬の休み貰っていいの?」
「いいよいいよ。オレってばオマエの事ちょー大好きだからさー。連絡くれたら駆けつけちゃう」
「へへっ、私も総統の事好きだよ」
私がふざけてそう返すと、王馬は乱暴に私の頭をかき混ぜた。夕焼けに彩られる王馬のいつも通りの笑顔が、やっぱり私を安心させた。
私の頭は平均的だったので、進路希望には近所の公立校の名前を書いておいた。
「希望ヶ峰学園?」
私の声に頷くと、王馬は興味無さそうに封筒を机に置いた。DICEのメンバーは希望ヶ峰の名前に随分とテンションが高い。
「このオレの才能に目を付けるなんて、なかなか見所のある学校だね!」
調子のいい事を言っているが、作った笑顔に心底どうでもいいと書いてあるから、本当に興味無いんだろうな、と思って私も興味を無くした。
私の元にも希望ヶ峰の入学通知が届くまでは。
「あ、ちゃんと届いたー? よかったよかった」
戸惑った末に王馬に相談しようと家に駆け込めば、王馬は当然と言わんばかりに笑った。いや、さすがの王馬でも希望ヶ峰学園に関しては手を加えないだろうとタカをくくっていたのが間違いだった。
「な、何したの……?」
「別に? ただ不運にも、他の人に送られた『超高校級の幸運』の入学通知が鳩になって逃げちゃっただけだよ」
悪びれもしない回答に、私の表情筋は軽く痙攣する。王馬小吉は総統の顔で笑って続けた。
「あの手この手で郵送してたけど、オレ等が本気出せばこんくらい朝飯前だって。あ、本当に朝飯まだだから一緒に食べてく?」
「DICEの皆まで巻き込んだの? 私の所に届くかどうかわからないのに」
それが面白いんじゃん。そう言ってカラカラと笑う王馬の思惑がわからない。私を希望ヶ峰学園に入れて王馬にな何か得があるだろうか。
「アイツ等もDICEから2人も超高校級が出たら箔が付くって喜んでたし、オマエはオレが見出したんだよ? 運が天元突破にいいに決まってるよね!」
「私の運は天を貫く運なのかな?!」
実際に入学通知は私の元に届いてしまったのだ。ならば、学園の趣旨としても、王馬の機嫌の為にも、何より私の為に、王馬と同じ希望ヶ峰学園に行くしかないだろう。
また王馬と同じ学校で過ごせる。そう思うと自然と笑えてきて、つまらなくない生活に思いを馳せた。
「にしし、オレが退屈知らずの高校生活を提供してやるよ」
そして、私は王馬と一緒に希望ヶ峰学園へ入学した。1クラス17人という少数精鋭の才能溢れる高校生達は、皆がみんな個性に溢れていて、本来才能のない私は小さくなって王馬の腰巾着をしていた。だって全員美男美女で怖いんだもん。
入学する際、王馬は私にDICEのメンバーである事を隠すよう言った。私もスパイみたいに暗躍するのも悪くないと、その提案を受け入れた。
「なのに、いつもいつもオレにくっついてちゃ意味ないだろ! オマエそれでも悪の秘密結社の一員か!?」
「だだだ、だってぇー……」
全寮制の希望ヶ峰学園は1人に1部屋自室が与えられる。もちろん大きく男女で別れている筈だが、王馬は難なく女子側の私の部屋に入り込んでいる。
そこで私は正座させられて説教を受けている。内容は言わずもがな、私の生活態度だ。
「全員顔いいし、いい人だし、王馬のひねくれかまちょちゃんに慣れてると逆に関わり難いんだよー」
「その喧嘩高値で買ってやんよ。オマエみたいな陰湿鈍感いじめられっ子がオレ以外に友達作れる訳ないもんなぁ? 自分がコミュ障だからって、オレに原因を押し付けるのやめた方がいいよ。あ、でもそうしないと自尊心が保てないかぁ! なんの才能もない平凡でおバカなド級のぼっちだからね!」
「1を10で返すのやめろ! マジ泣きすんぞ! 王馬がいるからぼっちじゃないもん! ……もう王馬がいればいいもん……」
正座が嫌で、ちょっと王馬に仕返ししてやろうと吐いた悪口が、倍以上になって返って来ては私の精神力は持ちそうにない。正座を崩して床に蹲って丸まると、私の後頭部に王馬の呟く声が降ってくる。
「………………本当に?」
王馬の声色にいつもの笑顔がない気がして、慌てて顔を上げる。でもそこにはいつもより意地の悪そうな笑顔が私を見下ろしていた。
「自覚のない嘘が1番厄介だよね!」
それだけ言い残して、彼は部屋から出て行ってしまった。次の日、私の部屋から王馬が出て来たのが見られていたらしく、私は恋バナの気配を察知した女子に取り囲まれるわ、お堅い風紀委員に叱られるわで散々だった。
王馬に文句を言ってやろうと学園中を探したが、王馬の姿がどこにも見当たらない。1人で探すのに限界を感じ始めた私は、泣く泣く他人の力を借りる事にした。だが、誰に話しかけようか。顔も知らない先輩や同級生は王馬をまだ知らない可能性もある。できるならクラスメイトの方がいいだろう。そう考えた私は早速自分の教室へ向かうが、中には最原くん、星くん、百田くん、キーボくん、入間さん、春川さんの6人がいた。
は、話しかけずらい。星くんと春川さんはクール過ぎて未だに距離感が掴めないし、最原くん、百田くん、キーボくん、入間さんはいつも王馬がからかっている相手だ。王馬とつるんでいる私もいい気はしないだろう。うぅ、いっつも隣に王馬がいたから、1人でクラスメイトに声をかけるなんて難し過ぎる。こんな高難易度ミッション、DICEの作戦でもなかったよ。
「あの……みょうじさん? 大丈夫?」
「ぴょえっ」
体育座りで地面にのの字を書いていた私は近付いて来ていた人に気付かず、声をかけられて飛び上がって驚いた。勢いのまま声の主を見ると、最原くんが困った様な笑みを浮かべて頬を掻く。
「ずっと廊下から見てたでしょ? ……その、正直怪しくて」
「あっ、うっ、ごめんなさい。悪い事まだしてないです」
「まだ、な所がみょうじさんらしいけど……王馬くんと一緒じゃないなんて珍しいね」
最原くんが確信に迫ってくれた事でできた会話のチャンスを私が見逃す訳もなく、勇気を振り絞って本題に入る。
「そう、なの! 王馬、王馬を探してて! 最原くん知らない?」
言えた! 大丈夫、私だって王馬がいなくてもクラスメイトと会話くらいできる。あ、でもやっぱり顔が良過ぎてビビるわ。
「ごめん、知らないな。皆は王馬くんがどこにいるか知ってる?」
お優しい最原くんは他のメンツにも聞いてくれる。でも皆も王馬を見ていないらしく、私は途方に暮れる。
「彼氏の居場所くれぇしっかり把握しとけよ! このショタコン地味顔貧乳野郎が!」
教室の入り口に、比較的友好的な人が寄ってきて、その中の入間さんが私に高圧的に言い寄ってきた。
「ひぃ、おっきいおっぱい怖い。そ、そんな駄肉ぶら下げて引きちぎれないか心配だよ、どっかにぶつける前に四足歩行にでもなった方がいいよ? その乳に見合った牛らしくね」
「ひぃん、下から目線なのに家畜扱いされたぁ……」
「言い返し方がやっぱり王馬くんに似てるなぁ」
王馬が前に、入間さんは言葉でも肉体でも責められるのが大好きなドMだって言ってたから、私なりにサービスしたつもりなんだけど、なんか間違えた気がする。数人に囲まれた女子が座り込んでいるのも外聞が悪いので立ち上がって、入間さんの言葉に一応異を唱えておく。
「あと私、王馬と付き合ってないよ」
「え?」
その瞬間、空気が凍り付く。皆が何かを察した様子で視線を彷徨わせる。訳がわからなくて首を傾げていると、百田くんが最原くんの背中を押して言った。
「よし終一! みょうじに言ってやれ!」
「僕が!?」
百田くんの勢いに負けた最原くんは私向き直って、意を決して口を開いた。
「へい大将! やってるー?」
耳に入ってきたのは聞き慣れた王馬の声と、懐かしい下から感じる風と下半身の涼しさ。スカートをめくられたと察すると、パンツが見えるのも気にせず王馬に手を伸ばす。が、読まれていたらしく手のひらは空を切る。
そうだ。私がどうして人と話すのが苦手になったのか、思い出した。私が王馬を放置して話していると、こうやってスカートをめくってきたからだ。諦めてズボンを履きだした時には、もう既に王馬とくらいしか話さなくなっていたから気付かなかった。
「王馬ぁ!!」
私のパンツにそれぞれの反応を返すクラスメイトを放って、私は王馬の背中を追いかけた。
「お前、小学生の頃から何も変わってないじゃん!」
「みょうじだってパンツのセンス小学生と変わんないね!」
人の迷惑に目もくれず、私と王馬は大声で叫びながら学園中を駆け回る。誰か背面プリントパンツじゃい、さすがに中学生で卒業して今はレースの水色パンツだよ。
「オレがいないとダメだもんな! さっきだって何? クラスメイトにキョドってどもり過ぎでしょ!」
「見てたなら早く出て来いよ! そうだよっ! 私は王馬がいないとダメなの! お前にそうされたの! だから責任持って最後まで面倒見ろっ!」
裏庭の生垣に向かって、王馬ごと倒れるようにタックルをかます。思っていたよりも抵抗なく倒れ込む王馬を逃がさないように、仰向けの王馬に馬乗りなって胸元を掴む。
「随分と熱烈なプロポーズじゃん」
「王馬と私がそういう関係じゃないのは王馬が1番知ってるでしょ」
「そうだね、ムカつくくらい知ってる」
わざとらしい大きな溜め息を吐いて、王馬は胸ぐらを掴まれながら器用に肩を竦めた。
「クラスの連中も、なんか期待してるからオマエと付き合ってるーって嘘吐いたら信じるし、しかも嘘だって言ってもそっちは信じてくれないしで、ホント、困っちゃうよねー」
なるほど、さっきの変な空気はそういう理由だったのか。確かに、付き合ってると思っていた2人の片割れが否定したら、あんな空気にもなるし、実は片想いだったのかと同情してしまう。そこで私は察してしまう。
「王馬、私の事好きだと思われてるよ、いいの?」
百田くんと最原くんの反応は絶対にそれだった。だから言いにくそうにしていたんだ。でも実際には、私にも王馬にも懸想の念はひとかけらもない。勘違いなのだから、いつか本当に好きな人が出来た時の為に誤解は解いておいた方がいいだろう、そう思った。
すると私の視界はぐるりと回転して、簡単に王馬にマウントを取られてしまった。大人しいから油断した。慌てて下から逃れようと藻掻くが、小さくとも男子の力で押さえ付けられてはどうしようもない。王馬の手が私の頬に添えられる。促されるまま王馬の顔を見ると、たまにする真顔がこちらを見つめる。
「本当に、オレはずうっと好きなのに?」
は。と、聞き直す暇も与えず、王馬の顔が近づく。男のクセに肌は白いしまつ毛も長いな、なんて考えた所で、王馬の事だからキスするフリして頭突きでもするんだろうと、衝撃に目を閉じ身構えた。
でも与えられたのは、ふわりと柔らかな唇の感触で。
「ほら、証拠」
そう言っていつもみたいに笑う王馬の顔を私は知らない。王馬が私を好きだなんて、そんなのも知らない。初めてじゃないのに、初めてに見える王馬の笑顔に、私の心は安心なんて程遠く、鼓動を早める。
未視感を与えるいつも通りの笑顔が、私には宝物のように輝いて見えるのだった。
私の幼馴染みは、つまらない事が大嫌いな嘘吐きでイタズラ好きな迷惑野郎の王馬小吉である。
出会いは幼稚園。小さいながらも既にガキ大将として君臨していた王馬は、たまたま家が1番近かった私に目を付け、毎日イタズラの被害に遭っていた。
小学生になる頃には、それはもう王馬の事が大嫌いで、感情のままに殴り合った事も視界にも入れないように無視した事もある。それでも私に突っかかり続ける王馬に、私は思い付いてしまった。
私が王馬の仲間になってしまえばいいんだ。
そうと決まれば、イタズラを仕掛けてきた王馬にダメだしをして、もっと楽しくなる方法を説いた。するとどうだ。あんなにウザかった王馬が、目を輝かせて私の案をすごいと褒めたのだ。正直嬉しかった。
その日から私はイタズラを受ける側ではなく、仕掛ける側として王馬と走り回る事になった。王馬が掲げた「笑えるイタズラ」をモットーに、老若男女問わずその毒牙にかけて遊んだ。
でもそれは、中学生になった辺りで崩れ始めた。
中学生にもなると、男女が一緒にいるだけで色恋沙汰の噂が立つのだ。私も王馬も気にしなかったが、周りはそうはいかなかった。
男子にしては小柄で可愛らしい顔立ちの王馬は、その性格故関わると面倒だが、遠くから見るには目の保養になるのだ。つまりは、私は王馬から離れるよう説得という名の嫌がらせを受けるようになった。
ので、嬉々として返り討ちにしたのだが、それがまた王馬の琴線に触れたらしく、転げ回って笑い倒したと思ったら急に真顔になって私に言った。
「オレさ。もうイタズラなんてちゃちな事、卒業しようと思うんだ」
その言葉に、私からも表情が消える。私は王馬と笑えるイタズラをずっと続けたくて、嫌がらせにも耐えて反撃したのに、王馬はそんな私を置いて卒業しようとしている。
そんなの、そんなの……。消えた笑顔の裏から、涙がじわりと滲み出てくる。巻き込まれたのは私からだけど、こんな無責任に放り出されるなんて思っても見なかった。死んでも王馬に涙なんか見せなくなくて、涙が乾くよう目を見開いた。
王馬は笑っていた。
いつも通り、人を食ったような歪に口の端を持ち上げた笑顔で笑っていた。見覚えのあるその笑みに、私は安心した。王馬は変わっていない。王馬は王馬のままであると。
「オレと秘密結社を作ろう!」
今度は私が王馬の案に目を輝かせる番だった。
「もうイタズラなんて低レベルだよ! みょうじとならもっと上の『笑える犯罪』だって起こせるさ!」
ああ、それは。
きっと何より楽しいだろうさ。
私達は2人の悪ガキから、秘密結社「DICE」となった。そうは言っても所詮は子供。やれる事を増やそうと、信用できる大人を巻き込んだり俯くあの子に手を差し伸べたりして、気付くと人数は10を超えていた。
ひとつ、人殺しは絶対にしない。
ふたつ、最後に皆が笑える様にする。
みっつ、仲間を見捨てない。
まさに理想の悪の組織だった。王馬を中心に皆で案を出し合って、達成した事件は数知れず。私の中学生時代は夢とロマンに溢れた、少し薄汚れた薔薇色だった。
「オマエ高校どうすんの?」
……薔薇色だったのだ。王馬の一言で現実に帰された私は進路希望を睨み付けた。
「私は〜……やっぱ王馬と同じ所かな」
「無理。早く身の丈にあった高校探せよ」
「え? そんな頭いい所行くの?」
「それもあるけど違う。男子校行くんだよ」
そう言って王馬はカバンから取り出したパンフレットを私に見せる。そこには帝都大帝都高校の文字。伝統ある男子校でとんでもなく偏差値が高く、入学できれば某有名大学各所への入学が、ほぼほぼ確約されると噂の高校だった。
「嘘……私てっきり高校も一緒だと思ってたのに」
「あ、バレた? そう、嘘なんだー! ……って、言えればいいんだけどね」
「ぅあー! 王馬にそう言われると現実が3割増しで私に襲いかかって来る!!」
王馬の家は別に学歴主義という訳では無い。ただ期待が重いのだ、王馬ができてしまうからこそ。親の期待に応えると自由が増える。けど応えてしまうと次の期待が芽生えてしまう。そうやって、王馬はずっとテストで1位を取り続けてでも、DICEとの時間を選んだのだ。
「私、参謀の座を王馬に返却するね。王馬に頭で勝てる気しないし……」
「え、オマエその程度の脳ミソで秘密結社の参謀やってると思い込んでたの? うっわ、気付かなくてごめんね? 今度頭のお医者さん一緒に行こうか」
「わぁー、無駄に優しい言い方が逆に刺さるぅー」
こうやって、教室で王馬とくだらない話をするのも後わずかだと思うと、急に寂しさが込み上げて来て、もしかしたら高校生になったら王馬は忙しくなって、総統のいないDICEになってしまうんじゃないかという、根拠もクソもない不安で胸が満たされてしまった。
「また……そんな顔すんなってー。イザという時はヘリで迎えに来いよ! そしたら授業中でも喜んで飛び乗るからさっ!」
「やだ。王馬は嘘吐きだからそれも嘘なんだ」
「はぁ? めんどくさいなぁー、じゃあみょうじが連絡寄越せよ。超進学校でも、休みくらいはあるだろ」
「王馬の休み貰っていいの?」
「いいよいいよ。オレってばオマエの事ちょー大好きだからさー。連絡くれたら駆けつけちゃう」
「へへっ、私も総統の事好きだよ」
私がふざけてそう返すと、王馬は乱暴に私の頭をかき混ぜた。夕焼けに彩られる王馬のいつも通りの笑顔が、やっぱり私を安心させた。
私の頭は平均的だったので、進路希望には近所の公立校の名前を書いておいた。
「希望ヶ峰学園?」
私の声に頷くと、王馬は興味無さそうに封筒を机に置いた。DICEのメンバーは希望ヶ峰の名前に随分とテンションが高い。
「このオレの才能に目を付けるなんて、なかなか見所のある学校だね!」
調子のいい事を言っているが、作った笑顔に心底どうでもいいと書いてあるから、本当に興味無いんだろうな、と思って私も興味を無くした。
私の元にも希望ヶ峰の入学通知が届くまでは。
「あ、ちゃんと届いたー? よかったよかった」
戸惑った末に王馬に相談しようと家に駆け込めば、王馬は当然と言わんばかりに笑った。いや、さすがの王馬でも希望ヶ峰学園に関しては手を加えないだろうとタカをくくっていたのが間違いだった。
「な、何したの……?」
「別に? ただ不運にも、他の人に送られた『超高校級の幸運』の入学通知が鳩になって逃げちゃっただけだよ」
悪びれもしない回答に、私の表情筋は軽く痙攣する。王馬小吉は総統の顔で笑って続けた。
「あの手この手で郵送してたけど、オレ等が本気出せばこんくらい朝飯前だって。あ、本当に朝飯まだだから一緒に食べてく?」
「DICEの皆まで巻き込んだの? 私の所に届くかどうかわからないのに」
それが面白いんじゃん。そう言ってカラカラと笑う王馬の思惑がわからない。私を希望ヶ峰学園に入れて王馬にな何か得があるだろうか。
「アイツ等もDICEから2人も超高校級が出たら箔が付くって喜んでたし、オマエはオレが見出したんだよ? 運が天元突破にいいに決まってるよね!」
「私の運は天を貫く運なのかな?!」
実際に入学通知は私の元に届いてしまったのだ。ならば、学園の趣旨としても、王馬の機嫌の為にも、何より私の為に、王馬と同じ希望ヶ峰学園に行くしかないだろう。
また王馬と同じ学校で過ごせる。そう思うと自然と笑えてきて、つまらなくない生活に思いを馳せた。
「にしし、オレが退屈知らずの高校生活を提供してやるよ」
そして、私は王馬と一緒に希望ヶ峰学園へ入学した。1クラス17人という少数精鋭の才能溢れる高校生達は、皆がみんな個性に溢れていて、本来才能のない私は小さくなって王馬の腰巾着をしていた。だって全員美男美女で怖いんだもん。
入学する際、王馬は私にDICEのメンバーである事を隠すよう言った。私もスパイみたいに暗躍するのも悪くないと、その提案を受け入れた。
「なのに、いつもいつもオレにくっついてちゃ意味ないだろ! オマエそれでも悪の秘密結社の一員か!?」
「だだだ、だってぇー……」
全寮制の希望ヶ峰学園は1人に1部屋自室が与えられる。もちろん大きく男女で別れている筈だが、王馬は難なく女子側の私の部屋に入り込んでいる。
そこで私は正座させられて説教を受けている。内容は言わずもがな、私の生活態度だ。
「全員顔いいし、いい人だし、王馬のひねくれかまちょちゃんに慣れてると逆に関わり難いんだよー」
「その喧嘩高値で買ってやんよ。オマエみたいな陰湿鈍感いじめられっ子がオレ以外に友達作れる訳ないもんなぁ? 自分がコミュ障だからって、オレに原因を押し付けるのやめた方がいいよ。あ、でもそうしないと自尊心が保てないかぁ! なんの才能もない平凡でおバカなド級のぼっちだからね!」
「1を10で返すのやめろ! マジ泣きすんぞ! 王馬がいるからぼっちじゃないもん! ……もう王馬がいればいいもん……」
正座が嫌で、ちょっと王馬に仕返ししてやろうと吐いた悪口が、倍以上になって返って来ては私の精神力は持ちそうにない。正座を崩して床に蹲って丸まると、私の後頭部に王馬の呟く声が降ってくる。
「………………本当に?」
王馬の声色にいつもの笑顔がない気がして、慌てて顔を上げる。でもそこにはいつもより意地の悪そうな笑顔が私を見下ろしていた。
「自覚のない嘘が1番厄介だよね!」
それだけ言い残して、彼は部屋から出て行ってしまった。次の日、私の部屋から王馬が出て来たのが見られていたらしく、私は恋バナの気配を察知した女子に取り囲まれるわ、お堅い風紀委員に叱られるわで散々だった。
王馬に文句を言ってやろうと学園中を探したが、王馬の姿がどこにも見当たらない。1人で探すのに限界を感じ始めた私は、泣く泣く他人の力を借りる事にした。だが、誰に話しかけようか。顔も知らない先輩や同級生は王馬をまだ知らない可能性もある。できるならクラスメイトの方がいいだろう。そう考えた私は早速自分の教室へ向かうが、中には最原くん、星くん、百田くん、キーボくん、入間さん、春川さんの6人がいた。
は、話しかけずらい。星くんと春川さんはクール過ぎて未だに距離感が掴めないし、最原くん、百田くん、キーボくん、入間さんはいつも王馬がからかっている相手だ。王馬とつるんでいる私もいい気はしないだろう。うぅ、いっつも隣に王馬がいたから、1人でクラスメイトに声をかけるなんて難し過ぎる。こんな高難易度ミッション、DICEの作戦でもなかったよ。
「あの……みょうじさん? 大丈夫?」
「ぴょえっ」
体育座りで地面にのの字を書いていた私は近付いて来ていた人に気付かず、声をかけられて飛び上がって驚いた。勢いのまま声の主を見ると、最原くんが困った様な笑みを浮かべて頬を掻く。
「ずっと廊下から見てたでしょ? ……その、正直怪しくて」
「あっ、うっ、ごめんなさい。悪い事まだしてないです」
「まだ、な所がみょうじさんらしいけど……王馬くんと一緒じゃないなんて珍しいね」
最原くんが確信に迫ってくれた事でできた会話のチャンスを私が見逃す訳もなく、勇気を振り絞って本題に入る。
「そう、なの! 王馬、王馬を探してて! 最原くん知らない?」
言えた! 大丈夫、私だって王馬がいなくてもクラスメイトと会話くらいできる。あ、でもやっぱり顔が良過ぎてビビるわ。
「ごめん、知らないな。皆は王馬くんがどこにいるか知ってる?」
お優しい最原くんは他のメンツにも聞いてくれる。でも皆も王馬を見ていないらしく、私は途方に暮れる。
「彼氏の居場所くれぇしっかり把握しとけよ! このショタコン地味顔貧乳野郎が!」
教室の入り口に、比較的友好的な人が寄ってきて、その中の入間さんが私に高圧的に言い寄ってきた。
「ひぃ、おっきいおっぱい怖い。そ、そんな駄肉ぶら下げて引きちぎれないか心配だよ、どっかにぶつける前に四足歩行にでもなった方がいいよ? その乳に見合った牛らしくね」
「ひぃん、下から目線なのに家畜扱いされたぁ……」
「言い返し方がやっぱり王馬くんに似てるなぁ」
王馬が前に、入間さんは言葉でも肉体でも責められるのが大好きなドMだって言ってたから、私なりにサービスしたつもりなんだけど、なんか間違えた気がする。数人に囲まれた女子が座り込んでいるのも外聞が悪いので立ち上がって、入間さんの言葉に一応異を唱えておく。
「あと私、王馬と付き合ってないよ」
「え?」
その瞬間、空気が凍り付く。皆が何かを察した様子で視線を彷徨わせる。訳がわからなくて首を傾げていると、百田くんが最原くんの背中を押して言った。
「よし終一! みょうじに言ってやれ!」
「僕が!?」
百田くんの勢いに負けた最原くんは私向き直って、意を決して口を開いた。
「へい大将! やってるー?」
耳に入ってきたのは聞き慣れた王馬の声と、懐かしい下から感じる風と下半身の涼しさ。スカートをめくられたと察すると、パンツが見えるのも気にせず王馬に手を伸ばす。が、読まれていたらしく手のひらは空を切る。
そうだ。私がどうして人と話すのが苦手になったのか、思い出した。私が王馬を放置して話していると、こうやってスカートをめくってきたからだ。諦めてズボンを履きだした時には、もう既に王馬とくらいしか話さなくなっていたから気付かなかった。
「王馬ぁ!!」
私のパンツにそれぞれの反応を返すクラスメイトを放って、私は王馬の背中を追いかけた。
「お前、小学生の頃から何も変わってないじゃん!」
「みょうじだってパンツのセンス小学生と変わんないね!」
人の迷惑に目もくれず、私と王馬は大声で叫びながら学園中を駆け回る。誰か背面プリントパンツじゃい、さすがに中学生で卒業して今はレースの水色パンツだよ。
「オレがいないとダメだもんな! さっきだって何? クラスメイトにキョドってどもり過ぎでしょ!」
「見てたなら早く出て来いよ! そうだよっ! 私は王馬がいないとダメなの! お前にそうされたの! だから責任持って最後まで面倒見ろっ!」
裏庭の生垣に向かって、王馬ごと倒れるようにタックルをかます。思っていたよりも抵抗なく倒れ込む王馬を逃がさないように、仰向けの王馬に馬乗りなって胸元を掴む。
「随分と熱烈なプロポーズじゃん」
「王馬と私がそういう関係じゃないのは王馬が1番知ってるでしょ」
「そうだね、ムカつくくらい知ってる」
わざとらしい大きな溜め息を吐いて、王馬は胸ぐらを掴まれながら器用に肩を竦めた。
「クラスの連中も、なんか期待してるからオマエと付き合ってるーって嘘吐いたら信じるし、しかも嘘だって言ってもそっちは信じてくれないしで、ホント、困っちゃうよねー」
なるほど、さっきの変な空気はそういう理由だったのか。確かに、付き合ってると思っていた2人の片割れが否定したら、あんな空気にもなるし、実は片想いだったのかと同情してしまう。そこで私は察してしまう。
「王馬、私の事好きだと思われてるよ、いいの?」
百田くんと最原くんの反応は絶対にそれだった。だから言いにくそうにしていたんだ。でも実際には、私にも王馬にも懸想の念はひとかけらもない。勘違いなのだから、いつか本当に好きな人が出来た時の為に誤解は解いておいた方がいいだろう、そう思った。
すると私の視界はぐるりと回転して、簡単に王馬にマウントを取られてしまった。大人しいから油断した。慌てて下から逃れようと藻掻くが、小さくとも男子の力で押さえ付けられてはどうしようもない。王馬の手が私の頬に添えられる。促されるまま王馬の顔を見ると、たまにする真顔がこちらを見つめる。
「本当に、オレはずうっと好きなのに?」
は。と、聞き直す暇も与えず、王馬の顔が近づく。男のクセに肌は白いしまつ毛も長いな、なんて考えた所で、王馬の事だからキスするフリして頭突きでもするんだろうと、衝撃に目を閉じ身構えた。
でも与えられたのは、ふわりと柔らかな唇の感触で。
「ほら、証拠」
そう言っていつもみたいに笑う王馬の顔を私は知らない。王馬が私を好きだなんて、そんなのも知らない。初めてじゃないのに、初めてに見える王馬の笑顔に、私の心は安心なんて程遠く、鼓動を早める。
未視感を与えるいつも通りの笑顔が、私には宝物のように輝いて見えるのだった。
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