送り主のための便箋
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「元より僕はそのつもりだよ。君たちを元の世界に帰す」
ぐらりと首を傾けて見上げた空は、冬のような真っ白の曇り空だった。
アスファルトから、つんと湿った匂いがして、少し頭が痛くなる。
こんな事ばっかり、自分たちの世界と同じで。
簡単に、元の日常に帰れそうな。
勢いで帰ってしまえば、諦めがつきそうな、そんな気持ちだから。
「...はい。お願いします」
私は、ルトラさんの小さな手に、この手を伸ばそうとした。
けれど。
パンッと強く手のひらが触れ合う音がして、空気が張り詰める。
手元を見ると、琴都の手の熱が、自分の手の中にあった。
「琴都...?」
彼女は似合わない表情で、怒っているような目をしている。
触れた手をぎゅっと握られ、その感情が伝わってきてしまう。
「だめだよ。こんな所で終わりにするなんて、絶対だめだよ!」
子供みたいだ、と思うのに振り払えないのは、もしかしたら、私も言ったかもしれない言葉だから。
だけど、どうして君が、私よりも必死にこの世界にしがみつくの?
琴都には、結ばれたい人も居なくて、帰れば幸せな家庭があるのに。
「もう、足掻く意味もないよ。琴都だって家族のところに帰りたいでしょ? そもそも、こんなこと間違ってたんだよ。私たちみたいなのが増えていったら、この世界はどんどん変わっていっちゃう」
怯えて早口になった私は無様だ。
琴都はそんな話は聞かずに、強く訴えてくるのみで。
「だって、約束したじゃん! 銀さんのこと、必ず答えを出すって!」
だけど、今の私にとって正論は都合が良すぎるんだ。
自分の言葉じゃないのに、強く言い返せてしまうのが、カッコ悪い。
「そんなの、ワガママなんだよ。答えを出すとか出さないとか、そんな話よりも前に、ルールを守らなくちゃいけないでしょう? この世界に居ることは『違法』なんだよ」
怯んだように唾を飲み込む音がして、琴都が言い返せなくなってしまった事を感じ取る。
私が説き伏せたのに。私の言葉がそうしたのに。
ルールなんて破れっこない事を、改めて理解することになってしまった事が悔しかった。
ワガママは、私の方だ。
「ルールとか...そういうの...」
弱い声が足掻く言葉。
きっと、琴都が何かを言ってくれるのはこれが最後なんだろうと思った。
顔を上げると、琴都の真剣な瞳と目が合う。
すると彼女は、突然ひらめいたような表情をして。
みるみるうちに笑顔になると、目をきらきらさせながら言った。
「そういうの...守らなくちゃだめだよね!!」
「へ?」
放たれた言葉は、今まで話を聞いていたのかと疑いたくなるほど間抜けだった。
だけど琴都は、自信満々の笑顔で続ける。
「ルールは守らなくちゃ! 私たちもルトラさんのお仕事手伝おうよ!」
「えぇ!?」
この場の誰もが目を丸くしていたが、1番に驚いていたのはルトラさんだ。
彼女はずっと無表情で動じる様子なんか無かったのに、子供っぽく表情を崩して琴都を見ていた。
ぎゅっと握られた手は、いつの間にか汗ばむほどに熱い。
「だって、こんなにたくさん、違法...にゅうかい? してる人が居るんだよ! 私たちが見たのなんて一部で、ほんとはもっとたくさん居るんでしょ? そんなのルトラさんだけじゃ大変だよ!」
「そうは言っても、私たちもその違法入界者なんだし...」
「関係ないよ! ねえルトラさん、どうなの! 私たちはルトラさんのお手伝いできないの?」
琴都に詰め寄られると、ルトラさんは慌てたように元の無表情の顔を繕う。
じりじりと寄ってくる琴都の肩を押し返しながら、静かな声で答えた。
「...まず、違法入界者を送り返す役目を持つ者、即ち*センダー*は僕以外にも幾らかは居る。...とはいえ君の言う通り、違法入界者はそれでも追い付かない程に増えているから、割合で言えばセンダーの数は足りていない」
「それじゃあ、私たちもその、センダーってやつになってもいいよね!?」
「...なれない事はないよ」
じゃあ!と即決してしまいそうな琴都の声を遮って、ルトラさんは「ただし」と続けた。
「センダーは恋愛禁止だよ。恋愛でなくとも、必要以上にこの世界の人間と関われば、センダーから外されることだってある」
内心喜びかけていた私は、その条件を聞いて落胆した。
だけど、考えてみれば当たり前のことだった。
これだけ、この世界に居たいと思う人が沢山居るのに、合法で居座れるセンダーにならないのは、みんな結ばれたい人が居るからだ。
私は、無意識に呟いていた。
「恋愛か、」
自分自身への問い掛けを。
「世界か。」
ぐらりと首を傾けて見上げた空は、冬のような真っ白の曇り空だった。
アスファルトから、つんと湿った匂いがして、少し頭が痛くなる。
こんな事ばっかり、自分たちの世界と同じで。
簡単に、元の日常に帰れそうな。
勢いで帰ってしまえば、諦めがつきそうな、そんな気持ちだから。
「...はい。お願いします」
私は、ルトラさんの小さな手に、この手を伸ばそうとした。
けれど。
パンッと強く手のひらが触れ合う音がして、空気が張り詰める。
手元を見ると、琴都の手の熱が、自分の手の中にあった。
「琴都...?」
彼女は似合わない表情で、怒っているような目をしている。
触れた手をぎゅっと握られ、その感情が伝わってきてしまう。
「だめだよ。こんな所で終わりにするなんて、絶対だめだよ!」
子供みたいだ、と思うのに振り払えないのは、もしかしたら、私も言ったかもしれない言葉だから。
だけど、どうして君が、私よりも必死にこの世界にしがみつくの?
琴都には、結ばれたい人も居なくて、帰れば幸せな家庭があるのに。
「もう、足掻く意味もないよ。琴都だって家族のところに帰りたいでしょ? そもそも、こんなこと間違ってたんだよ。私たちみたいなのが増えていったら、この世界はどんどん変わっていっちゃう」
怯えて早口になった私は無様だ。
琴都はそんな話は聞かずに、強く訴えてくるのみで。
「だって、約束したじゃん! 銀さんのこと、必ず答えを出すって!」
だけど、今の私にとって正論は都合が良すぎるんだ。
自分の言葉じゃないのに、強く言い返せてしまうのが、カッコ悪い。
「そんなの、ワガママなんだよ。答えを出すとか出さないとか、そんな話よりも前に、ルールを守らなくちゃいけないでしょう? この世界に居ることは『違法』なんだよ」
怯んだように唾を飲み込む音がして、琴都が言い返せなくなってしまった事を感じ取る。
私が説き伏せたのに。私の言葉がそうしたのに。
ルールなんて破れっこない事を、改めて理解することになってしまった事が悔しかった。
ワガママは、私の方だ。
「ルールとか...そういうの...」
弱い声が足掻く言葉。
きっと、琴都が何かを言ってくれるのはこれが最後なんだろうと思った。
顔を上げると、琴都の真剣な瞳と目が合う。
すると彼女は、突然ひらめいたような表情をして。
みるみるうちに笑顔になると、目をきらきらさせながら言った。
「そういうの...守らなくちゃだめだよね!!」
「へ?」
放たれた言葉は、今まで話を聞いていたのかと疑いたくなるほど間抜けだった。
だけど琴都は、自信満々の笑顔で続ける。
「ルールは守らなくちゃ! 私たちもルトラさんのお仕事手伝おうよ!」
「えぇ!?」
この場の誰もが目を丸くしていたが、1番に驚いていたのはルトラさんだ。
彼女はずっと無表情で動じる様子なんか無かったのに、子供っぽく表情を崩して琴都を見ていた。
ぎゅっと握られた手は、いつの間にか汗ばむほどに熱い。
「だって、こんなにたくさん、違法...にゅうかい? してる人が居るんだよ! 私たちが見たのなんて一部で、ほんとはもっとたくさん居るんでしょ? そんなのルトラさんだけじゃ大変だよ!」
「そうは言っても、私たちもその違法入界者なんだし...」
「関係ないよ! ねえルトラさん、どうなの! 私たちはルトラさんのお手伝いできないの?」
琴都に詰め寄られると、ルトラさんは慌てたように元の無表情の顔を繕う。
じりじりと寄ってくる琴都の肩を押し返しながら、静かな声で答えた。
「...まず、違法入界者を送り返す役目を持つ者、即ち*センダー*は僕以外にも幾らかは居る。...とはいえ君の言う通り、違法入界者はそれでも追い付かない程に増えているから、割合で言えばセンダーの数は足りていない」
「それじゃあ、私たちもその、センダーってやつになってもいいよね!?」
「...なれない事はないよ」
じゃあ!と即決してしまいそうな琴都の声を遮って、ルトラさんは「ただし」と続けた。
「センダーは恋愛禁止だよ。恋愛でなくとも、必要以上にこの世界の人間と関われば、センダーから外されることだってある」
内心喜びかけていた私は、その条件を聞いて落胆した。
だけど、考えてみれば当たり前のことだった。
これだけ、この世界に居たいと思う人が沢山居るのに、合法で居座れるセンダーにならないのは、みんな結ばれたい人が居るからだ。
私は、無意識に呟いていた。
「恋愛か、」
自分自身への問い掛けを。
「世界か。」
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