まん丸な月が夜空に浮かんでいる。月の中に居ると言われる兎のことをふと思い出し、ぼくはこれから会う“兎”を想いながら家に向かっていた。御剣本人にこんなこと言ったら怒られると思うけど。
御剣の家から最寄り駅までの道のり。ぼくはいつも、御剣のことばっかり考えて歩いている。会ったら愛してるって伝えて、抱きしめて、キスしたい。
御剣が大好きだ。好きで好きで堪らない。御剣もぼくと同じ気持ちかな? ‥‥なんて。
そういえば。ここに来る途中で見かけたトノサマンのぬいぐるみに目を奪われたことを話そう。
あれを見て、キミに会いたい気持ちが増したんだって。きっと「バカも休み休み言いたまえ。」と注意しながらも微笑むんだ。‥‥あ、でも今日はもう夜中だから、もう寝てるかも知れない。
彼の自宅がもう目の前に来たとき、キーケースに入れていた合鍵を取り出す。
‥‥コレをくれたときの御剣のことを思い出す度に顔がニヤけちゃうな。少し嫌そうな、迷惑そうな顔をしながらも頬を赤く染めていた御剣。それが愛しくて、愛しくて、堪らない。
静かにドアを開けて、なるべく音を立てないように中に入った。起こさないようにそっと歩いてリビングに向かう。
「何か盗みにでも来たのか? ‥‥成歩堂龍一。」
そこにはソファに座って、事件か何かだろうか、資料を読んでいる御剣がいた。まさか起きてるなんて思いもしなかったから、驚いて固まった。
‥‥けど、普段なら寝てる時間なのに。まさか、起きて待っていてくれた、とか‥‥? 泥棒扱いは素直じゃないキミなりの“おかえり”なんだと受け取って。
「ただいま。」
そう言って笑ったぼくはさぞ締まりのない顔をしているんだろうなぁ。ぼく、御剣を想うだけで心が泣き出しそうだよ。