「いや…」
急に出てきたメルセデスに面食らいつつ、リュウシンは否定する。彼の返答を聞いてメルセデスが呆れた。どうやらこの青年は適当に買ってくるつもりだったらしい。
それではだめだと大地の精霊の娘は力説した。彼女の勢いに気圧されて、結局リュウシンがナズナについていく形で落ち着く。少々納得がいかない様子ではあったが。
雑貨店の中へ入り、ナズナは店内をあれやこれやと珍しそうに物色する。今まではただ与えられていただけだったので、自分で実際に見て選ぶというのは中々新鮮だ。
ナズナが旅装束を選んでいる間、リュウシンの方は旅に必要な雑貨等を物色している。
時折彼女が逃げ出さないようにちらちら視線を感じる。
メルセデスはリュウシンの視線を気にすることなく、ナズナに似合いそうな服を何着か見つけては彼女の身体に当てて吟味していた。
それなりに長い旅になりそうだから、あまり華美なものは避けた方がいいだろう。
『こちらも悪くないですわね…。ナズナ様はこの中だとどれがよろしいですか?』
メルセデスが選んできた服はどれも動きやすそうでありながら、可愛らしさが感じられるものだった。
ナズナが以前身に着けていた服やドレスの色が青系統のものが多かったので、メルセデスが選んできた服もほとんどが青系統のものだ。
「そうですね…」
見比べながらもナズナはさりげなく値段の確認をしておく。どの服もナズナの価値観からしてみれば安い。
迷いに迷って、ナズナが選んだ服は水色のワンピースに青いレザーアーマー、そして黒いタイツに茶色の手袋とショートブーツ。首元には青紫色のリボンがついている。
何となく前回ソルーシュが贈ってくれた旅装束に似た感じだが、こちらの方が些かシンプルである。
金を支払い、すでに買い物を終えて待っていたリュウシンの元へ戻ると、彼は待ちくたびれていたようで苛々していた。
「遅い」
開口一番にそう言われ、ナズナは申し訳なさそうに謝罪するが、メルセデスはどこ吹く風だ。
『あら、大抵の女性の買い物時間はこれくらいだったり、もっと長かったりしますのよ。
お待ちになるのが嫌でしたら、先に戻っていてもよろしかったのに』
リュウシンを軽くあしらうと、メルセデスはナズナの背を押して宿屋へと向かう。呆気に取られていたリュウシンははっと我を取り戻すと、慌てて二人の後を追った。
帰路につく途中、再び有翼人種の少年に遭遇し、お互いに目を丸くする。
「あれ、ナズナ!また会ったね!」
「スバルさん!」
彼は表情を明るくし、ナズナの服装が先程と変わっていることに気付いた。