1学期
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イリーナに魅了され、ベトナムやインドに使い走りにされる殺せんせーを呆れた目で眺める生徒。そして「女」を武器にする暗殺者は、授業中の教室で己の作戦を練り上げていた。
暗殺教室が始まってから初めてのプロの殺し屋が、生徒達の日常を僅かに歪ませる。教室に来てから授業をしてくれないイリーナに、カルマが呼称した略称のビッチねえさんを連呼されてやっと授業を始めるかと思いきや、下唇を噛ませるだけの内容に皆がイラつきを覚える。
次の授業で例の倉庫にしけこむ殺せんせーとイリーナの2人に、生徒は皆、殺せんせーには落胆を、イリーナには嫌悪を見せる。国の指示である事に加え、手際の良さは流石プロだと褒める烏間に、リンネは笑う様に告げる。
「どうせあの人にはムリだよ。早く授業の続きに戻ろう?」
リンネの断言する言葉に、クラスメイトはそぞろに同意を示して笑い合う。ついさっきまで烏間が褒めた事でイリーナの印象を変えた生徒が、リンネの言葉でまた色を変えた。心のどこかにある「殺せんせーは殺せない」という気持ちを刺激し、嫌われている傾向にあるイリーナを餌に増幅させ、彼女では殺せないと思い込ませる。言葉の抑揚、肯定からの否定、既にあるイリーナへの反感。それらはこの場に相手を軽視してもよい空気を作り出す。結果、リンネが望むままに生徒はより一層リンネの敵を厭う。
それは、この学園にあるE組を見下す空気と似たものだった。
たかが空気。だがそれは、教室という箱庭の中では同調圧力と多数派によって、時に正義を作り出す毒。一つ間違えれば自分すら殺す毒をいとも簡単に操るリンネに、烏間は静かに目を見張る。だがプロの殺し屋を軽視するのはこれから先危険が伴う。烏間が注意しようとした瞬間、倉庫から長い銃声が響き渡る。普段生徒達が使うようなエアガンではない、本物の銃声。小さくとも火薬が爆発する重いその音は、空気に染まった生徒の目を覚ますには充分な非日常だった。
「残念。さすがに本物の殺し屋を潰すのは難しいな」
そう誰にも聞こえないように吐息と共に漏らすと、リンネは笑って成り行きを見る。けたたましい銃声が止むと、今度は鋭い悲鳴が耳に刺さる。続いてヌルヌルと卑猥な音が地を這い始めると、野次馬根性で皆倉庫へと駆ける。丁度中から出てきた殺せんせーに渚はすぐさま問いかける。
「殺せんせー!! おっぱいは?」
「いやぁ……もう少し楽しみたかったですが……。皆さんとの授業の方が楽しみですから。6時間目の小テストは手強いですよぉ」
だらしなく顔を緩ませたと思えば、すぐにいつもの表情で生徒の事を考えている。それが殺せんせーだ。そんな殺せんせーの後ろを覚束無い足取りで出てきたのは、今どきフィクションの世界でしか見かけないレトロなブルマの体操着姿にされたイリーナだった。うわ言のように殺せんせーにされた手入れの数々を挙げると、力尽きてその場に倒れ伏した。
「殺せんせー何したの?」
「さぁねぇ。大人には大人の手入れがありますから」
悪い大人の顔をした殺せんせーに連れられて、生徒達は教室に向かう。安堵、恐怖、嘆息、同情、無関心、様々な視線をイリーナに向けながら。その最後尾を歩くリンネは、明確な嘲りをイリーナに突き立てる。
「さっすがプロ、勉強になります♡」
「こンのクソガキっ、タコ殺したら絶対あんたも殺す!!」
「だぁかぁらぁ、おプロ様のままじゃあ殺せないよ。それがわからないなら、あなたは暗殺教室にはいらない。じゃあねー」
渾身の暗殺は失敗。しかも暗殺対象に手入れされて、子供に上から目線で馬鹿にされる。イリーナは今まで生きてきた中で味わった事の無い屈辱に、引きちぎった鉢巻を握った拳で地面を殴り付けて吠える。
「プロとして……いいえ、1人の殺し屋として! この屈辱は必ず返してやる!!」
再びのイリーナが受け持つ授業。教卓ではイリーナは苛立った様子を隠す素振りも見せず、その整えられた長い爪でタブレットの液晶を乱暴に叩いていた。その脳内では複数の作戦が試行されては自身で不可能と烙印を押す作業が繰り返される。
いつも通り、上手く女を使え。弱く、馬鹿なフリは得意だ。どんなに馬鹿にされてもいい。最終的に対象を殺せれば、それが殺し屋にとっての勝利。作戦の立案と状況への不満の裏で、自分を奮い立たせる為にそう言い聞かせる。
「先生」
磯貝の通る声がイリーナの思考を両断して強制的に中断させる。面倒、邪魔だ。そう思いつつも一応の聞く姿勢を見せると、磯貝は言いづらそうに続けた。
「授業してくれないなら殺せんせーと交代してくれませんか? 一応俺等、今年受験なんで……」
磯貝の言葉を鼻で笑い飛ばすと、死に程遠い場所で暮らしてきた子供達を能天気だと言い捨てる。そして次の台詞はこの場にいる生徒の逆鱗に触れた。
「聞けばあんた達E組って……この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今さらしても意味無いでしょ」
「ありゃ、僕がやらなくても自滅しちゃった」
素直に驚いた様子で笑うリンネにも、一気に変わった教室の雰囲気にも気付かず、イリーナはひとり滑稽に言葉を連ねる。もう誰も聞いてはいない声を、20を超える敵意に身を晒しながら。
最初に消しゴムを投げたのは誰だったのだろう。それを皮切りに、思い思いに手元の物を目の前の邪魔者目掛けて投げ付け、ブーイングと共に生徒達はイリーナを教室から追い出した。
教師の居なくなった教室で各自自習する流れになると、自然と増える私語。ざわめきに紛れて渚はリンネにそれとなく訊ねる。
「今回のは……リンネちゃんじゃないよね?」
「なんのコト? ビッチねえさんが勝手に自滅したの、僕関係ないよ」
「……そっか」
渚の問いに隣で聞いていた茅野がどういう意図なのか聞くと、さっきよりも声を抑えて答えてくれた。
「1年の時の話なんだけど、リンネちゃんの赤髪を注意した先生がいたんだ。地毛でも赤過ぎるから染めろって。そしたらリンネちゃん、クラスメイトを先導してその先生の事いじめ抜いて辞めさせたんだよ」
「え、そんな事して停学にならなかったの?」
「まぁ端的に言って証拠不十分って事で停学は免れたんだけど。何より、他の人がリンネちゃんは悪くない、その先生が悪いんだ。ってみんなして口を揃えるからリンネちゃん1人を罰するわけにもいかない、けど実行犯はクラスの女子全員だって証言するから、全員を停学にすれば外聞が悪いってなって……教師が1人、勝手に辞職した。って結果になったんだ」
「そんな……怖い人なの?」
「あはは……この話には続きがあって、その先生が辞めるって話になった理由がね、セクハラとか暴力とかの被害を受けていた生徒が大勢いたって事がわかって、生徒側が学校に訴えようとした所で逃げたって言うのが真相」
「ろ、ロリコン教師……?」
「うん。しかも手口が卑怯で、まず生徒指導って形で呼び出して、無理やり脱がせた所の写真を撮って脅すんだって。そんなの、親にも先生にも相談できないって子がいっぱいいたから、リンネちゃんが囮になって証拠見つけた上に家まで乗り込んでデータ壊して、その先生を追い詰めたんだ」
「すっごい! 赤羽さんってヒーローみたいだね!」
「生徒から見たらね。学校側からしたら先生いじめて辞めさせた問題児って、だいぶマークされちゃったらしいよ」
「懐かしい話してンね。それ、渚君も被害に遭ってたヤツでしょ?」
「あっ、カルマ君! それはナイショにしてって!」
話の途中で割り込んできたカルマの口を塞ごうと両腕を振って抵抗する渚だが、片手で簡単に抑え込まれてしまう。
「渚も被害に……殴られたの?」
「渚君、脱がされた方だって」
「あー! あー!! なんで言っちゃうの!」
顔を真っ赤にして俯いてしまう渚に、茅野は笑い飛ばすべきか慰めるべきか悩んだ末にスルーを決め込む。
「でも、逃げられちゃったなんてムカつくね、その変態!」
「風の噂では、職も奥さんも失って路頭に迷う事になったとか何とか」
渚をイジる合間に、カルマはその後についての噂を思い出す。以前からあったリンネの大人への不信感は、この事件を切っ掛けに拍車をかけた。特に、教師に対しては「先生」と呼ぶ事すら殆ど無くなった。
「つまりさ、リンネは人をけしかけるのが上手いンだよ。共感させて共通の敵を作って、我こそ正義と思い込ませるのがね」
そう、カルマは姉を評する。事実、事件のあったクラスは異様に仲間意識と協調性が高く、攻撃的であった。仲間でなければ自分の敵と言わんばかりの排他的な思考。最終的には理事長によるカウンセリングで、あの不気味な雰囲気は消えたのだが。
そこでチャイムが鳴り響き、授業が終わる。自習もろくにできなかったが、頭のいいブラコンだと思っていたリンネの恐ろしい一面を垣間見た茅野は、ひとつ決心をする。
暗殺教室が始まってから初めてのプロの殺し屋が、生徒達の日常を僅かに歪ませる。教室に来てから授業をしてくれないイリーナに、カルマが呼称した略称のビッチねえさんを連呼されてやっと授業を始めるかと思いきや、下唇を噛ませるだけの内容に皆がイラつきを覚える。
次の授業で例の倉庫にしけこむ殺せんせーとイリーナの2人に、生徒は皆、殺せんせーには落胆を、イリーナには嫌悪を見せる。国の指示である事に加え、手際の良さは流石プロだと褒める烏間に、リンネは笑う様に告げる。
「どうせあの人にはムリだよ。早く授業の続きに戻ろう?」
リンネの断言する言葉に、クラスメイトはそぞろに同意を示して笑い合う。ついさっきまで烏間が褒めた事でイリーナの印象を変えた生徒が、リンネの言葉でまた色を変えた。心のどこかにある「殺せんせーは殺せない」という気持ちを刺激し、嫌われている傾向にあるイリーナを餌に増幅させ、彼女では殺せないと思い込ませる。言葉の抑揚、肯定からの否定、既にあるイリーナへの反感。それらはこの場に相手を軽視してもよい空気を作り出す。結果、リンネが望むままに生徒はより一層リンネの敵を厭う。
それは、この学園にあるE組を見下す空気と似たものだった。
たかが空気。だがそれは、教室という箱庭の中では同調圧力と多数派によって、時に正義を作り出す毒。一つ間違えれば自分すら殺す毒をいとも簡単に操るリンネに、烏間は静かに目を見張る。だがプロの殺し屋を軽視するのはこれから先危険が伴う。烏間が注意しようとした瞬間、倉庫から長い銃声が響き渡る。普段生徒達が使うようなエアガンではない、本物の銃声。小さくとも火薬が爆発する重いその音は、空気に染まった生徒の目を覚ますには充分な非日常だった。
「残念。さすがに本物の殺し屋を潰すのは難しいな」
そう誰にも聞こえないように吐息と共に漏らすと、リンネは笑って成り行きを見る。けたたましい銃声が止むと、今度は鋭い悲鳴が耳に刺さる。続いてヌルヌルと卑猥な音が地を這い始めると、野次馬根性で皆倉庫へと駆ける。丁度中から出てきた殺せんせーに渚はすぐさま問いかける。
「殺せんせー!! おっぱいは?」
「いやぁ……もう少し楽しみたかったですが……。皆さんとの授業の方が楽しみですから。6時間目の小テストは手強いですよぉ」
だらしなく顔を緩ませたと思えば、すぐにいつもの表情で生徒の事を考えている。それが殺せんせーだ。そんな殺せんせーの後ろを覚束無い足取りで出てきたのは、今どきフィクションの世界でしか見かけないレトロなブルマの体操着姿にされたイリーナだった。うわ言のように殺せんせーにされた手入れの数々を挙げると、力尽きてその場に倒れ伏した。
「殺せんせー何したの?」
「さぁねぇ。大人には大人の手入れがありますから」
悪い大人の顔をした殺せんせーに連れられて、生徒達は教室に向かう。安堵、恐怖、嘆息、同情、無関心、様々な視線をイリーナに向けながら。その最後尾を歩くリンネは、明確な嘲りをイリーナに突き立てる。
「さっすがプロ、勉強になります♡」
「こンのクソガキっ、タコ殺したら絶対あんたも殺す!!」
「だぁかぁらぁ、おプロ様のままじゃあ殺せないよ。それがわからないなら、あなたは暗殺教室にはいらない。じゃあねー」
渾身の暗殺は失敗。しかも暗殺対象に手入れされて、子供に上から目線で馬鹿にされる。イリーナは今まで生きてきた中で味わった事の無い屈辱に、引きちぎった鉢巻を握った拳で地面を殴り付けて吠える。
「プロとして……いいえ、1人の殺し屋として! この屈辱は必ず返してやる!!」
再びのイリーナが受け持つ授業。教卓ではイリーナは苛立った様子を隠す素振りも見せず、その整えられた長い爪でタブレットの液晶を乱暴に叩いていた。その脳内では複数の作戦が試行されては自身で不可能と烙印を押す作業が繰り返される。
いつも通り、上手く女を使え。弱く、馬鹿なフリは得意だ。どんなに馬鹿にされてもいい。最終的に対象を殺せれば、それが殺し屋にとっての勝利。作戦の立案と状況への不満の裏で、自分を奮い立たせる為にそう言い聞かせる。
「先生」
磯貝の通る声がイリーナの思考を両断して強制的に中断させる。面倒、邪魔だ。そう思いつつも一応の聞く姿勢を見せると、磯貝は言いづらそうに続けた。
「授業してくれないなら殺せんせーと交代してくれませんか? 一応俺等、今年受験なんで……」
磯貝の言葉を鼻で笑い飛ばすと、死に程遠い場所で暮らしてきた子供達を能天気だと言い捨てる。そして次の台詞はこの場にいる生徒の逆鱗に触れた。
「聞けばあんた達E組って……この学校の落ちこぼれだそうじゃない。勉強なんて今さらしても意味無いでしょ」
「ありゃ、僕がやらなくても自滅しちゃった」
素直に驚いた様子で笑うリンネにも、一気に変わった教室の雰囲気にも気付かず、イリーナはひとり滑稽に言葉を連ねる。もう誰も聞いてはいない声を、20を超える敵意に身を晒しながら。
最初に消しゴムを投げたのは誰だったのだろう。それを皮切りに、思い思いに手元の物を目の前の邪魔者目掛けて投げ付け、ブーイングと共に生徒達はイリーナを教室から追い出した。
教師の居なくなった教室で各自自習する流れになると、自然と増える私語。ざわめきに紛れて渚はリンネにそれとなく訊ねる。
「今回のは……リンネちゃんじゃないよね?」
「なんのコト? ビッチねえさんが勝手に自滅したの、僕関係ないよ」
「……そっか」
渚の問いに隣で聞いていた茅野がどういう意図なのか聞くと、さっきよりも声を抑えて答えてくれた。
「1年の時の話なんだけど、リンネちゃんの赤髪を注意した先生がいたんだ。地毛でも赤過ぎるから染めろって。そしたらリンネちゃん、クラスメイトを先導してその先生の事いじめ抜いて辞めさせたんだよ」
「え、そんな事して停学にならなかったの?」
「まぁ端的に言って証拠不十分って事で停学は免れたんだけど。何より、他の人がリンネちゃんは悪くない、その先生が悪いんだ。ってみんなして口を揃えるからリンネちゃん1人を罰するわけにもいかない、けど実行犯はクラスの女子全員だって証言するから、全員を停学にすれば外聞が悪いってなって……教師が1人、勝手に辞職した。って結果になったんだ」
「そんな……怖い人なの?」
「あはは……この話には続きがあって、その先生が辞めるって話になった理由がね、セクハラとか暴力とかの被害を受けていた生徒が大勢いたって事がわかって、生徒側が学校に訴えようとした所で逃げたって言うのが真相」
「ろ、ロリコン教師……?」
「うん。しかも手口が卑怯で、まず生徒指導って形で呼び出して、無理やり脱がせた所の写真を撮って脅すんだって。そんなの、親にも先生にも相談できないって子がいっぱいいたから、リンネちゃんが囮になって証拠見つけた上に家まで乗り込んでデータ壊して、その先生を追い詰めたんだ」
「すっごい! 赤羽さんってヒーローみたいだね!」
「生徒から見たらね。学校側からしたら先生いじめて辞めさせた問題児って、だいぶマークされちゃったらしいよ」
「懐かしい話してンね。それ、渚君も被害に遭ってたヤツでしょ?」
「あっ、カルマ君! それはナイショにしてって!」
話の途中で割り込んできたカルマの口を塞ごうと両腕を振って抵抗する渚だが、片手で簡単に抑え込まれてしまう。
「渚も被害に……殴られたの?」
「渚君、脱がされた方だって」
「あー! あー!! なんで言っちゃうの!」
顔を真っ赤にして俯いてしまう渚に、茅野は笑い飛ばすべきか慰めるべきか悩んだ末にスルーを決め込む。
「でも、逃げられちゃったなんてムカつくね、その変態!」
「風の噂では、職も奥さんも失って路頭に迷う事になったとか何とか」
渚をイジる合間に、カルマはその後についての噂を思い出す。以前からあったリンネの大人への不信感は、この事件を切っ掛けに拍車をかけた。特に、教師に対しては「先生」と呼ぶ事すら殆ど無くなった。
「つまりさ、リンネは人をけしかけるのが上手いンだよ。共感させて共通の敵を作って、我こそ正義と思い込ませるのがね」
そう、カルマは姉を評する。事実、事件のあったクラスは異様に仲間意識と協調性が高く、攻撃的であった。仲間でなければ自分の敵と言わんばかりの排他的な思考。最終的には理事長によるカウンセリングで、あの不気味な雰囲気は消えたのだが。
そこでチャイムが鳴り響き、授業が終わる。自習もろくにできなかったが、頭のいいブラコンだと思っていたリンネの恐ろしい一面を垣間見た茅野は、ひとつ決心をする。