ぼくは知らなかった。15年前に起きた、あの事件を。当時のぼくはただただ裏切られた気分だった。
学級裁判にかけられたあの日の下校時間。根本の問題は解決しても拭い去れなかった恐怖が心を支配していた。‥‥あの時のぼくを見るクラスメイトの視線はいつまで経っても忘れられなかった。今後、学校生活を送る中でからかわれたりイジメられたりするんじゃないか。同級生たちがぼくを見る目を変えてきてしまうんじゃないか‥‥不安で不安で、仕方がなかった。些細な火種が飛び火してしまうことが恐ろしくてたまらなかった。でも、そんなぼくに御剣が言ってくれたんだ。
“安心したまえ。キミにはボクがいるだろう”‥‥って。
その言葉がどれだけ、ぼくを救われたか。途方もない闇の中で現れた一点の光。正義のヒーローのようなたくましさ。とにかく嬉しくて嬉しくて、‥‥ちょっぴり男として悔しいような気持ちにはなったけれど心強かった。
御剣がいれば大丈夫。何も怖くない。ずっと一緒にいてくれるのだから。そう思っていた。何の疑問も持たず、理想を勝手に抱いていた。だけど、御剣はぼくの目の前から消えてしまった。何も告げず、静かに居なくなってしまった。
ショックのあまり愕然とした。その後にふつふつと沸いて来たのは怒りや憎しみ。御剣の事情を知らなかったクセに‥‥ぼくは勝手に恨んでいた。信じていた人に裏切られたと、奈落の底に叩きつけられてしまったかのような気分になっていた。
真実を知った今、あの頃のぼくを愚かに思う。アイツのことをこれっぽっちも分かりもしないで、勝手に嘆いて恨んで憎んで、悲劇の主人公ぶっていた。自分よがりも甚だしい。
「‥‥どうしようもないな。」
だけど、そんなどうしようもない人間だけれど、御剣に力を貸したい。あのとき手を差し伸べて救ってくれた御剣を今度はぼくが助けるんだ。だから、明日の法廷では負けられない。負けちゃいけないんだ。相手が40年もの間、無敗の検事が相手であっても。
「大丈夫‥‥」
ピンチの時ほど、ふてぶてしく笑うんだ。ぼくが不安な顔をしてはいけない。感情が伝わって依頼人も不安にさせてしまうから。‥‥千尋さんが前に言っていた言葉だ。
「大丈夫だ、御剣。」
お前にはぼくがいる。だから安心していればいいんだ。
お題配布元:確かに恋だった 様