臆病者のための口実
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修学旅行、1日目の夜。
体力の有り余った生徒達は布団を敷き終えると、あっという間にはしゃいで散らかしていた。
私は初夏用の薄い布団にもぐり、まだしばらく眠れなさそうだな、と苦笑いで友人たちを眺めていた。
「ちょっと紗如!!」
ふざけているような怒り声がして、ばさっと布団が捲られる。
「もー、なに?」
「寝るのが早いでしょ!」
こんなに賑やかで、どう眠れるのか、と思いながら寝返りを打ってうつ伏せになる。
「もうすぐ消灯時間だよ?」
「そんなルールに従ってどうすんの!やることあるでしょーが!」
「なに? 枕投げ?」
「それもする!けど、その前にもっと大事な話があるでしょーよ!」
枕投げもやるんだ...と呆れていると、聞きつけた女子たちが私たちの周りに集まってくる。
「お?おっぱじめるかー!?」
「なに?枕投げ?」
「あほか紗如!恋バナだよ恋バナ!!」
「あー、恋バナかぁ...」
もちろん察していなかった訳では無い。あえて避けるためにとぼけていたと言う方が正しい。
だって、言えないもん。私は。
「紗如は好きな人とか居ないの?」
「私は...そうだね、あんまり興味ないかな」
「えー、でもさ、誰だっけあの、3年の...」
「あ、野球部の部長の人でしょ!あの先輩絶対紗如のこと好きだよね!」
「いやそんな...私なんかのこと好きなわけないでしょ...。委員会くらいでしか話したことないし」
「でもその委員会の時とか、いっつも紗如の近くに居るじゃん!」
「いや紗如!あの先輩はやめた方がいいよ!」
「え、なんでなんで!普通にカッコよくない?」
「取っかえ引っ変えしてるの知らないの?それも紗如みたいな大人しい子ばっかり手出してるんだって」
「え~ウソだ~」
「でもマジならキモい」
「でもカッコイイじゃん!」
「いや坊主の時点でナシ!」
「坊主がカッコいいんじゃん!イケメンは坊主にするべき」
「えー、サラサラストレートの方が綺麗でカッコいいじゃん」
「わかる。短髪とか天パとかもナシ」
「そりゃアンタが優男好きだからじゃない?」
「え?逆にみんな優男ナシなの?」
「あ~ウチはね~」
なんて、飛び交う話題に紛れていって、私への注目は難なく逸らされる。
軽く相槌を打ちながら、私はさりげなく布団を掛け直して仰向けになった。
誰が好きだとか、付き合いたいとか。この年齢なら誰だって考えること。
私だって、考えなかったわけじゃない。だけど、どうしても無理なんだ。
私なんかに恋愛は、2度とできないよ。
でもそうだな、思い浮かぶ名前は。
吸い込まれるように目を閉じて、まぶたの裏に彼の姿を描く。
坂田銀時。
私が人生で2度目に、女の子として扱われたいと思った異性。
なんて、バカバカしいのは分かってる。それに、実在したって、恋愛はもうできない。
だから、もし、彼が存在する世界に行けたら。
結ばれなくたっていい。
この気持ちを、馬鹿げたことだと笑わないでくれる誰かが居てくれたら、それでいい。
そして私は、誰とも恋に落ちないで生きていく。
もしくは、万が一釣り合う誰かが現れたら、きっとその人が良いんだ。もう、いい。考えたくないや。
「もー! 紗如聞いてるの!?」
「聞いてるってば...だから私は恋愛とか興味ないって...」
「ちーがーう!! やっぱり聞いてない!!」
「今は怖い話してたんだよ!」
「あっ...ごめんごめん。じゃあもう一度話して?」
全く、女子の会話は目まぐるしいものだ。
でもそうだな、せっかくの修学旅行だし、こんな風にはしゃぐのもいいかもしれない。
「じゃあもう一度最初から話すよ? これは、異世界に行く方法の話なんだけど...」
「異世界って、エレベーターで行けるやつみたいな?」
「そうそう! これはロウソクでやるんだけど」
語り手の彼女は身を乗り出して、怖がらせようと低い声で話し始めた。
「まずこれは、丑三つ時に実行するんだけど。それまでにロウソクを13本、長い一本道とかに間をあけて並べておくの。それから塩水を用意して。丑三つ時...つまり深夜2時になったら、塩水を口に含んで、目を閉じて、東、もしくは北の方角から、ロウソクを置いた道を歩き始めるの。これは必ずゆっくり歩いていかなくちゃいけない」
「目を閉じてって無理じゃない?」
「だから、実行する場所は障害物とかが無い、平坦な道を選ぶんだよ」
彼女は咳払いをして仕切り直し、続きね、と言った。
「上手く行っていれば、通過した地点のロウソクは1本1本消えていくの。目を閉じていても、灯りがだんだん減っていくのがわかるんだ。そして数本消えた頃、背後から足音がするんだけど、ここでも絶対にゆっくり歩くこと。どんなに近付いて来ても走ってはいけない。そして、無事に13本目まで歩き切ったら、前には何もないはずなのに扉にぶつかるんだって。その扉を開けたら、目を開けて大丈夫。そこには知らない世界の景色が広がってるらしいよ」
「えー! 足音がしても走っちゃダメなの怖くない?」
「あたしエレベーターのやつやったことあるけどアレ嘘だよ」
「ウチもやったことあるー! ほんとに女の人乗ってきてめっちゃ怖かった!」
「でも異世界なんて行けるわけないよ」
「当たり前じゃん! 信じてるわけないよー 」
「でもさでもさ、あのC組の不良の子が失踪した事件もあるし、もしかしたら神隠しみたいなことってあるのかもよ?」
「あの子はもともと家出してばっかりって聞いたし、今回もただの家出じゃないの?」
「でもほら、最近来た転校生の子も学校来てないし...」
「それだってただ休んでるだけって先生言ってたじゃん。そういうのすぐ信じるんだから~」
「えー! でも本当に心霊的なこと起こったら面白いじゃん!!」
少し眠気を感じながらも、話に夢中になっていると、不意に廊下の床が軋む音がした。足音だ。
「ねえ待って、足音聞こえない?」
私がそう言うと、みんなはまさか、と震え上がった。
けど、そうじゃない。心霊的なものではなくて。
「先生が見回りに来たんじゃない? 急いで電気消して!」
スイッチに近い場所にいた子が慌てて電気を消すと、みんなどの場所が自分の布団かなんて考える暇もなく、掛け布団を被った。
ドキドキしながらわざとらしく寝息を立てる。
間もなくしてガラッと引き戸が開けられると、うまく隠せたのか先生はすぐに去っていった。
けれど、これはフェイントで、ほっと気が抜けたところで戻ってくるんじゃないかと思えて、まだしばらくは狸寝入りを続けることにした。
みんなも同じようで、お互い起きていると分かっているのに、寝たフリをするのはなんだか笑ってしまいそうだった。
そうして息を潜めているうちに、いつの間にか本物の寝息が聞こえ始めて、私も眠りに落ちていた。
体力の有り余った生徒達は布団を敷き終えると、あっという間にはしゃいで散らかしていた。
私は初夏用の薄い布団にもぐり、まだしばらく眠れなさそうだな、と苦笑いで友人たちを眺めていた。
「ちょっと紗如!!」
ふざけているような怒り声がして、ばさっと布団が捲られる。
「もー、なに?」
「寝るのが早いでしょ!」
こんなに賑やかで、どう眠れるのか、と思いながら寝返りを打ってうつ伏せになる。
「もうすぐ消灯時間だよ?」
「そんなルールに従ってどうすんの!やることあるでしょーが!」
「なに? 枕投げ?」
「それもする!けど、その前にもっと大事な話があるでしょーよ!」
枕投げもやるんだ...と呆れていると、聞きつけた女子たちが私たちの周りに集まってくる。
「お?おっぱじめるかー!?」
「なに?枕投げ?」
「あほか紗如!恋バナだよ恋バナ!!」
「あー、恋バナかぁ...」
もちろん察していなかった訳では無い。あえて避けるためにとぼけていたと言う方が正しい。
だって、言えないもん。私は。
「紗如は好きな人とか居ないの?」
「私は...そうだね、あんまり興味ないかな」
「えー、でもさ、誰だっけあの、3年の...」
「あ、野球部の部長の人でしょ!あの先輩絶対紗如のこと好きだよね!」
「いやそんな...私なんかのこと好きなわけないでしょ...。委員会くらいでしか話したことないし」
「でもその委員会の時とか、いっつも紗如の近くに居るじゃん!」
「いや紗如!あの先輩はやめた方がいいよ!」
「え、なんでなんで!普通にカッコよくない?」
「取っかえ引っ変えしてるの知らないの?それも紗如みたいな大人しい子ばっかり手出してるんだって」
「え~ウソだ~」
「でもマジならキモい」
「でもカッコイイじゃん!」
「いや坊主の時点でナシ!」
「坊主がカッコいいんじゃん!イケメンは坊主にするべき」
「えー、サラサラストレートの方が綺麗でカッコいいじゃん」
「わかる。短髪とか天パとかもナシ」
「そりゃアンタが優男好きだからじゃない?」
「え?逆にみんな優男ナシなの?」
「あ~ウチはね~」
なんて、飛び交う話題に紛れていって、私への注目は難なく逸らされる。
軽く相槌を打ちながら、私はさりげなく布団を掛け直して仰向けになった。
誰が好きだとか、付き合いたいとか。この年齢なら誰だって考えること。
私だって、考えなかったわけじゃない。だけど、どうしても無理なんだ。
私なんかに恋愛は、2度とできないよ。
でもそうだな、思い浮かぶ名前は。
吸い込まれるように目を閉じて、まぶたの裏に彼の姿を描く。
坂田銀時。
私が人生で2度目に、女の子として扱われたいと思った異性。
なんて、バカバカしいのは分かってる。それに、実在したって、恋愛はもうできない。
だから、もし、彼が存在する世界に行けたら。
結ばれなくたっていい。
この気持ちを、馬鹿げたことだと笑わないでくれる誰かが居てくれたら、それでいい。
そして私は、誰とも恋に落ちないで生きていく。
もしくは、万が一釣り合う誰かが現れたら、きっとその人が良いんだ。もう、いい。考えたくないや。
「もー! 紗如聞いてるの!?」
「聞いてるってば...だから私は恋愛とか興味ないって...」
「ちーがーう!! やっぱり聞いてない!!」
「今は怖い話してたんだよ!」
「あっ...ごめんごめん。じゃあもう一度話して?」
全く、女子の会話は目まぐるしいものだ。
でもそうだな、せっかくの修学旅行だし、こんな風にはしゃぐのもいいかもしれない。
「じゃあもう一度最初から話すよ? これは、異世界に行く方法の話なんだけど...」
「異世界って、エレベーターで行けるやつみたいな?」
「そうそう! これはロウソクでやるんだけど」
語り手の彼女は身を乗り出して、怖がらせようと低い声で話し始めた。
「まずこれは、丑三つ時に実行するんだけど。それまでにロウソクを13本、長い一本道とかに間をあけて並べておくの。それから塩水を用意して。丑三つ時...つまり深夜2時になったら、塩水を口に含んで、目を閉じて、東、もしくは北の方角から、ロウソクを置いた道を歩き始めるの。これは必ずゆっくり歩いていかなくちゃいけない」
「目を閉じてって無理じゃない?」
「だから、実行する場所は障害物とかが無い、平坦な道を選ぶんだよ」
彼女は咳払いをして仕切り直し、続きね、と言った。
「上手く行っていれば、通過した地点のロウソクは1本1本消えていくの。目を閉じていても、灯りがだんだん減っていくのがわかるんだ。そして数本消えた頃、背後から足音がするんだけど、ここでも絶対にゆっくり歩くこと。どんなに近付いて来ても走ってはいけない。そして、無事に13本目まで歩き切ったら、前には何もないはずなのに扉にぶつかるんだって。その扉を開けたら、目を開けて大丈夫。そこには知らない世界の景色が広がってるらしいよ」
「えー! 足音がしても走っちゃダメなの怖くない?」
「あたしエレベーターのやつやったことあるけどアレ嘘だよ」
「ウチもやったことあるー! ほんとに女の人乗ってきてめっちゃ怖かった!」
「でも異世界なんて行けるわけないよ」
「当たり前じゃん! 信じてるわけないよー 」
「でもさでもさ、あのC組の不良の子が失踪した事件もあるし、もしかしたら神隠しみたいなことってあるのかもよ?」
「あの子はもともと家出してばっかりって聞いたし、今回もただの家出じゃないの?」
「でもほら、最近来た転校生の子も学校来てないし...」
「それだってただ休んでるだけって先生言ってたじゃん。そういうのすぐ信じるんだから~」
「えー! でも本当に心霊的なこと起こったら面白いじゃん!!」
少し眠気を感じながらも、話に夢中になっていると、不意に廊下の床が軋む音がした。足音だ。
「ねえ待って、足音聞こえない?」
私がそう言うと、みんなはまさか、と震え上がった。
けど、そうじゃない。心霊的なものではなくて。
「先生が見回りに来たんじゃない? 急いで電気消して!」
スイッチに近い場所にいた子が慌てて電気を消すと、みんなどの場所が自分の布団かなんて考える暇もなく、掛け布団を被った。
ドキドキしながらわざとらしく寝息を立てる。
間もなくしてガラッと引き戸が開けられると、うまく隠せたのか先生はすぐに去っていった。
けれど、これはフェイントで、ほっと気が抜けたところで戻ってくるんじゃないかと思えて、まだしばらくは狸寝入りを続けることにした。
みんなも同じようで、お互い起きていると分かっているのに、寝たフリをするのはなんだか笑ってしまいそうだった。
そうして息を潜めているうちに、いつの間にか本物の寝息が聞こえ始めて、私も眠りに落ちていた。
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