『そして目を閉じ、心を静めて私の魔力の波長に合わせて下さい』
言われた通りに目を閉じ、神威の魔力にナズナの魔力の波長を重ね合わせると、集中している自分の姿とその隣にいるヴィルヘルムの姿と向き合っている映像が鮮明に見えた。
目を閉じているのに、こうして見えるということは…とナズナが気づくよりも先に神威が説明をし始める。
『こうすることで今私が見ているものはナズナの見ているものとなっているのです。
そのまま扉の外へ出て周りを見ることを意識すれば、私は貴方の目となり離れたところをその場にいながら探索することが出来るようになります』
まさにこういう状況にはぴったりな技能だ。ソルーシュも感心しているものの、何だか腑に落ちない表情をしている。
鳥の姿の神威はそのまま首を傾げて尋ねた。
『何ですか、ソルーシュ殿?』
「いや、その技能をもっと早くナズナ姫に教えてやればよかったのにって思っただけさ」
そうすればナズナも屋敷にいても少しは外の世界を見ることが出来て心を慰められただろうに。
ソルーシュの言わんとしたことを理解した神威はそうですね、と一旦同意したもののすぐに首を振った。
『貴方の言うことも一理あります。ですがもしナズナがもっと早くこの技能を知って外の世界を見ていたら、今まで以上に外の世界への憧れが強くなって、そして無理矢理にでも外へ出ていたでしょうね』
そうして今より早くあの青年に見つかり、捕らえられていたかもしれない。
それを懸念していたからこそ神威は今までこの技能をナズナに教えなかったのだろう。確かにな、とソルーシュは頷いてソルーシュは苦笑した。
「じゃ、ナズナ姫。さっそくそのまま神威の目を借りて外を見て頂けませんか?」
「はい!任せて下さい!」
自分が誰かの役に立てることに嬉しく思いながらナズナは元気よく返事をした。それを合図に鳥姿の神威が半透明になり、扉をすり抜けて外へ出て行く。
神威の目を借りて映る美しい外の景色にナズナは驚きつつも興奮している。
「すごい…!」
「うん、感動するのは後にして、今は集中してね。誰かいるかい?」
ナズナの興奮に水を差すようにすかさずヴィルヘルムが突っ込んだ。慌ててナズナは集中し直し、改めて怪しい人影がないかを確認する。
ビスマルク邸の裏手は密接に広がる針葉樹林がある。隠れるには絶好の場所だ。見れる範囲は隅々まで確認したが、それらしき人影はいないように見えた。