そこでナズナは宿の女主人が貸してくれた服に着替えさせられる前に身に着けていた、幼馴染が贈ってくれた水色のドレスのことを思い出す。
今思えばアルテム村で目を覚ました時から、見ていなかったような気がする。ナズナにとっては大事なドレスなので、その行方をジンフーに問い質した。
「あの…その前に私のドレスはどうなさったのですか?」
彼は申し訳なさそうに肩を竦め、謝罪する。
「申し訳ありません。手持ちが心許なかったため、シェンジャ様のドレスを換金させて頂きました」
ドレスを売ったお金は宿代と薬代に使われたのだろう。致仕方ない事情とはいえ、贈ってくれたソルーシュに申し訳なかった。ナズナはそれ以上言及せずに俯く。
とはいえ、宿の女主人が貸してくれた服を着て旅に出る訳にはいかない。確かアルテム村には服と雑貨を売っている店があったはずだ。
「えっと、ジンフー。お金はまだ余っていますか?」
「はい。シェンジャ様のドレスの品質が良く、それにこちらでは見ない材質で出来たものだったので、予想以上に高く売れましたから」
「では、私の旅装束を揃えるくらいの余裕はありますか?」
「はい。では、こちらを」
察しのいいジンフーはナズナが自ら旅装束を買いに行くことに気付いたのだろう。彼は硬貨が入った袋を差し出す。手に取ってみるとずっしりと重い。
これだけあれば多分ナズナの旅装束を一通り揃えることが出来る。ついでに旅に必要なものも購入しておいた方がよさそうだ。
ナズナはジンフーに一言断って外へ出る。するとリュウシンが後を追ってきた。
「待て。勝手な行動は慎め」
どこまでも職務に忠実なリュウシンに内心ナズナは舌を巻く。
本当ならナズナと行動を共にすること自体嫌だろうに。そもそも逃げるつもりなどないのだから、そこまできっちり監視しなくてもいいのではないか。
そう思ったものの、彼にかつてしたことを思い出すとナズナは何も言えない。足を止めて俯いた。
リュウシンはナズナに追いつき、彼女の目の前に立ち塞がる。
「ワタシが買いに行くから、オマエは宿で待っていろ」
思わぬ言葉にナズナは首を傾げた。彼にナズナの服のサイズ等が分かるのだろうか。
幼馴染の商人は職業上…というよりも性格上ナズナの服のサイズをほぼ正確に把握していたが。
リュウシンが把握出来ていたら出来ていたでどうかと思うのだが、そのことに気付いたのはナズナの中にいるメルセデスだけであった。
中で聞いていた大地の精霊の娘が思わず外へ出てくる。
『失礼ですが、リュウシン殿はナズナ様の服のサイズをご存知なのですか?』