異世界のためのしらべ
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いつの間にか、とぼとぼと歩き出していた。
どうして歩き出したか、どうやってここまで来たか、思い出せないくらいにぼんやりと、勝手に足だけが動いて来た。
行く宛なんて、どこにも無いのに。
隣では、ゆったりとペースを合わせるように、琴都が並んで歩いてくれていた。
あの光景を琴都も見たというのに、どうして平気なんだろう。
「なんで、琴都は平気そうなの」
つい、不満げに言葉が尖ってしまう。
けれど動じる様子も無く、琴都は街並みを見回しながら軽く答える。
「銀さんのこと? 私はよく分からないかなぁ」
「だってキスしてたんだよ? あんなに親しそうに、話だってしてた」
「キスなら、私でも紗如でもできたよ。銀さんからしてたわけじゃないもん」
「そうだけど...普通あんな風にキスを許したりしないよ...」
やだな、と呟くと、琴都の視線がこちらに向く。
彼女は困ったように笑って、でも言葉を選んで何も言い出せないようだった。
「ごめん、困らせちゃって...」
「あはは、気にしないで。それよりも、いろいろ考えないとね」
いろいろ。そう聞いて気が重くなる。
もっと漫画みたいに、衝撃の出会いを果たせていたら。夢みたいに素敵な恋が始まっていたら。
助けてくれる人も、きっとたくさん居て、考えることも楽しいことばかりだったのかな。
なんか...嫌だな。こんな事なら、異世界なんて来なければ良かった。
異世界って、もっと特別で、めちゃくちゃに自分を変えてくれると思っていたのに。
バカだな、当たり前のことだよ。
世界が変わったって、私は変われない。
突然美少女にはなれないし、突然積極的にだってなれない。
銀さんは、私のために生まれてきたわけじゃないんだ。
彼には彼の人生があって、しかもそういうお年頃で、だからこんなの全然おかしくなくて。
私がなにか文句を言えるようなことなんて何も。
「紗如!!」
突然、耳元で叫ばれて現実に引き戻される。
驚きながら琴都の方を見ると、はい、とみたらし団子を差し出された。
「えっ、なに、お団子? いつの間に?」
「私の奢りだから、たんと召し上がれ!」
「へ!? それは嬉しいけど、いいの? っていうかここで使えるお金持ってたの?」
「あはは、うそうそ。それはお団子屋さんがサービスでくれたんだ。私たちがかわいいからって」
「またまた...いつ恩を着せられるか分からないよ...」
そもそも、修学旅行中でトイレに行こうとしていた彼女が、お金を持っていたとしたら、日本円でも不自然だけど。
あ、っていうかすっかり忘れてた。
「ねえ、そういえば琴都、トイレは?」
食べながら、琴都はむぐっと団子を詰まらせた。
思い出した、という顔で急に焦り始めると、食べかけのお団子を私に手渡し、トイレを探して走り出した。
「あっ、ちょっと待ってー!」
*
自動ドアの音と共に、コンビニ特有の入店メロディーが鳴る。
外で待っていた私のもとに、琴都は駆け寄ってきた。
「...おかえり。間に合った?」
「あはは、お陰様でなんとかー」
ほっと胸を撫で下ろした私の前に、ひらりと紙が差し出された。
先程のお団子を手渡しながら訊ねる。
「求人誌? どうしたのこれ?」
「中に置いてあったからもらってきたんだー。住み込みのもたくさんあるみたいだよ」
琴都はあっという間に団子を食べ終えると、串を咥えたまま求人誌のページをめくる。
指差しながら条件を読み上げる琴都を、私はちらりと横目で見た。
「その...琴都は、いいの?」
私の問い掛けに目を丸くすると、琴都は串をゴミ箱に捨てながら笑った。
「いいって、なんの心配してるのー?」
「だって...琴都は、元の世界に帰りたいんじゃないかって...思って」
「あはは、そんな心配いいのに」
「全然良くないよ! だって、琴都も銀魂好きとは言ってたけど...それでも家族とか、会えなくなっちゃうなんて嫌でしょ!」
ゴミ箱からこちらの方に戻ってくると、また同じように求人誌を開く。そのまま、何でも無さそうに話しを続ける。
「私、家族のこととってもだいすきなんだー。パパもママも、私にとっての宝物」
「だったら尚更、ここに居る理由なんて...」
「いつかは帰るよ? だけど、今は紗如ともっと楽しみたいんだもん!」
その笑顔を見て、私は泣きたくなった。
羨ましい気持ちもあるのかもしれない。
あんな光景を見て、それでも笑える女の子はきっと私にとっての理想で。そんなふうに、強くなれたら、と叶わないことを考えてしまう。
「そう言う紗如も、私の心配ばかりだよ? 帰る気なんてぜんぜん無いみたい」
「そ、それは、私は自分であの儀式をやったわけだし...自業自得というか...」
「儀式ねー。そういえば、霊的なものに詳しい人も、この町にならたくさん居るんじゃない? その気になれば帰れるかもよー?」
「や、やだ! 帰りたくない!」
思わず飛び出した言葉に、自分でもハッとする。
私だって変だ。あんなに辛い光景を見たのに、まだこの世界に居たいの?
意地悪言ってごめん、と苦笑いすると、琴都は求人誌を閉じる。
「だいじょうぶ、だよ。そんなに大切な気持ちなんだから、すぐに答えが出せないなんて当たり前の事なんだよ。銀さんのことは、ゆっくりこの世界で考えればいいよ」
私はゆっくりと頷く。
「ありがとう。...必ず、答えを出すから」
とりあえず町中に出ようか、という琴都の提案で、私たちはコンビニを離れて歩き出す。
すると、出てすぐのところでスーツを着た、真面目そうな男性に声を掛けられた。
「少し、お時間よろしいですか?」
手には、書類の入ったファイル。服装は極めてフォーマルな、スーツスタイル。
どこからどう見ても、無害な会社員といった風貌だ。
「求人誌を持っていらっしゃったので、気になってお声を掛けさせて頂きました。もし、まだお仕事が決まってないようでしたら、弊社のアルバイトをしてみませんか?」
琴都は少しも躊躇せずに、男性に質問した。
「それってあやしー仕事ですか?」
「ちょっと琴都、そんなストレートに...」
ハラハラと見守っていたが、男性はそういう説明も慣れているようで、一切動じずに答えた。
「地図をお見せしますね。ここが勤務地になります」
「ん...!? ここって!?」
私は地図が視界に入った瞬間に、食い入るように顔を近付けた。
「はい、真選組です」
「真選組!?」
驚く琴都に見せ付けるように、私は地図を指差す。
聞きたいことが山ほどあった。
「え、えっとあの、でも真選組でなにを? 女人禁制のはずですよね?」
私の質問に琴都がうんうんと頷く。
「隊士として戦闘に出るのではなく、屯所内の清掃や家事が主な内容です。所謂、女中ですね」
しばし、2人で口を開け放っていると、男性が確認のように訊ねてくる。
「女中、やってみませんか?」
「やります!!」
「わ、私も...!」
2人で元気よく返事をし、さっそく案内します、という男性の声に後を着いていく。
まさか、まさか、こんなチャンスが巡ってくるなんて。
もし、近藤さんや土方さんと知り合いになれたら、銀さんとの接点もできるかもしれない。
ううん、そうじゃなくたって。
きっと、楽しい生活が待ってる。
期待に胸が震えていた。
どうして歩き出したか、どうやってここまで来たか、思い出せないくらいにぼんやりと、勝手に足だけが動いて来た。
行く宛なんて、どこにも無いのに。
隣では、ゆったりとペースを合わせるように、琴都が並んで歩いてくれていた。
あの光景を琴都も見たというのに、どうして平気なんだろう。
「なんで、琴都は平気そうなの」
つい、不満げに言葉が尖ってしまう。
けれど動じる様子も無く、琴都は街並みを見回しながら軽く答える。
「銀さんのこと? 私はよく分からないかなぁ」
「だってキスしてたんだよ? あんなに親しそうに、話だってしてた」
「キスなら、私でも紗如でもできたよ。銀さんからしてたわけじゃないもん」
「そうだけど...普通あんな風にキスを許したりしないよ...」
やだな、と呟くと、琴都の視線がこちらに向く。
彼女は困ったように笑って、でも言葉を選んで何も言い出せないようだった。
「ごめん、困らせちゃって...」
「あはは、気にしないで。それよりも、いろいろ考えないとね」
いろいろ。そう聞いて気が重くなる。
もっと漫画みたいに、衝撃の出会いを果たせていたら。夢みたいに素敵な恋が始まっていたら。
助けてくれる人も、きっとたくさん居て、考えることも楽しいことばかりだったのかな。
なんか...嫌だな。こんな事なら、異世界なんて来なければ良かった。
異世界って、もっと特別で、めちゃくちゃに自分を変えてくれると思っていたのに。
バカだな、当たり前のことだよ。
世界が変わったって、私は変われない。
突然美少女にはなれないし、突然積極的にだってなれない。
銀さんは、私のために生まれてきたわけじゃないんだ。
彼には彼の人生があって、しかもそういうお年頃で、だからこんなの全然おかしくなくて。
私がなにか文句を言えるようなことなんて何も。
「紗如!!」
突然、耳元で叫ばれて現実に引き戻される。
驚きながら琴都の方を見ると、はい、とみたらし団子を差し出された。
「えっ、なに、お団子? いつの間に?」
「私の奢りだから、たんと召し上がれ!」
「へ!? それは嬉しいけど、いいの? っていうかここで使えるお金持ってたの?」
「あはは、うそうそ。それはお団子屋さんがサービスでくれたんだ。私たちがかわいいからって」
「またまた...いつ恩を着せられるか分からないよ...」
そもそも、修学旅行中でトイレに行こうとしていた彼女が、お金を持っていたとしたら、日本円でも不自然だけど。
あ、っていうかすっかり忘れてた。
「ねえ、そういえば琴都、トイレは?」
食べながら、琴都はむぐっと団子を詰まらせた。
思い出した、という顔で急に焦り始めると、食べかけのお団子を私に手渡し、トイレを探して走り出した。
「あっ、ちょっと待ってー!」
*
自動ドアの音と共に、コンビニ特有の入店メロディーが鳴る。
外で待っていた私のもとに、琴都は駆け寄ってきた。
「...おかえり。間に合った?」
「あはは、お陰様でなんとかー」
ほっと胸を撫で下ろした私の前に、ひらりと紙が差し出された。
先程のお団子を手渡しながら訊ねる。
「求人誌? どうしたのこれ?」
「中に置いてあったからもらってきたんだー。住み込みのもたくさんあるみたいだよ」
琴都はあっという間に団子を食べ終えると、串を咥えたまま求人誌のページをめくる。
指差しながら条件を読み上げる琴都を、私はちらりと横目で見た。
「その...琴都は、いいの?」
私の問い掛けに目を丸くすると、琴都は串をゴミ箱に捨てながら笑った。
「いいって、なんの心配してるのー?」
「だって...琴都は、元の世界に帰りたいんじゃないかって...思って」
「あはは、そんな心配いいのに」
「全然良くないよ! だって、琴都も銀魂好きとは言ってたけど...それでも家族とか、会えなくなっちゃうなんて嫌でしょ!」
ゴミ箱からこちらの方に戻ってくると、また同じように求人誌を開く。そのまま、何でも無さそうに話しを続ける。
「私、家族のこととってもだいすきなんだー。パパもママも、私にとっての宝物」
「だったら尚更、ここに居る理由なんて...」
「いつかは帰るよ? だけど、今は紗如ともっと楽しみたいんだもん!」
その笑顔を見て、私は泣きたくなった。
羨ましい気持ちもあるのかもしれない。
あんな光景を見て、それでも笑える女の子はきっと私にとっての理想で。そんなふうに、強くなれたら、と叶わないことを考えてしまう。
「そう言う紗如も、私の心配ばかりだよ? 帰る気なんてぜんぜん無いみたい」
「そ、それは、私は自分であの儀式をやったわけだし...自業自得というか...」
「儀式ねー。そういえば、霊的なものに詳しい人も、この町にならたくさん居るんじゃない? その気になれば帰れるかもよー?」
「や、やだ! 帰りたくない!」
思わず飛び出した言葉に、自分でもハッとする。
私だって変だ。あんなに辛い光景を見たのに、まだこの世界に居たいの?
意地悪言ってごめん、と苦笑いすると、琴都は求人誌を閉じる。
「だいじょうぶ、だよ。そんなに大切な気持ちなんだから、すぐに答えが出せないなんて当たり前の事なんだよ。銀さんのことは、ゆっくりこの世界で考えればいいよ」
私はゆっくりと頷く。
「ありがとう。...必ず、答えを出すから」
とりあえず町中に出ようか、という琴都の提案で、私たちはコンビニを離れて歩き出す。
すると、出てすぐのところでスーツを着た、真面目そうな男性に声を掛けられた。
「少し、お時間よろしいですか?」
手には、書類の入ったファイル。服装は極めてフォーマルな、スーツスタイル。
どこからどう見ても、無害な会社員といった風貌だ。
「求人誌を持っていらっしゃったので、気になってお声を掛けさせて頂きました。もし、まだお仕事が決まってないようでしたら、弊社のアルバイトをしてみませんか?」
琴都は少しも躊躇せずに、男性に質問した。
「それってあやしー仕事ですか?」
「ちょっと琴都、そんなストレートに...」
ハラハラと見守っていたが、男性はそういう説明も慣れているようで、一切動じずに答えた。
「地図をお見せしますね。ここが勤務地になります」
「ん...!? ここって!?」
私は地図が視界に入った瞬間に、食い入るように顔を近付けた。
「はい、真選組です」
「真選組!?」
驚く琴都に見せ付けるように、私は地図を指差す。
聞きたいことが山ほどあった。
「え、えっとあの、でも真選組でなにを? 女人禁制のはずですよね?」
私の質問に琴都がうんうんと頷く。
「隊士として戦闘に出るのではなく、屯所内の清掃や家事が主な内容です。所謂、女中ですね」
しばし、2人で口を開け放っていると、男性が確認のように訊ねてくる。
「女中、やってみませんか?」
「やります!!」
「わ、私も...!」
2人で元気よく返事をし、さっそく案内します、という男性の声に後を着いていく。
まさか、まさか、こんなチャンスが巡ってくるなんて。
もし、近藤さんや土方さんと知り合いになれたら、銀さんとの接点もできるかもしれない。
ううん、そうじゃなくたって。
きっと、楽しい生活が待ってる。
期待に胸が震えていた。
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