ユーフェイの反応を横目にエリゴスは続ける。
『だがもし、お前が今の考えを変え、生きたいと願った時は俺が全力を持って助けてやる。
こいつとの約束も、そして繋がりも全て断ち切ってやろう』
堂々と宣言するエリゴスへ、ストラとアバドンが彼に声援を送る。目を丸くしていたユーフェイの表情が一変し、再び奥歯を噛みしめた。一瞬だけエリゴスのことを見直したが、やはり彼はユーフェイにとって油断ならない人物だと再認識される。
ナズナの方はというと、じっとエリゴスを見据えて押し黙っていた。ユーフェイにとって彼女のその反応が何だか気に食わない上に、余計に不安を煽る。
ナズナの気持ちは今のところ変わりないように思えるが、何かの拍子で変わるかもしれない。
例えば、ナズナがあの幼馴染の商人やミッターマイヤー家で世話になった獣人族の令息等に気持ちを傾けるようになったら。
しかし幸いなことに、今ナズナの心の中にはそういった特別な存在はいない。
しいていうならユーフェイか、リュウシンを始めとする水妖族達への申し訳なさが目立つ。
一先ず安心と言ったところだが、やはり不安は拭えない。
『話はそれだけだ。ではな、ナズナ。なるべく早めにカードを取り戻してやれよ。精霊の小僧と小娘が喧しいからな』
「エリゴス…」
『ま、今は体力的に難しそうだからしっかり身体を休めろ。また来てやる』
にっこりと人の悪そうな笑みをユーフェイに向け、エリゴスは挨拶すると姿を消した。彼が姿を消したと同時に、ユーフェイを拘束していたストラとアバドンも姿を消す。
魔界の者達がいなくなり、ぼーっと立っているユーフェイの元へナズナが駆け寄り、彼の顔を覗き込んだ。
「…ユーフェイ?」
彼は返事をせず、ナズナの細い手首を強く掴んだ。あまりの強さにナズナが痛みで顔を顰める。
「い、痛い…」
ここは夢の中であるはずなのに、痛覚があるなんて。
そこでナズナは彼の不安を感じ取った。
もしかしたら、ナズナが本当にエリゴスへ助けを求めてユーフェイとの関係を断ち切るつもりでいるのかもしれないと。
だが、ユーフェイとの契約はカードを通してのものではない。神威やメルセデスのように、カードを介しての契約なら、それを破るだけで契約は無かったことになる。
ユーフェイのような特別な儀式が必要な者との契約を破る場合は、ナズナの家にあった文献によればカードを介して契約した者のように一筋縄でいかなかったはずだ。
しかしああしてエリゴスが宣言したからには何か方法があるのかもしれない。