ナズナの手を握る力が一層強くなり、怒りで彼の手が震えている。
怒りに震えるユーフェイを宥めるように、ナズナは優しく彼の手を握り返した。が、あまり意味は無い。
彼が神となった経緯はあまりにも衝撃的で理不尽である。ノイシュテルン等で信仰されている神も元は人間の英雄ではあったが、彼らはユーフェイのように生きている時に無理矢理捻じ曲げられた訳ではない。
『水妖族の者は耳がこのようになっており、そして髪の色が瑠璃色、瞳が緑。
しかし俺は神になったその日から、水妖族の証の一つである髪色を失った』
ナズナの手を離し、ユーフェイは白くなってしまった自身の髪を触れた。彼に何と言っていいか分からずにナズナはただじっとユーフェイを見る。
皇帝によってその生を捻じ曲げられたその日から、ユーフェイは悠久の時を生きなければならなくなった。皇帝の嫉妬と、そして帝国の繁栄のために。
彼の悲哀がナズナの心にも流れ込んでくる。ユーフェイに手を伸ばし掛けたところで、突然第三者の声が響いた。
『同情を誘うのが上手いな、水妖族の神よ。そこまでしてナズナの心を自身に繋ぎ止めておきたいのか』
この声はナズナがよく知る魔界の王、エリゴスのものだ。
カードはナズナの手元に無いのに、何故彼はここへ干渉出来るのか。この夢の中はユーフェイが主導権を握っているのだから、彼が許可しない限りエリゴスは干渉出来ないはず。
戸惑うユーフェイの前に、面白そうに喉の奥で笑うエリゴスが姿を現した。
「エリゴス!」
『しばらくぶりだな、ナズナ。少し見ない間に大変なことになっていたようだが…』
『何故…どうやってここへ…』
ユーフェイの呟きに、エリゴスは心外そうに大げさな動作で首を竦めた。
『おやおや、大事な主の見舞いに来るのがそんなにいけないことか?俺を誰だと思っている?魔界の王、エリゴス様だぞ?
別世界からレガシリアへ出張しているのだから、主の夢の中へ入り込むなど容易いことよ。精霊の小僧や小娘と一緒にしないでもらおうか』
ということは、今までの夢の中でのやり取りやナズナが思い出してきた記憶、そしてユーフェイの真意がエリゴスにも覗かれていた可能性が高い。
ここで彼に出て来られては自身の悲願が達成出来なくなってしまう。ユーフェイの悲願の鍵はナズナが握っているからだ。
彼がこのタイミングでここへ来たということは、ナズナがユーフェイの約束を果たさないようにするためだろう。
そう確信したユーフェイが双剣を創り出し、構える。殺気立つユーフェイを無視し、エリゴスはナズナに話し掛けた。