「新しい服に変えたの?よく似合ってる」
「あ、ありがとうございます。今まで着ていたのは、宿の女将さんにお借りしていたものだったので…」
面と向かって褒められ、ナズナは頬を少し赤く染める。ナズナの背後でリュウシンの鼻を鳴らす音が聞こえた。メルセデスはというと、小さな主と有翼人種の少年のやり取りを微笑ましそうに見守っている。
ここで彼に再会出来たのは好都合だ。旅立つ前に、別れの挨拶が出来る。本当なら自分と友達になって欲しいと考えていたのだが、先のことを思うとそれを申し出てはいけない気がしたので止めておく。
スバルはナズナの神妙そうな表情を訝しんだ。よく見たら彼女の纏う服は旅装束だ。
「…ナズナ、どこかへ行っちゃうの?」
「あ…えっと…実はそうなんです」
意外と鋭いスバルに驚きながらも、ナズナは肯定し、リュウシン達に支障がない程度に事情を話した。
「私達、東大陸へ向かう旅の途中で…もう私の体調も良くなったので、本日アルテム村を発とうかと」
「ふーん…東大陸へ行くってことは、国境の森を抜けて、トリアの集落まで行かなきゃいけないってことだよね。大変だなあ」
深く突っ込まれなかったことに安堵する。流石に彼も空気を読んでくれたようだ。
それにかつて旅をした経験があるのか、スバルはうんうんと一人頷いている。ちなみに彼が大変だと言っている部分は、主に国境の森を抜けるという部分だ。彼は過去にその森で痛い目に遭ったことがある。
そこで見守っていたメルセデスが口を挟んだ。
『国境の森を抜けるなら、そこは私達精霊と妖精の管轄なので容易に抜けられると思いますよ。森へ入ったら、私に任せて下さいな』
「?何で?」
スバルはメルセデスに物怖じすることなく聞き返す。そんな彼に気を悪くすることなく、大地の精霊の娘はにっこりと美しく微笑んだ。
『妖精と精霊の村“ローグ”が私の生まれ故郷なのです。ですから、国境の森に常駐している警備隊の者に同族の私がお願いすれば、最短距離で抜けられると思いますよ』
「お、それはいいね!この大陸出身の妖精か精霊がいれば大丈夫だ」
それにしても、とスバルは残念そうに続ける。
「そっか…行っちゃうのか…折角友達になれたのに」
スバルの言葉にナズナの肩が跳ねる。
「友達…ですか…?」
「うん。俺はそう思ってる。
ねえナズナ、また会えるかな?」
はっきりと断言し、彼はナズナの紅の瞳を覗き込む。スバルの金の瞳には、何とも言えない表情をしたナズナの姿が映っていた。
ナズナがこれから為そうとしていることを考えれば、彼との約束は確約出来ない。