エリゴスの出まかせに悪乗りしてソルーシュがしょんぼりとした表情を作り、ポケットから質素なハンカチを取り出して涙を拭う振りをした。
「そんな!折角ナズナ姫に似合うと思って苦労して用意したのに!」
『そ、ソルーシュ殿…!』
「安心しろ神威。私はお前の意見に賛成だ。
貴族令嬢たる者みだりに肌を見せるものではない」
追い詰められる神威の肩にジークの手が置かれる。置かれたジークの手はだんだん重みを増していった。つまるところ、彼の静かな怒りがそこに籠められている。
だが娘が気に入っている手前、あまり強く言えないのであろう。
この親ばかめ、と神威は思ったがもちろん口に出さない。彼はどこぞの騎士とは違い、空気の読める精霊なのだから。
ともあれジークが神威の味方についたことで少しソルーシュ達の勢いが衰えたのは上々だ。だが、当のナズナはソルーシュの出まかせを完全に信じているらしく、着替える意志を見せなかった。
それを感じ取ったエリゴスが再び調子に乗り始める。
『ふはは、残念だったな。小僧、まさか無理矢理脱がす訳にはあるまい?』
エリゴスの安い挑発に内心苛立ちながらも神威は負けじと言い返す。
『貴方じゃあるまいし、そんな破廉恥な真似致しませんよ。
私はあの太腿が露出している部分を隠しなさいと申し上げているのです』
神威の反論にソルーシュがすかさず異議を唱えた。
「お前正気か?!あのチラリズムの良さが分からないなんて…!」
『…』
呆れて言葉も出ない。途中でジークも相手にすることを放棄している。最早この色ボケコンビに何を言っても無駄だった。
神威とジークを言い負かしたつもりでいるソルーシュとエリゴス、そして何が何だかよく分かっていないナズナが勝利のハイタッチをしていた。そこへ来訪者を告げる報せが届く。
「閣下、ヴィルヘルム殿が到着致しました」
「…通してくれ」
どこか疲れたようなジークの返事の後に扉が大きく開かれた。騎士団の制服を脱ぎ、黒いマントと灰色の鎧を纏ったヴィルヘルムが入ってくる。
これが彼の旅装束らしい。彼らしいといえば彼らしいが。
きびきびとした軍人特有の歩き方でジークに歩み寄り、騎士団の礼を取ってから跪いた。
「ヴィルヘルム=フォルトナー、お召しにより参上致しました。何なりとご命令を」
「楽にしろヴィル。お前に頼みたいことがある。
今日からナズナはソルーシュと共にここを旅立つことになった」
「え…?」