【ホンシツ】
御「成歩堂。言っていた資料を取りに来た。‥‥ム。なんだ。そのだらしないカッコウは。」
成「お前が急ぎでよこせって言うからあわてて着がえたんだよ。」
御「だからと言って、襟がヨレヨレのTシャツはないだろう。朝からそのようなカッコウでは1日中、ダラダラした1日になるぞ。」
真「もっと言ってやってください、御剣検事! そんなやる気ない態度じゃあ、せっかくのお客さんも逃げちゃうよ。」
成「今日は真宵ちゃんまで敵か。」
御「‥‥ここに足を運ぶ人間の大半は“客”ではなく“依頼人”だと思うのだが。」
真「‥‥どう違うの?」
成「さあ。ぼくにはサッパリ。‥‥もっと物事のホンシツを見ないか、御剣。」
御「‥‥‥‥。」
【1日の計は身だしなみから】
御「何にしても、成歩堂。さっさと着がえたまえ。その姿で応対など依頼人に失礼だろう。」
成「わかったよ。」
御「全く。もう少し私を見習ってシワがひとつもない‥‥‥‥。どうした、2人とも。私の顔なんか見て。」
成「‥‥ねぇ真宵ちゃん。ぼくには御剣の額の近くにシワがあるように見えるんだけど。」
真「違うよ、なるほどくん! アレはシワじゃなくてヒビだから、御剣検事さんは気付いていないんだよ。きっと。」
御「‥‥私は衣服に関して言ったまでだ。」
【アレだよ、アレ】
成「身だしなみ、身だしなみって言うけど、御剣。お前のカッコウもなかなかだぞ。」
御「なかなか? 何だと言うんだ。」
真「なかなか‥‥人には真似出来ないファッションですよね。」
成「ぼくが思うに、御剣には身だしなみ云々の前にファッションセンスの意識改革が必要だと思うよ。」
御「ム。失礼な。どこにオカシイ点があるというのだ?」
成「(‥‥今お前が触ってる、そのヒラヒラした白いのだよ。)
‥‥鏡で自分の首もとをチェックしてみたら?」
御「ブランド物のいいクラバットが見えるな。」
成「‥‥‥‥。(わかってない。)」
真「アレ、“くらばっと”っていうんだ。」
成「正しく言うとアレは違うんじゃないかな。クラバットはネクタイと同じ意味だから、製品名ではないしね。」
真「じゃあ、アレは何?」
成「そうだな。アレは‥‥。アスコット・タイに近い種類のものだと思うんだけど。」
真「へぇ‥‥。アレがそうなんだ。」
御「人の服をアレ、アレ、と連呼するのは止めてもらえないだろうか。」
【暖色と寒色】
成「何もそのヒラヒラだけじゃないぞ、御剣。」
御「ヒラヒラじゃない、立派なクラバットだ。」
真「見事な赤ですもんね。御剣検事さんのスーツ。」
御「私のことをとやかく言うが、成歩堂。自分のカッコウを見てみたまえ。全身青のスーツではないか。」
真「ふっふっふっ。御剣検事さん、知らないんですね?」
御「何をだろうか。」
成「寒色系のもつ効果をだよ。‥‥気持ちを落ち着かせるのはもちろん、壁全面が青色だった場合、壁全面が赤色に比べて体感温度が低く感じる、みたいなやつ。」
御「ハッ。何かと思えばそんなことか。当然知っている。食器の色を寒色系にするだけで、食欲が落ちるなど精神面にも影響するらしいな。」
成「つまり、そういうことだよ。御剣検事。」
御「‥‥なに?」
成「赤が闘争心を煽る色なら、青は相手の闘争心を削ぐ色。ぼくは検事たちのやる気を削ぐために、このスーツを着ているんだよ。」
御「な‥‥ッ!?」
成「じゃなかったら、青いスーツなんてわざわざ選ばないよ。」
御「そ、そんなバカな話があるわけがない! お得意のハッタリに決まって‥‥いや、だが‥‥。」
真「なぁんて、なるほどくんは言ってますけど実際は‥‥。あれ?御剣検事?」
御「たしかに、先生もメイも寒色系。信楽さんも落ち着いた色合いだ‥‥。あの人もあの人もそうだ。それにあの弁護士も‥‥」
成「完全に自分のカラに閉じこもっちゃったな。」
真「なんだか、本当のこと言えなくなっちゃったね。」
成「‥‥いいんじゃないかな。言わなくて。
(かまって遊んだなんて知ったら、絶対ブチ切れるに決まってるし。)」