林檎を噛んだ
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「ええと...この薬、もう飲んじゃっていいんですかね?」
「あぁ、それ早めに飲めって言ってたぜ」
「私もうのんだよー」
「僕も、さっきもらってすぐ」
朝焼けの光が逆光となって、黒く浮かび上がった人影が、私の前に3人分並んでいる。
薄暗い教室、夜明けの冷えた空気、それによってうっすら結露した窓。
私はぼんやりとその非日常を感じながら、先程受け取った錠剤をそのまま飲み込んだ。
水無しでいいらしいけど、ちょっと喉につかえる感じがする。
「それじゃあ、次に目覚めた時は...」
「うん、もう友達だよね!」
「バカ! 姉妹って言ってただろ!」
「あはは、姉妹だったっけ」
「ふふ、もう友達みたいですね」
「それじゃ君も、敬語辞めたら?」
「え?」
「僕達は目が覚めたら、姉妹のように振る舞わなくちゃいけないんだから」
「う、うん...頑張ってみま、じゃない、みるね」
「ねぇねぇところでさ、私たち誰がいちばんお姉ちゃんかなー?」
「んなことどうでもいいだろ」
「でも確かに、ボロが出ちゃうと困るし、ちゃんと打ち合わせた方がいいかもしれませ......しれないね」
「あまり話している時間はないよ」
「じゃあさ! 起きた順番にお姉ちゃんってことで!」
「ふふ、いいですねそれ。4つ子みたい」
「じゃーあたし一番最後に起きる」
それは、緊張をほぐすための無理な振る舞いだったかもしれないけれど。
一頻り笑うと、しんと心が静まってきていた。
目眩のように、強制的にやってくる眠気は、薬の効果によるものだと分かる。
もう言葉を交わさずに、一度だけ全員と目配せする。
それから、それぞれは眠気に身を任せて体を倒していった。
目を閉じる。
やがて、優しい夢の中に落ちていく。
これから送る日々に恐れはない。
大人になる頃には忘れる、日常の隙間の、些細な記憶を記していくだけのことだから。