その少年の髪の色は赤っぽい金色。
ノイシュテルン王国は様々な種族の者が住んでいるため、髪の色も様々だ。その少年の髪色だって珍しくはない。
だが、幼いナズナにとっては珍しい色だったので強烈な印象として焼きついたのだろう。
しかし言われた場所がどこで、どういった時間帯なのかは分からなかった。
エリゴスが世界に散らしたナズナの記憶の欠片は残り二つ。
全てが集まったらナズナの失われていた記憶が戻り、ユーフェイの魔力も完全なものとなる。
彼の魔力が完全なものとなった時、ナズナは彼の願いを叶えるために死ななくてはならない。幼い自分が交わした約束にある種の理不尽さを感じてはいたが、ユーフェイを責める気にはなれなかった。彼は彼なりに苦しんできたのだろうと思ったから。
ふと、ナズナはユーフェイのことが気になった。
「ユーフェイ」
『何だ?』
「貴方がどうして神になったのかを教えてくれませんか?」
ナズナの質問にユーフェイは目を丸くした。何故驚いているのかとナズナは首を傾げる。そんな彼女に苦笑いを零した。
『いや、歴代の花嫁達は一度も俺にそんなことを訪ねてこなかったからな』
苦笑いから悲しそうな表情に変わる。
歴代の花嫁達は自分達のことで精一杯だったのだろう。ナズナだって、歴代の花嫁達と同じようにずっとあそこに閉じ込められていたら、やはり自分のことで精一杯だったはずだ。
つられて悲しそうな表情になるナズナの頭を大きな手で撫でながら、ユーフェイは遠い目をしてぽつりぽつりと自身の過去を語り始めた。
『そうだな…お前が生まれるずっとずっと昔のことだ。東大陸の水妖族が治める小国で俺は生まれ育った。
その頃は今ほど大きな国ではなく、大陸内にいる他の種族との領土争いが絶えなかった』
平和な時代に生まれ育ったナズナには今いちぴんとこない。そういった話は歴史書の中でしか見たことがなかった。
『俺はそういった争いを止めたくて、そして何より国を守りたくて兵に志願した。同じような志を持った仲間達と共に善戦したおかげで、いつの間にか俺の故国は広大なものとなり、国が豊かになった。
周りの国々とも停戦の約定が結ばれ、俺達が望んだ平和をどうにか手に入れることが出来たのだ』
だが、とユーフェイはほんの少し顔を伏せる。ナズナの頭を撫でる手は止まり、彼女の小さな手を握った。
『時の皇帝は俺達が英雄扱いされることが気に食わなかった。民衆が俺達を支持し、皇帝の座を下ろされることを危惧したのだろう。
俺の仲間達は無実の罪を着せられ、そして処刑された。しかし思ったよりも民衆達が反発し、俺だけが処刑されずに無理矢理皇帝の術により神にされ、神殿に祀るという理由で幽閉された』