まずナズナをメルセデスの部屋のベッドに寝かせ、水妖族の青年二人をメルセデスの隣の部屋で休ませる。
その後で彼女は再び自身の部屋へと戻ってきた。ベッドですやすやと眠るナズナの前髪を梳きながら、自身の母である大地の精霊ガイアの元へ顔を出し助言を請うか、それとも主の中にいる水妖族の唯一神を問い質しに行くかを考えた。
あるいは、魔界の王に相談すべきか。彼はナズナにだけは忠実だった気がするが、メルセデスを始めとする他者には尊大な態度だ。相談相手としては微妙な気がして、その選択肢を除外する。
考えに考えて、まずはユーフェイを問い質すことが先だという結論に思い至る。
メルセデスは主の中へ還ると、ユーフェイの気配を探った。
探るにつれて、彼の魔力の気配が濃くなってくる。その魔力の気配は何だか不安を掻き立てるような、背筋がぞくぞくするようなものだったが構わず探す。
しばらくして、水妖族の唯一神の後ろ姿を見つけた。
向こうもメルセデスが自身を探していることに気付いていたようで、特に驚いている様子はない。彼は振り向き、穏やかな笑みを浮かべて大地の精霊の娘を出迎えた。
『汝が我を訪ねてくるとは珍しいな』
ユーフェイは笑っているのに、物凄い威圧感がメルセデスへ向けられている。
まるで常に喉元を剣先で狙われているようで冷や汗が絶えない。
別に恐れる必要はないのだと自身に言い聞かせ、メルセデスは挨拶した。
『こうして直接お会いするのは初めてですわね。私の名はメルセデス。大地の精霊です』
『その大地の精霊が我に何用かな?』
『我が主であるナズナ様から、今まで思い出した記憶の内容と、何故貴方がナズナ様と共に在るのかを伺いました。
それを踏まえて、貴方にお尋ねしたいことがありますの』
ユーフェイの隻眼が細められ、笑みがさらに深くなる。
答えはなかったが、それが先を促しているということにしてメルセデスは続ける。
『貴方はあの儀式についてどう思っていますの?』
『あの儀式…というと帝国を繁栄させるための儀式のことか?正直なところ、我としてはどうかと思っている。
他国の幼い少女を攫い、そしてその儚い命を奪って成り立つ繁栄など我は望んでいない』
彼の答えを聞いてメルセデスは安堵した。彼ならナズナに儀式をさせないよう協力してくれるだろう。現にユーフェイから笑みが消え、胸を痛めるような悲しげな表情になっている。それでも何とも言い難い嫌な感じは消えないままだったが。
それを振り払い、メルセデスは勇敢にも神に進言した。