1学期
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明くる日の休み時間、晴れた事から暗殺バドミントンをやろうと数人が連れ立って校庭へ行く準備を始める。それを見た茅野はリンネの席まで歩くと、文庫本を読むリンネに緊張した面持ちで声をかける。
「あっ、赤羽さん! 一緒に暗殺バドミントンしないっ!?」
クラスメイト全員が、多種多様な噂からどこか近寄り難さを感じて声をかけられなかったリンネを堂々と誘う茅野の姿に、勇者だ! と誰もが心の中で叫んだ。
「……驚いた。カルマちゃんや渚ちゃん以外で最初に僕に声をかけたのが君だなんてね。………………いいよ。やろう」
リンネが茅野の誘いに乗った瞬間、クラス中が一気に沸き立つ。誘いに乗った事に喜ぶ者、思いがけない強敵に奮い立つ者、予想以上の反応にさすがのリンネも照れに頬を掻いた。
「気後れしてたのがバカみたい。赤羽さん、すごい話しやすい」
「ねー。放課後遊びに行こーよ、おいしいクレープ屋さん知ってるの」
「いいねぇいいねぇ! あたしも行きたーい!」
女子に囲まれて笑うリンネは噂の様に怖くなんてない。声をかけて良かったと茅野は微笑んだ。
「その……誘ってくれて嬉しい。僕もみんなと行きたいな」
頬を紅潮させて小さく言うリンネに、女子達の母性本能が擽られる。抱き締めるように揉みくちゃにして、中村が大声をあげる。
「もー、かったいなぁ! ウチらもう友達っしょ? これから毎日連れ回しちゃうからね!」
「えー、毎日はちょっと……カルマちゃんとも遊びたいし」
「このブラコンめ……」
女子同士で盛り上がるリンネ達に、バドミントンの準備をした前原と磯貝が待ったをかける。
「お嬢さん方! そろそろ勝負とシャレこみましょうや!」
「俺等も赤羽さんと話したいけど、今はコッチな」
そう言ってバドミントン用のナイフを掲げる磯貝に、中村は体を伸ばしながらにやりと口角を上げて言い放つ。
「この前の雪辱戦よ〜。赤羽さんが…………あーもう、リンネでいいよね!」
「いいよー」
「よしっ! リンネが味方なら鬼に金棒よ。この中村サマがアンタらに引導を渡してあげるわ!」
「女子も男子も気軽にリンネちゃんって呼んでねー」
リンネはコートの中に入って、ナイフを軽く投げて重さを確認してから握り込む。そして相手側のコートを切っ先を指し示して顎を上げた。
「さて、最初に僕の餌食になる可哀想な人は誰かなぁ?」
目に見えて煽られたのに黙っている程、このクラスの生徒は甘くない。掻き立てられた闘争心に、ひとりまたひとりとコートに入った。
「いやー、いい汗かいたー」
「いい勝負だったねー。特にリンネちゃんがすごかった」
「そうだね。ほんと、リンネちゃんって……」
途中で巻き込まれた渚に、中村と茅野が絡みながら汗を拭う。その視線の先には──。
「すごく体力無いんだね」
息を乱しながら地に伏せるリンネの姿があった。
その周りには、姉の無様なさまを見に来たカルマと、ヤムチャしやがって……と呟く不破、リンネを体力的に負かした磯貝と前原がいる。
「体力がある内は無敗だったのに、数試合やったら力尽きたな」
「こんなのに勝てるわけないとか思ってたけど、速攻で倒れた時はビビったっつーの」
「リンネさんって完璧超人だと思ってたから意外」
「えー? リンネって弱点多いよ?」
「マジ? くわしく教えて」
死に体の女子を目の前に好き放題話す4人。カルマに至っては指でリンネの旋毛をつついている。だが、もうすぐ授業が始まるため殆どの生徒は片付けを始めていた。取り残されかけているリンネは仰向けに転がると、両腕を広げてカルマに猫なで声をかける。
「カルマちゃーん、お姉ちゃん疲れちゃったー。運んでー」
「遅刻すんなよー」
「ひどーい。置いてかないでー」
軽く茶番をして気が済んだのか、自力で立ち上がるリンネ。砂を叩いて払うがまだ大分汚れている。さすがに見兼ねたカルマが届かない場所もはたいて一言二言交わすと、やれやれといった様子でリンネを抱き上げる。
「あ、あのカルマが……」
「へー、ほー、意外ですなぁ」
「…………うっせー」
「カルマ君、昔からリンネちゃんに甘いよね」
「シスコンか? シスターコンプレックスなのか?」
カルマはここぞとばかりにいじり倒そうとして来る中村達を無視して、さっさと教室に向かう。
「あっコラ! 片付け手伝ってけー!」
そんな中村の声を背に、カルマに抱えられたまま校舎に向かうリンネは久しぶりに声を上げて笑った。
双子が廊下で2人きりになると、リンネは抱き着いている体を擦り寄せてさらに柔らかい胸を密着させる。近付けた唇で、わざと耳元にかかるようにして吐息混じりに囁く。
「ねぇ、カルマちゃんは……ドキドキ、してくれないの? 僕はくっ付いてるだけでこんなにドキドキしてるのに」
「だから、そういうのやめろって」
「そういうのってどういうの? カルマちゃんのえっち」
「……………………落とす」
冗談だって。そう笑いながらカルマに擦り寄るリンネ。血の繋がった弟に恋をしたはいいが成就所か想いを伝えるのすら無理だと思っていた少女は、弟が自分を性的に見る事ができるとわかった瞬間、体で篭絡しようと動いていた。さらに、カルマにはリンネに無体を働いた負い目がある。今が絶好のチャンスと見い出して積極的に誘いをかけるのだが。
「実際にエロい事されると弱いクセに」
そう言ったカルマの手が太ももや胸を撫でる様にかする。抱きかかえられて逃げ場の無いリンネは、気持ち良いとは言えないがくすぐったいだけじゃない感覚に、声を漏らしてヒクリと体を引き攣らせる。
「ほら、リンネの弱点はなんでも知ってるし? 体力が無い事も、耳年増なクセにエロい事に弱いのも、実は友達少なかったの気にしてた事も、あと──」
「ご、ごめんって! 謝るからやめて、降ろしてぇ!」
「え〜? 何、聞こえなーい。イタイケな男子を揶揄っておいてタダですむと思うなよ?」
「どっ、どこが幼気だっ!? ちょっやっ、あっ……」
カルマはリンネにイタズラしながら誰もいない教室に身を潜り込ませると、姉の机に本人を転がす。脚の間に割り込んで顔の横に手をつけば、リンネは簡単にカルマの体に閉じ込められた。男と女である以上、力に任せてしまえば眼前のご馳走を食べる事はできる。けれど、カルマが欲しいのは体だけの関係とはもっと別のものだから。
「か……カルマちゃん?」
「俺は冗談じゃすませたくないんだよ」
その懇願は彼女に聞こえないように耳を塞いで、触れるだけのキスをする。存外怖がりなリンネは冗談だのシスコンだのと言って周りに本気では無いとアピールして逃げる。自分が傷付くのもカルマを傷付けるのも嫌がってばかりでは何も得られないというのに。唇を離せば、一瞬で茹だるリンネの顔。
「その顔、俺以外にしたら殺すから」
今度は聞こえるように言いつけて、カルマは自分の席に戻る。戻ってから、すぐ授業だからと煩悩を追い払うように覚えている限りの数学の公式を思い浮かべる。
一方のリンネも、近寄ってくるクラスメイトの声に慌てて席に座り、カルマにされた事と言われた事を噛み砕いて飲み込むと羞恥で机に沈んだ。
教室に帰ってきた渚は難しい顔をしている割にはやけに機嫌の良いカルマと、机に突っ伏すリンネを見て首を傾げるのだった。
今は英語の授業。の筈だが、教室は賑やかであった。殺せんせーが言うにはイリーナの受け持つ授業だそうだが、肝心の講師はまだ来ない。まだ中学生の彼等が自ずと遊び始めてしまうのは仕方ないだろう。
唐突に教室の扉が開かれる音が喧騒を引き裂くと、今までとは少し違った面差しのイリーナがヒールを打ち鳴らして黒板の前に立つ。生徒に背を向けて立つイリーナは、おもむろにチョークを掴むと英文を1つ書きなぐる。
「You're incredible in bed! 言って!」
強く言われて、習慣で意味もわからずそのまま繰り返す。イリーナがその台詞はとあるVIPを暗殺した時に、ボディーガードに言われたものだと説明する。
「意味は『ベッドでの君はスゴイよ……♡』」
中学生に言わせるには問題があり過ぎるアダルトなワードに一同は引いてしまう。そんな生徒達にイリーナは自分なりの言語の習得方法を元に、外人の口説き方を教えると言う。あくまで自分に教えられるのは実践的な会話術のみであり、受験に必要な勉強は殺せんせーに頼めと言い捨て、視線を下げて指を遊ばせる。
「もし……それでもあんた達が私を先生と思えなかったら……その時は暗殺を諦めて出ていくわ」
何も言わない生徒に、イリーナの瞳に段々とビクビクと怯えが見え始める。それでも、イリーナは暗殺教室にいる為に言葉を続ける。
「…………そ、それなら文句無いでしょ? ……あと、悪かったわよ、いろいろと」
素直に謝るイリーナに、リンネは呆然とした。己が思っていた以上に、彼女はプロである事を誇りに思っていた事。何よりもイリーナ・イェラビッチが、同じ子供だと思っていた相手が、はるかに大人だったその事実に。
リンネは落胆した。
おそらく大人になるしかなかったであろう、かつての少女が、途端に遠く感じてしまったから。それは、リンネにとっていつかは大人にならなくてはいけない、動かぬ証拠となって立ち塞がっているように思えたからだ。
この恋は間違っている。
ならば、大人はそんな恋をするべきではない。大人になってしまったら、リンネはカルマの隣に居られない。だから。
「子供でいたいのに……」
時間は平等を謳いながら大人になる事を強要する。教室はビッチ先生の愛称と共にイリーナを賑やかに迎える中、大人になる意味を理解できない少女はひとり、恋心の死刑を待つ。
カルマに口付けられた唇だけは熱いのに、体の芯が冷えて仕方ない。泣き出しそうな気持ちに蓋をして、いつもの笑顔を貼り付ける。大丈夫、大丈夫。この1年だけは欲しいものを我慢しないと決めたから。
「ようこそ、ビッチ姉さん」
まだ、「先生」だけは許してね。
「あっ、赤羽さん! 一緒に暗殺バドミントンしないっ!?」
クラスメイト全員が、多種多様な噂からどこか近寄り難さを感じて声をかけられなかったリンネを堂々と誘う茅野の姿に、勇者だ! と誰もが心の中で叫んだ。
「……驚いた。カルマちゃんや渚ちゃん以外で最初に僕に声をかけたのが君だなんてね。………………いいよ。やろう」
リンネが茅野の誘いに乗った瞬間、クラス中が一気に沸き立つ。誘いに乗った事に喜ぶ者、思いがけない強敵に奮い立つ者、予想以上の反応にさすがのリンネも照れに頬を掻いた。
「気後れしてたのがバカみたい。赤羽さん、すごい話しやすい」
「ねー。放課後遊びに行こーよ、おいしいクレープ屋さん知ってるの」
「いいねぇいいねぇ! あたしも行きたーい!」
女子に囲まれて笑うリンネは噂の様に怖くなんてない。声をかけて良かったと茅野は微笑んだ。
「その……誘ってくれて嬉しい。僕もみんなと行きたいな」
頬を紅潮させて小さく言うリンネに、女子達の母性本能が擽られる。抱き締めるように揉みくちゃにして、中村が大声をあげる。
「もー、かったいなぁ! ウチらもう友達っしょ? これから毎日連れ回しちゃうからね!」
「えー、毎日はちょっと……カルマちゃんとも遊びたいし」
「このブラコンめ……」
女子同士で盛り上がるリンネ達に、バドミントンの準備をした前原と磯貝が待ったをかける。
「お嬢さん方! そろそろ勝負とシャレこみましょうや!」
「俺等も赤羽さんと話したいけど、今はコッチな」
そう言ってバドミントン用のナイフを掲げる磯貝に、中村は体を伸ばしながらにやりと口角を上げて言い放つ。
「この前の雪辱戦よ〜。赤羽さんが…………あーもう、リンネでいいよね!」
「いいよー」
「よしっ! リンネが味方なら鬼に金棒よ。この中村サマがアンタらに引導を渡してあげるわ!」
「女子も男子も気軽にリンネちゃんって呼んでねー」
リンネはコートの中に入って、ナイフを軽く投げて重さを確認してから握り込む。そして相手側のコートを切っ先を指し示して顎を上げた。
「さて、最初に僕の餌食になる可哀想な人は誰かなぁ?」
目に見えて煽られたのに黙っている程、このクラスの生徒は甘くない。掻き立てられた闘争心に、ひとりまたひとりとコートに入った。
「いやー、いい汗かいたー」
「いい勝負だったねー。特にリンネちゃんがすごかった」
「そうだね。ほんと、リンネちゃんって……」
途中で巻き込まれた渚に、中村と茅野が絡みながら汗を拭う。その視線の先には──。
「すごく体力無いんだね」
息を乱しながら地に伏せるリンネの姿があった。
その周りには、姉の無様なさまを見に来たカルマと、ヤムチャしやがって……と呟く不破、リンネを体力的に負かした磯貝と前原がいる。
「体力がある内は無敗だったのに、数試合やったら力尽きたな」
「こんなのに勝てるわけないとか思ってたけど、速攻で倒れた時はビビったっつーの」
「リンネさんって完璧超人だと思ってたから意外」
「えー? リンネって弱点多いよ?」
「マジ? くわしく教えて」
死に体の女子を目の前に好き放題話す4人。カルマに至っては指でリンネの旋毛をつついている。だが、もうすぐ授業が始まるため殆どの生徒は片付けを始めていた。取り残されかけているリンネは仰向けに転がると、両腕を広げてカルマに猫なで声をかける。
「カルマちゃーん、お姉ちゃん疲れちゃったー。運んでー」
「遅刻すんなよー」
「ひどーい。置いてかないでー」
軽く茶番をして気が済んだのか、自力で立ち上がるリンネ。砂を叩いて払うがまだ大分汚れている。さすがに見兼ねたカルマが届かない場所もはたいて一言二言交わすと、やれやれといった様子でリンネを抱き上げる。
「あ、あのカルマが……」
「へー、ほー、意外ですなぁ」
「…………うっせー」
「カルマ君、昔からリンネちゃんに甘いよね」
「シスコンか? シスターコンプレックスなのか?」
カルマはここぞとばかりにいじり倒そうとして来る中村達を無視して、さっさと教室に向かう。
「あっコラ! 片付け手伝ってけー!」
そんな中村の声を背に、カルマに抱えられたまま校舎に向かうリンネは久しぶりに声を上げて笑った。
双子が廊下で2人きりになると、リンネは抱き着いている体を擦り寄せてさらに柔らかい胸を密着させる。近付けた唇で、わざと耳元にかかるようにして吐息混じりに囁く。
「ねぇ、カルマちゃんは……ドキドキ、してくれないの? 僕はくっ付いてるだけでこんなにドキドキしてるのに」
「だから、そういうのやめろって」
「そういうのってどういうの? カルマちゃんのえっち」
「……………………落とす」
冗談だって。そう笑いながらカルマに擦り寄るリンネ。血の繋がった弟に恋をしたはいいが成就所か想いを伝えるのすら無理だと思っていた少女は、弟が自分を性的に見る事ができるとわかった瞬間、体で篭絡しようと動いていた。さらに、カルマにはリンネに無体を働いた負い目がある。今が絶好のチャンスと見い出して積極的に誘いをかけるのだが。
「実際にエロい事されると弱いクセに」
そう言ったカルマの手が太ももや胸を撫でる様にかする。抱きかかえられて逃げ場の無いリンネは、気持ち良いとは言えないがくすぐったいだけじゃない感覚に、声を漏らしてヒクリと体を引き攣らせる。
「ほら、リンネの弱点はなんでも知ってるし? 体力が無い事も、耳年増なクセにエロい事に弱いのも、実は友達少なかったの気にしてた事も、あと──」
「ご、ごめんって! 謝るからやめて、降ろしてぇ!」
「え〜? 何、聞こえなーい。イタイケな男子を揶揄っておいてタダですむと思うなよ?」
「どっ、どこが幼気だっ!? ちょっやっ、あっ……」
カルマはリンネにイタズラしながら誰もいない教室に身を潜り込ませると、姉の机に本人を転がす。脚の間に割り込んで顔の横に手をつけば、リンネは簡単にカルマの体に閉じ込められた。男と女である以上、力に任せてしまえば眼前のご馳走を食べる事はできる。けれど、カルマが欲しいのは体だけの関係とはもっと別のものだから。
「か……カルマちゃん?」
「俺は冗談じゃすませたくないんだよ」
その懇願は彼女に聞こえないように耳を塞いで、触れるだけのキスをする。存外怖がりなリンネは冗談だのシスコンだのと言って周りに本気では無いとアピールして逃げる。自分が傷付くのもカルマを傷付けるのも嫌がってばかりでは何も得られないというのに。唇を離せば、一瞬で茹だるリンネの顔。
「その顔、俺以外にしたら殺すから」
今度は聞こえるように言いつけて、カルマは自分の席に戻る。戻ってから、すぐ授業だからと煩悩を追い払うように覚えている限りの数学の公式を思い浮かべる。
一方のリンネも、近寄ってくるクラスメイトの声に慌てて席に座り、カルマにされた事と言われた事を噛み砕いて飲み込むと羞恥で机に沈んだ。
教室に帰ってきた渚は難しい顔をしている割にはやけに機嫌の良いカルマと、机に突っ伏すリンネを見て首を傾げるのだった。
今は英語の授業。の筈だが、教室は賑やかであった。殺せんせーが言うにはイリーナの受け持つ授業だそうだが、肝心の講師はまだ来ない。まだ中学生の彼等が自ずと遊び始めてしまうのは仕方ないだろう。
唐突に教室の扉が開かれる音が喧騒を引き裂くと、今までとは少し違った面差しのイリーナがヒールを打ち鳴らして黒板の前に立つ。生徒に背を向けて立つイリーナは、おもむろにチョークを掴むと英文を1つ書きなぐる。
「You're incredible in bed! 言って!」
強く言われて、習慣で意味もわからずそのまま繰り返す。イリーナがその台詞はとあるVIPを暗殺した時に、ボディーガードに言われたものだと説明する。
「意味は『ベッドでの君はスゴイよ……♡』」
中学生に言わせるには問題があり過ぎるアダルトなワードに一同は引いてしまう。そんな生徒達にイリーナは自分なりの言語の習得方法を元に、外人の口説き方を教えると言う。あくまで自分に教えられるのは実践的な会話術のみであり、受験に必要な勉強は殺せんせーに頼めと言い捨て、視線を下げて指を遊ばせる。
「もし……それでもあんた達が私を先生と思えなかったら……その時は暗殺を諦めて出ていくわ」
何も言わない生徒に、イリーナの瞳に段々とビクビクと怯えが見え始める。それでも、イリーナは暗殺教室にいる為に言葉を続ける。
「…………そ、それなら文句無いでしょ? ……あと、悪かったわよ、いろいろと」
素直に謝るイリーナに、リンネは呆然とした。己が思っていた以上に、彼女はプロである事を誇りに思っていた事。何よりもイリーナ・イェラビッチが、同じ子供だと思っていた相手が、はるかに大人だったその事実に。
リンネは落胆した。
おそらく大人になるしかなかったであろう、かつての少女が、途端に遠く感じてしまったから。それは、リンネにとっていつかは大人にならなくてはいけない、動かぬ証拠となって立ち塞がっているように思えたからだ。
この恋は間違っている。
ならば、大人はそんな恋をするべきではない。大人になってしまったら、リンネはカルマの隣に居られない。だから。
「子供でいたいのに……」
時間は平等を謳いながら大人になる事を強要する。教室はビッチ先生の愛称と共にイリーナを賑やかに迎える中、大人になる意味を理解できない少女はひとり、恋心の死刑を待つ。
カルマに口付けられた唇だけは熱いのに、体の芯が冷えて仕方ない。泣き出しそうな気持ちに蓋をして、いつもの笑顔を貼り付ける。大丈夫、大丈夫。この1年だけは欲しいものを我慢しないと決めたから。
「ようこそ、ビッチ姉さん」
まだ、「先生」だけは許してね。