ナズナの意識が戻った時周囲は真っ暗だったが、神威とエリゴスが放つ魔力の光によって彼らの姿だけはどうにか認識出来た。
恐る恐る身体を起こしてみるが、特に痛みは感じない。神威とエリゴスの姿を見て、ナズナは彼らが助けてくれたのかと思い礼を言った。
「二人が助けて下さったのですね。ありがとうございます」
ナズナの礼に神威とエリゴスは戸惑い、お互いに顔を見合わせた。
『いや…我々はたった今お前を見つけたところだ。
本当はお前があそこから落ちる前に助けられればよかったのだが…間に合わなくてな…』
「え…?」
では何故自分は無傷なのだろう。それなりの高さから落ちたはずだから、軽い骨折くらいは覚悟していたのだが。
まあ運が良かったのだろうと思い、ナズナは立ち上がるとエリゴスに炎を出してもらった。エリゴスの手の平から紫色の炎が噴き出し、やがて小さな炎として彼の手の平に留まる。おかげで狭い範囲ではあるが周囲の様子が把握出来た。
何となく見覚えのある様子に、丁度数時間前に通ったすぐ下の階層のようだと判断する。道順は大体覚えているので、すぐにでもヴィルヘルム達と合流出来るだろう。もちろん、それはナズナが方向音痴でないことが大前提であるが。
『歩けますか?』
「大丈夫ですよ。では、参りましょう」
ナズナが落ちた地点からすぐのところに、先程戦った合成獣の姿があった。
まだ息があるのだろうかと警戒しつつ近寄ってみるが、合成獣はすでに息絶えていた。エリゴスが調べてみると、この合成獣は落下の衝撃で命を落としたようではないらしい。ナズナと共に落ちた時、この魔物は傷ついていたとはいえまだ生きていたのだから。
「では、一体どうして?」
『誰かに斬られたようだな。いや、無理に見なくていい。
とにかく急所という急所を正確に狙った斬撃がこの合成獣の息の根を止めたようだ』
感心したようなエリゴスの説明からして合成獣を斬った者の腕が相当立つことが窺えた。ならば自分達以外に誰かいるのだろうか。神威の目を使って周囲を探索してみても、それらしい気配を感じない。
「誰もいませんね…。もし誰かいらっしゃったのなら、せめてお礼くらいは言えたらよかったのですが…」
『そうですね…』
呑気なナズナと神威を余所に、エリゴスは顎に手を当てて考え込む。あの合成獣を斬った者に心当たりがある。それを教えるべきか悩むが、いずれ“斬った本人”が直接話すだろうと思い黙っておくことにした。