ノープラン
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タイムセールを狙ってスーパーマーケットで買い物をしていたら、お菓子コーナーでものすごく困っている人がいた。顔はよく見えないけど、体格がものすごく良い。スゲームキムキマッチョがものすごく唸り声をあげてものすごくきょろきょろしている。
どうしても気になって横目で伺いつつ、アスパラガス、たべっ子どうぶつ、しみチョココーンと次々カゴに入れながら近づいて、声をかけようとしたところで反対側から店員が来て先を越された。耳をそばだてなくても聞こえるでかい声はカリ梅を欲していた。店員はそこに無かったら無いですね〜、と申し訳なさそうに微笑んで品出し中の棚に戻っていった。
「マルコはカリ梅を買わないと帰れない……」
彼は眉を八の字にして何故か私に対して言ってきた。ええ……子供じゃあるまいし、そんなこと言われたって……。
「オシッコ」
「おしっこ⁉︎」
間違いなく彼は子供だった。まったく、なんて親だ! こんな幼い子に1人で買い物なんかさせて! けしからん!
子犬のような瞳に負けてとりあえず別の店に一緒に行ったそばから尿意を催したマルコくんをトイレへ連れて行き、トイレ前で待っていると店内放送がかかる。
『只今より、カリ梅の詰め放題が始まります。場所は──』
なんだって?
頭上を見上げると同時に、マルコくんが手から水滴を撒き散らしながら光の速さでトイレから飛び出してきた。
「今誰かがカリ梅の話してた! 行かなきゃ!」
「危ないから歩こうね! 手拭いてこうね!」
葉っぱのポシェットからハンカチを取り出して、競歩になるマルコくんを追いかけた。驚異的な速さと脚の長さの差で全く追いつけない。
お菓子コーナー近くの開けた場所には、大きめのワゴンがいくつか組み合わさりカリ梅の山ができていた。小包装されているはずが会場に充満する梅の香りに眩暈を覚え、思わず片膝を付いた。臭い。
「くっ、このにおいは……」
斑目さんに命を救われた時(2話)に口に入ってきたやつと同じ香りだ。あれはカリ梅だったのか。あの時は突然のことだったから何なのかわからなかったけど、今思うとこの前岡屋へ行った後に買った弁当に入ってたカリ梅(1話)とあれは同じ風味だった気がする。カリ梅だったのか。
ハンカチで鼻を覆い辺りを見回すと、マルコくんが笑顔で透明のビニール袋を手に取るのが見えた。すごい勢いでカリ梅を詰め込んですごい勢いで袋が爆発した。それから私達は協力してカリ梅を詰め込んだ。凹凸に合わせて交互に詰めたカリ梅が美しく並ぶ様はまるで芸術品だ。袋は破裂寸前で触っていなくてもギチギチと音を立て存在を際立たせている。
はじめてのおつかいサポートを終え帰路に就こうとしたところで、さっきまで持っていたはずの買い物袋が無いことに気がついた。
「お礼に持ってあげる。おうちはどこ?」
いつのまにか私の荷物を持ち、道を塞ぐような立ち姿に一瞬恐怖を覚えたものの、天使のような笑顔につられて微笑んだ。おかしいな、こんなに逞しい体でとても男らしく引き締まった顔立ちなのにものすごくかわいい。
「助けてもらったらお礼するって貘兄ちゃんが言ってたからね」
「貘兄ちゃんは正しいけど知らない人にそこまでしちゃ駄目だよ」
貘兄ちゃんって誰?
「正しいのにしちゃ駄目なの?」
「駄目じゃないよ」
澄んだ瞳で見つめられ降参した私はボロアパートの2階にある自分の部屋へマルコくんを招いてしまった。
買った食べ物を冷蔵庫へ入れていると真後ろからグゥギュルルルブリブリ〜ッ! と愉快な音が聞こえてきた。
「マルコはもうお腹ペコペコよ」
「……な、何か食べてくかね?」
お腹をさすってしょんぼりする様子に構わずにいられなかった。もしかして、これが母性……?
そして一緒にハンバーグを作ることになった。チャック付きの袋へ、先程スーパーから調達してばかりのひき肉やら玉ねぎやらの数日分の食材ほぼ全てと、めんつゆとかの調味料もドカドカ入れて、こねたいとそわそわするマルコくんに渡す。
「思いっきりこねよう!」
「うん!」
彼がニコ! と笑い両手で袋を握りしめると袋が爆発して肉が四方八方に飛び散った。
「わ!」
「ギャー!」
眼鏡に付いた肉塊を拭うと、台所の惨状と飛び散った肉をつまんでは口に入れるマルコくんが視界に入る。
「駄目駄目駄目生肉駄目駄目!」
「食べ物は粗末にしちゃいけないって貘兄ちゃんが言ってた!」
「教育がなんか偏ってるんだよ! 親の顔が見てみたい!」
必死に引き留めた結果飛び散ったひき肉は全部食べられたが、飛び散らなかった肉でなんとか山盛りのハンバーグが出来上がった。出来立てホヤホヤのニコニコ花丸ハンバーグをマルコくんは必死に頬張る。私も食べたいんだけどな。
「私も食べていい?」
「あっ!」
一心不乱に肉を食うところへ手を伸ばしかけると、彼は突然大声を出して立ち上がった。
「帰らなくちゃ! さよなら!」
最後のひとつを鷲掴みして口に詰め込んで、ギチギチのカリ梅パックを引っ掴み慌てて部屋を出て行った。と思ったらシュッと戻ってきて小銭をチャリ、と置き、
「おつりはとっといて!」
とまたダッシュで出て行く。階段のこれでもかと言うほどに軋む音が聞こえた。
私の飯は?
残ったのは汚い壁と空になった皿と1枚の50円玉だけ。他に何か作る気力も無くなり水飲んで寝た。
◾︎ ◾︎
例のブツよ! と声高々に、貘たち一行が拠点とするホテルに戻ったマルコは、カリ梅の袋を差し出した。
貘は食べかすやら何やらで汚れているマルコの顔を見た。
「……なんか食べてきた?」
「優しいお姉さんが助けてくれた」
「そう……」
限界ギッチギチのカリ梅を受け取った貘は、その袋の上部を開けた。袋が爆発してカリ梅が爆散した。
◾︎ ◾︎
休日で惰眠を貪っていると玄関のブザーが間抜けな音を響かせた。なんか通販したっけ。
「は〜い……」
腹を掻きながらドアをわずかに開けると、ぐん、と向こうへ引っ張られ、ドアチェーンが引きちぎれた。
「あ?」
ドアの向こうには屈強そうな肉体のマルコくんがにこにこと笑顔を浮かべている。
「あ!」
そしてその隣には私の命の恩人、史上最強にイケメてる斑目さんが立っていた。
「あ!?」
「こんにちは! 貘兄ちゃんを連れてきたよ」
「貘兄ちゃん⁉︎」
斑目さんが、貘兄ちゃん⁉︎
思わずまじまじと見つめてしまった。貘兄ちゃんもこちらをまじまじと見つめていた。
がっつり見つめ合ってから、寝起きで頭が大爆発してるのとすっぴんなのと腹が出てるのを思い出した。
「うわーっ!」
叫び声をあげてドアを閉めようとしたがなぜかびくともしない。クソ! 表の2人とまた目が合う。こっちを見るな!
「ぎゃ〰︎〰︎〰︎〰︎‼︎」
私はまた叫び声をあげて部屋の中へ逃げた。
どうしても気になって横目で伺いつつ、アスパラガス、たべっ子どうぶつ、しみチョココーンと次々カゴに入れながら近づいて、声をかけようとしたところで反対側から店員が来て先を越された。耳をそばだてなくても聞こえるでかい声はカリ梅を欲していた。店員はそこに無かったら無いですね〜、と申し訳なさそうに微笑んで品出し中の棚に戻っていった。
「マルコはカリ梅を買わないと帰れない……」
彼は眉を八の字にして何故か私に対して言ってきた。ええ……子供じゃあるまいし、そんなこと言われたって……。
「オシッコ」
「おしっこ⁉︎」
間違いなく彼は子供だった。まったく、なんて親だ! こんな幼い子に1人で買い物なんかさせて! けしからん!
子犬のような瞳に負けてとりあえず別の店に一緒に行ったそばから尿意を催したマルコくんをトイレへ連れて行き、トイレ前で待っていると店内放送がかかる。
『只今より、カリ梅の詰め放題が始まります。場所は──』
なんだって?
頭上を見上げると同時に、マルコくんが手から水滴を撒き散らしながら光の速さでトイレから飛び出してきた。
「今誰かがカリ梅の話してた! 行かなきゃ!」
「危ないから歩こうね! 手拭いてこうね!」
葉っぱのポシェットからハンカチを取り出して、競歩になるマルコくんを追いかけた。驚異的な速さと脚の長さの差で全く追いつけない。
お菓子コーナー近くの開けた場所には、大きめのワゴンがいくつか組み合わさりカリ梅の山ができていた。小包装されているはずが会場に充満する梅の香りに眩暈を覚え、思わず片膝を付いた。臭い。
「くっ、このにおいは……」
斑目さんに命を救われた時(2話)に口に入ってきたやつと同じ香りだ。あれはカリ梅だったのか。あの時は突然のことだったから何なのかわからなかったけど、今思うとこの前岡屋へ行った後に買った弁当に入ってたカリ梅(1話)とあれは同じ風味だった気がする。カリ梅だったのか。
ハンカチで鼻を覆い辺りを見回すと、マルコくんが笑顔で透明のビニール袋を手に取るのが見えた。すごい勢いでカリ梅を詰め込んですごい勢いで袋が爆発した。それから私達は協力してカリ梅を詰め込んだ。凹凸に合わせて交互に詰めたカリ梅が美しく並ぶ様はまるで芸術品だ。袋は破裂寸前で触っていなくてもギチギチと音を立て存在を際立たせている。
はじめてのおつかいサポートを終え帰路に就こうとしたところで、さっきまで持っていたはずの買い物袋が無いことに気がついた。
「お礼に持ってあげる。おうちはどこ?」
いつのまにか私の荷物を持ち、道を塞ぐような立ち姿に一瞬恐怖を覚えたものの、天使のような笑顔につられて微笑んだ。おかしいな、こんなに逞しい体でとても男らしく引き締まった顔立ちなのにものすごくかわいい。
「助けてもらったらお礼するって貘兄ちゃんが言ってたからね」
「貘兄ちゃんは正しいけど知らない人にそこまでしちゃ駄目だよ」
貘兄ちゃんって誰?
「正しいのにしちゃ駄目なの?」
「駄目じゃないよ」
澄んだ瞳で見つめられ降参した私はボロアパートの2階にある自分の部屋へマルコくんを招いてしまった。
買った食べ物を冷蔵庫へ入れていると真後ろからグゥギュルルルブリブリ〜ッ! と愉快な音が聞こえてきた。
「マルコはもうお腹ペコペコよ」
「……な、何か食べてくかね?」
お腹をさすってしょんぼりする様子に構わずにいられなかった。もしかして、これが母性……?
そして一緒にハンバーグを作ることになった。チャック付きの袋へ、先程スーパーから調達してばかりのひき肉やら玉ねぎやらの数日分の食材ほぼ全てと、めんつゆとかの調味料もドカドカ入れて、こねたいとそわそわするマルコくんに渡す。
「思いっきりこねよう!」
「うん!」
彼がニコ! と笑い両手で袋を握りしめると袋が爆発して肉が四方八方に飛び散った。
「わ!」
「ギャー!」
眼鏡に付いた肉塊を拭うと、台所の惨状と飛び散った肉をつまんでは口に入れるマルコくんが視界に入る。
「駄目駄目駄目生肉駄目駄目!」
「食べ物は粗末にしちゃいけないって貘兄ちゃんが言ってた!」
「教育がなんか偏ってるんだよ! 親の顔が見てみたい!」
必死に引き留めた結果飛び散ったひき肉は全部食べられたが、飛び散らなかった肉でなんとか山盛りのハンバーグが出来上がった。出来立てホヤホヤのニコニコ花丸ハンバーグをマルコくんは必死に頬張る。私も食べたいんだけどな。
「私も食べていい?」
「あっ!」
一心不乱に肉を食うところへ手を伸ばしかけると、彼は突然大声を出して立ち上がった。
「帰らなくちゃ! さよなら!」
最後のひとつを鷲掴みして口に詰め込んで、ギチギチのカリ梅パックを引っ掴み慌てて部屋を出て行った。と思ったらシュッと戻ってきて小銭をチャリ、と置き、
「おつりはとっといて!」
とまたダッシュで出て行く。階段のこれでもかと言うほどに軋む音が聞こえた。
私の飯は?
残ったのは汚い壁と空になった皿と1枚の50円玉だけ。他に何か作る気力も無くなり水飲んで寝た。
◾︎ ◾︎
例のブツよ! と声高々に、貘たち一行が拠点とするホテルに戻ったマルコは、カリ梅の袋を差し出した。
貘は食べかすやら何やらで汚れているマルコの顔を見た。
「……なんか食べてきた?」
「優しいお姉さんが助けてくれた」
「そう……」
限界ギッチギチのカリ梅を受け取った貘は、その袋の上部を開けた。袋が爆発してカリ梅が爆散した。
◾︎ ◾︎
休日で惰眠を貪っていると玄関のブザーが間抜けな音を響かせた。なんか通販したっけ。
「は〜い……」
腹を掻きながらドアをわずかに開けると、ぐん、と向こうへ引っ張られ、ドアチェーンが引きちぎれた。
「あ?」
ドアの向こうには屈強そうな肉体のマルコくんがにこにこと笑顔を浮かべている。
「あ!」
そしてその隣には私の命の恩人、史上最強にイケメてる斑目さんが立っていた。
「あ!?」
「こんにちは! 貘兄ちゃんを連れてきたよ」
「貘兄ちゃん⁉︎」
斑目さんが、貘兄ちゃん⁉︎
思わずまじまじと見つめてしまった。貘兄ちゃんもこちらをまじまじと見つめていた。
がっつり見つめ合ってから、寝起きで頭が大爆発してるのとすっぴんなのと腹が出てるのを思い出した。
「うわーっ!」
叫び声をあげてドアを閉めようとしたがなぜかびくともしない。クソ! 表の2人とまた目が合う。こっちを見るな!
「ぎゃ〰︎〰︎〰︎〰︎‼︎」
私はまた叫び声をあげて部屋の中へ逃げた。