仕事机の隣に座って作業を黙々としている女性。
容姿端麗、才色兼備で知られる張春華。雪の様に白い肌に薄紅色の唇に惹かれる人も多いが、心臓を凍らせてしまいそうな冷たい瞳は彼女に近寄らせない。
淡々と仕事をこなし、適確な指示だしで円滑な業務遂行は下手な文官では足下に及ばない程の手腕を振るう。
だけど、そんな彼女の私しか知らない一面がある。
「そろそろ、お茶にしましょうか?」
一仕事終えた張春華が言うと私の手をとり半ば無理矢理に仕事机から離され部屋を出て張春華の私室へ。
小さな円卓に座らせられ、中央の小さな呼び鈴を鳴らすと召し使いが数分もしない間に台車を押してきた。
お茶を注ぎ、私たちの前へ。そしてお茶うけの菓子も一皿ずつ置かれていく。
「本日は杏仁酥(クッキーみたいなヤツ)をご用意させて頂きました。張春華様のは砂糖を控えめにして香ばしさを。賈南風様のは黒糖を使わせて頂きましたので、よろしければ食後、ご感想を。あと見た目にも少々こだわらせて頂きました。」
「そう、お疲れ様。」張春華が素っ気なく返すと召し使いは深々と一礼をし部屋を出ていく。
用意された杏仁酥は可愛らしい猫の形をしていた。春華は白猫を私には黒猫を。
張春華は白い杏仁酥を1枚手に取り、まじまじと眺めた後に小さくかじり、お茶をひと口。
特に感想を言わずに。太ももをポンポンと叩いて懐いてる猫を膝の上に呼んだ。猫を愛でながらお茶を楽しむ。
ずっと眺めていると春華と目が合った。咄嗟に目線を切ってしまったのを不思議そうに首を傾げている。
私も用意されたお茶とお菓子を楽しむ。苺の香りがするお茶と一際香ばしさのある黒糖の杏仁酥に思わず笑みがこぼれる。
「ねぇ」
声をかけられ、再び張春華の方を向くと。懐いてる白猫の両手を持ち、バンザイをさせる様に抱き上げ。猫の頭で口元を隠しながら。
「わたしは黒猫さんの方も気になるにゃー」
と。猫の両手をパタパタ振りながら言った。
そう。彼女は可愛い物が大好きなのだが、自身のクールなイメージを壊さない為に他者を使うのだ。
以前、同じような事があった時に「春華が欲しいんでしょ?」と言った際に「私じゃないわよ?」と、真顔でさも当然の様に返された。
私は、この照れ隠しを結構頻繁に見ている。もう馴れたものだ。
「はい、どうぞ」
私のお菓子を春華の前に出すと「ありがとうにゃー」と言い白猫を膝の上に丸め、お菓子に手を伸ばす。
氷の瞳とも呼ばれる彼女が、つかの間見せる笑みは春の様に暖かく、花のように愛らしい事を私しか知らない。
冷酷なひとの可愛い笑顔