ノープラン
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斑目貘はスーツの上着のポケットからカリ梅を一粒取り出して、個包装のビニールをピッと破り赤い実に噛り付いた。噛む度にあふれる酸味に梅独特の香りと小気味よい食感を顎に響かせ存分に堪能し、道端へ種をプッと吐き捨てる。種は大きめの石に当たって跳ね返り、あらぬ方向へ勢いよく飛んでいった。
◾︎ ◾︎
道端で欠伸をしてたら私の口の中に何かが光の速さで飛び込んできた。
「アアアアイドルマスターミリオンライブシアターデイズ⁉︎」
自分で今何を口走ったのかわからないほどに動転して思わず片膝を付く。
こ、この……なんだ……この、なんだ⁉︎ これは一体……⁉︎ まっ、不味い! なんかこの味覚えがあるぞ! すごく不味い‼︎
「だっ、大丈夫?」
こちらに近づく足音と聞き覚えのある男性の声が耳に入ると同時に、目の前が人影で暗くなり誰かに肩を掴まれた。見上げればおそろしく美形の男がいた。
おや?
「巨にゅ──」
「しっ! 人前だからやめて」
先日会った巨乳大作戦のイケメンが、自らの口元に人差し指を当てて凄んできた。とても近い。あまりの迫力に唾を飲み込み、口の中の何かが喉の奥に落ちていく。
「カハァ────ッ‼︎」
私は今度こそ崩れ落ちた。
「はっ!」
気がつくと公園のベンチに座っていて左手に持ったお茶のペットボトルのキャップを閉めていた。口の中と喉の奥がポリフェノールのカテキンですっきり爽やかだ。
「落ち着いた?」
すぐそばに、やけに顔の整った綺麗な男性が立っていた。
おや?
彼の背後に、でかでかと主張されるタイトルと胸を強調した際どい格好の女性がバーンの幻覚が見える。
「巨乳大作戦さん?」
「あっ違います斑目です」
勝手に名前にしないでほしいな、とぼやいた彼──巨乳大作戦改め斑目さんは私の隣に腰掛け長い脚を組んで、何か言いたげにこちらへちらっちらと視線を寄越してくる。顔が良くて緊張するからこっちを見るな。
「な、なんですか?」
「いや〰︎。ほらっ、さっきすごかったでしょ。もう大丈夫なの」
……そうだ、思い出した。やばいものが口に入ってきてやばかったんだ。そうか、この人が助けてくれたんだ。命の恩人。神に感謝。
「死ぬとこだったんですけど斑目さんのおかげで助かりました。ありがとうございました。私メキシカンタコスっていいます。お茶代払います」
「いいよ別に」
口早に礼を述べ葉っぱのポシェットから財布を取り出すと、手の平を向けられ制される。組んでいた脚を直してこちらから顔を背けた斑目さんはどうでもよさそうだった。
本当に長いな脚……と思いつつ、もうどこかへ去ってしまいそうな雰囲気を感じ取り、ポシェットから袋を取り出す。うん、丁度いいから渡してしまえ。
「じゃあこれを……! お礼になるかわからないですけど」
「! こ、これは……」
半ば押し付けるように手渡すと動揺を見せた斑目さん。
それもそうだろう、この袋は見覚えがあるはずだ。斑目さんから受け取った『巨乳大作戦 8』が入っている岡屋のレンタル袋なのだから。今日返却しようと持ってきていたのだ。
「……間違えて変なの渡しちゃってごめんね」
「あ、いえ……けっこう面白かったんで別に……」
「えっ見たの?」
少し気まずい空気が流れ、斑目さんが軽く咳払いをして立ち上がり、私もつられて立ち上がる。どちらともなくアイコンタクトを交わし頷き合い解散した。何の意思疎通だったのかはおそらくお互いにわかっていない。
口の中に飛び込んできた物の正体はわからずじまいだったが、今の私にとってそれは重要じゃない。斑目さん……見た目がえげつないほど格好良いうえに良い人だった……またいつかどこかで会えるといいなあ。
と思っていた矢先に前方に斑目さんを発見。眼鏡を上げて眼を凝らして見たがあれは間違いない。見るからになんか高そうな白いスーツにウェーブした色素の薄い髪。あの後ろ姿は斑目さんだ。後ろ姿すら美形でびっくりする。
命を助けていただいてから数日もしない日の仕事帰り、小雨が降る中自宅に向かって車を走らせていた時だ。満員電車が嫌いなので車で通勤している。
通常であればそのまま通り過ぎてもよかったが、小雨とはいえ彼は傘もささずに歩いている。命の恩人に対して素通りはできない。とはいえ友人どころか知り合いとも言えない赤の他人だしこのご時世だ、不審がられるかもしれない。それはやだな……なんて声をかけよう。
迷っているうちにすぐに追いついてしまい、車の速度を緩め路肩に寄せる。軽くクラクションを鳴らして窓を開けると、斑目さんがきょとんとした顔で振り向いた。相変わらずお顔がよろしいようで。
「あれっ、えーっと……メキシカンタコスさんだ」
名前を覚えていただけている……! 嬉しい! そして微かに雨に濡れている様子が色っぽい! いやいやそうじゃないそうじゃない、何でもいいから言わないと。何でもいいから言わないと!
「色っぽいですね〜お客さん、どちらまで?」
タクシーのセクハラ運転手みたいになった。後悔した。焦ってちょっとハアハアしちゃって完全に不審者だ。どうか聞かなかったことにしてほしい。
乗ってもらって5分も経たずに渋滞に捕まり、バックミラーで後部座席の様子を伺うと、斑目さんは暇そうに窓の外を眺めている。
「ねぇ〰︎〰︎」
「はい?」
先程のセクハラについては特に言及されず、スルーしてくれてありがとう、と感謝の念を送っていると後部座席から声をかけられた。念が伝わったのだろうか。
「さっきのもう1回言ってみてよ」
むせた。
念など伝わっていなかった。またバックミラーを見ると今度は目が合う。素敵な笑顔だ。おもちゃにされてる気がする。
渋滞は解消される様子がなく、この調子では歩いた方が早そうなので結局降りてもらって傘を貸すことにした。車中に置いていた2本の傘を持ち、どちらを渡そうか悩む。こっちはお気に入りのお洒落なやつ、こっちは忘れた時に100均で買ったやつ。
「返ってこなくてもいい100均の傘どうぞ!」
「正直だね……」
後部座席に向けて差し出した傘は見た目もいかにも安物で、身なりにお金をかけていそうな斑目さんが使うと似合わなそうでちょっと面白い。斑目さんは傘を膝の上に倒してポケットから出したスマホをこちらに向けて軽く振る。
「今度ちゃんと返すから番号教えてよ」
「アッヒョ⁉︎」
動揺してしまった。危ない危ない。仕方がないじゃないか、生まれてこの方こんな色男に会ったり連絡先を聞かれたりしたことないんだもの。いや、男女のあれこれを期待してるわけじゃないんだ! 決して! 決して‼︎ あっ、でもちょっとは期待っていうか、いや期待じゃないけど嬉しいっていうか……わかってる! わかってるんじゃ〜い! そういうのじゃないって! でもイケメンだし〜⁉︎ 嬉しいものは嬉しいんじゃ〰︎〰︎い!
とか考えながら若干震え声でなんとか番号を伝えた。若干ニヤニヤしてる気がする斑目さんは礼を言って車を降り、ドアの外で少し屈んでこちらを覗いてまたね、と声をかけてくる。私は彼の開いたシャツから覗く胸元に釘付けだ。
「色っぽいですね〜お客さん!」
数分越しにリクエストに応えることになった。ちくしょう! 台無しにしやがった! お前はいつもそうだ。誰もお前を愛さない。
またどこかへ歩いていく斑目さんの頭上で不自然に揺れるチープな傘は案外似合っていた。あれ絶対笑ってるだろ。
◾︎ ◾︎
道端で欠伸をしてたら私の口の中に何かが光の速さで飛び込んできた。
「アアアアイドルマスターミリオンライブシアターデイズ⁉︎」
自分で今何を口走ったのかわからないほどに動転して思わず片膝を付く。
こ、この……なんだ……この、なんだ⁉︎ これは一体……⁉︎ まっ、不味い! なんかこの味覚えがあるぞ! すごく不味い‼︎
「だっ、大丈夫?」
こちらに近づく足音と聞き覚えのある男性の声が耳に入ると同時に、目の前が人影で暗くなり誰かに肩を掴まれた。見上げればおそろしく美形の男がいた。
おや?
「巨にゅ──」
「しっ! 人前だからやめて」
先日会った巨乳大作戦のイケメンが、自らの口元に人差し指を当てて凄んできた。とても近い。あまりの迫力に唾を飲み込み、口の中の何かが喉の奥に落ちていく。
「カハァ────ッ‼︎」
私は今度こそ崩れ落ちた。
「はっ!」
気がつくと公園のベンチに座っていて左手に持ったお茶のペットボトルのキャップを閉めていた。口の中と喉の奥がポリフェノールのカテキンですっきり爽やかだ。
「落ち着いた?」
すぐそばに、やけに顔の整った綺麗な男性が立っていた。
おや?
彼の背後に、でかでかと主張されるタイトルと胸を強調した際どい格好の女性がバーンの幻覚が見える。
「巨乳大作戦さん?」
「あっ違います斑目です」
勝手に名前にしないでほしいな、とぼやいた彼──巨乳大作戦改め斑目さんは私の隣に腰掛け長い脚を組んで、何か言いたげにこちらへちらっちらと視線を寄越してくる。顔が良くて緊張するからこっちを見るな。
「な、なんですか?」
「いや〰︎。ほらっ、さっきすごかったでしょ。もう大丈夫なの」
……そうだ、思い出した。やばいものが口に入ってきてやばかったんだ。そうか、この人が助けてくれたんだ。命の恩人。神に感謝。
「死ぬとこだったんですけど斑目さんのおかげで助かりました。ありがとうございました。私メキシカンタコスっていいます。お茶代払います」
「いいよ別に」
口早に礼を述べ葉っぱのポシェットから財布を取り出すと、手の平を向けられ制される。組んでいた脚を直してこちらから顔を背けた斑目さんはどうでもよさそうだった。
本当に長いな脚……と思いつつ、もうどこかへ去ってしまいそうな雰囲気を感じ取り、ポシェットから袋を取り出す。うん、丁度いいから渡してしまえ。
「じゃあこれを……! お礼になるかわからないですけど」
「! こ、これは……」
半ば押し付けるように手渡すと動揺を見せた斑目さん。
それもそうだろう、この袋は見覚えがあるはずだ。斑目さんから受け取った『巨乳大作戦 8』が入っている岡屋のレンタル袋なのだから。今日返却しようと持ってきていたのだ。
「……間違えて変なの渡しちゃってごめんね」
「あ、いえ……けっこう面白かったんで別に……」
「えっ見たの?」
少し気まずい空気が流れ、斑目さんが軽く咳払いをして立ち上がり、私もつられて立ち上がる。どちらともなくアイコンタクトを交わし頷き合い解散した。何の意思疎通だったのかはおそらくお互いにわかっていない。
口の中に飛び込んできた物の正体はわからずじまいだったが、今の私にとってそれは重要じゃない。斑目さん……見た目がえげつないほど格好良いうえに良い人だった……またいつかどこかで会えるといいなあ。
と思っていた矢先に前方に斑目さんを発見。眼鏡を上げて眼を凝らして見たがあれは間違いない。見るからになんか高そうな白いスーツにウェーブした色素の薄い髪。あの後ろ姿は斑目さんだ。後ろ姿すら美形でびっくりする。
命を助けていただいてから数日もしない日の仕事帰り、小雨が降る中自宅に向かって車を走らせていた時だ。満員電車が嫌いなので車で通勤している。
通常であればそのまま通り過ぎてもよかったが、小雨とはいえ彼は傘もささずに歩いている。命の恩人に対して素通りはできない。とはいえ友人どころか知り合いとも言えない赤の他人だしこのご時世だ、不審がられるかもしれない。それはやだな……なんて声をかけよう。
迷っているうちにすぐに追いついてしまい、車の速度を緩め路肩に寄せる。軽くクラクションを鳴らして窓を開けると、斑目さんがきょとんとした顔で振り向いた。相変わらずお顔がよろしいようで。
「あれっ、えーっと……メキシカンタコスさんだ」
名前を覚えていただけている……! 嬉しい! そして微かに雨に濡れている様子が色っぽい! いやいやそうじゃないそうじゃない、何でもいいから言わないと。何でもいいから言わないと!
「色っぽいですね〜お客さん、どちらまで?」
タクシーのセクハラ運転手みたいになった。後悔した。焦ってちょっとハアハアしちゃって完全に不審者だ。どうか聞かなかったことにしてほしい。
乗ってもらって5分も経たずに渋滞に捕まり、バックミラーで後部座席の様子を伺うと、斑目さんは暇そうに窓の外を眺めている。
「ねぇ〰︎〰︎」
「はい?」
先程のセクハラについては特に言及されず、スルーしてくれてありがとう、と感謝の念を送っていると後部座席から声をかけられた。念が伝わったのだろうか。
「さっきのもう1回言ってみてよ」
むせた。
念など伝わっていなかった。またバックミラーを見ると今度は目が合う。素敵な笑顔だ。おもちゃにされてる気がする。
渋滞は解消される様子がなく、この調子では歩いた方が早そうなので結局降りてもらって傘を貸すことにした。車中に置いていた2本の傘を持ち、どちらを渡そうか悩む。こっちはお気に入りのお洒落なやつ、こっちは忘れた時に100均で買ったやつ。
「返ってこなくてもいい100均の傘どうぞ!」
「正直だね……」
後部座席に向けて差し出した傘は見た目もいかにも安物で、身なりにお金をかけていそうな斑目さんが使うと似合わなそうでちょっと面白い。斑目さんは傘を膝の上に倒してポケットから出したスマホをこちらに向けて軽く振る。
「今度ちゃんと返すから番号教えてよ」
「アッヒョ⁉︎」
動揺してしまった。危ない危ない。仕方がないじゃないか、生まれてこの方こんな色男に会ったり連絡先を聞かれたりしたことないんだもの。いや、男女のあれこれを期待してるわけじゃないんだ! 決して! 決して‼︎ あっ、でもちょっとは期待っていうか、いや期待じゃないけど嬉しいっていうか……わかってる! わかってるんじゃ〜い! そういうのじゃないって! でもイケメンだし〜⁉︎ 嬉しいものは嬉しいんじゃ〰︎〰︎い!
とか考えながら若干震え声でなんとか番号を伝えた。若干ニヤニヤしてる気がする斑目さんは礼を言って車を降り、ドアの外で少し屈んでこちらを覗いてまたね、と声をかけてくる。私は彼の開いたシャツから覗く胸元に釘付けだ。
「色っぽいですね〜お客さん!」
数分越しにリクエストに応えることになった。ちくしょう! 台無しにしやがった! お前はいつもそうだ。誰もお前を愛さない。
またどこかへ歩いていく斑目さんの頭上で不自然に揺れるチープな傘は案外似合っていた。あれ絶対笑ってるだろ。