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そんなナズナのいるテーブルから少し離れている柱の陰に、ソルーシュが目を止めたあの異国の青年が立っていた。
彼の緑の瞳は怒りで燃えている。その瞳は他の舞踏会の参加者と同様に主役であるナズナを捕えていた。
目立たないように殺気は抑え、ひたすら気配を消すことに専念しているため誰も彼に気を留める者はいない。
むしろここにいるほとんどの者達が本日の主役と、華やかな舞踏会に気を取られていた。
彼のターゲットは何も知らずに笑い、同席している者と楽しそうに話している。
それを見て青年は苦々しく、そして怒りを秘めた声で吐き捨てた。
「見つけたぞ、ナズナ=フォン=ビスマルク。我らがシェンジャよ」
彼女の姿をその目に映す度に、彼の失くした腕が疼いて仕方がない。殺してやりたい衝動に駆られるが、拳を強く握ることで無理矢理押さえつけた。
殺してはだめだ。
彼女はどうしても生かして連れて帰らねばならない。
彼の生まれ故郷である、ツァンフー帝国へ。
――第1章・終