「んー…」
ナズナが一人静かに決意している横で、ヴィルヘルムとソルーシュがもそもそと起き出した。
「おはようございます」
「おはよう…」
ナズナの挨拶に半ば眠りながら挨拶を返すヴィルヘルム。ソルーシュの方は従兄のように半分眠っておらず、むしろ意識ははっきりとしているようだがきょろきょろと辺りを忙しなく見回しどこか落ち着かない。
「ソル?どうかしたのですか?」
「あ…いえ…。ナズナ姫、昨日の夜…」
「え?」
「…やっぱ何でもありません。ちょっと顔を洗ってきます」
明らかに何かあったような態度のソルーシュにナズナは不思議そうに首を傾げた。昨日の夜は特に何もなかったかのように思うが、もしかしたらナズナが寝入っている時に寝ぼけてソルーシュに何かしてしまったのだろうか。
後でもう一度尋ねてみようとナズナが考えつつ、ようやく意識をはっきりさせた従兄と顔を洗いに行った幼馴染のために朝食の準備をし始めた。
顔を洗って戻ってきた幼馴染は、先程の不思議な態度を微塵も感じさせず、すでにいつもの明るい彼に戻っている。朝食を食べ終えたところで先にソルーシュがナズナに尋ねた。
「それでナズナ姫、次の欠片はどちらに?」
「えっと…それが…ミッターマイヤー家のお城みたいなのです…」
「へぇ、それはまた…」
ヴィルヘルムの呟きにソルーシュも同意する。確かにあの家の当主とナズナの家であるビスマルク家は知り合いであるものの、別に家族ぐるみで付き合うような間柄ではない。
一体何故欠片を隠したエリゴスはそんなところに隠したのだろう。ソルーシュがナズナに彼を出すように言うと、彼女はすぐに従った。
「エリゴス」
『何だ』
ナズナの呼び掛けに間髪入れず出てきた魔界の王にソルーシュがいつもの調子で詰め寄る。
「おい、何でよりにもよってミッターマイヤー家なんかに隠しやがったんだ?」
挨拶もなしに用件だけ告げてくるソルーシュにエリゴスの機嫌が目に見えて悪くなる。
折角の爽やかな朝に野郎は目の毒である。清々しい気分が台無しだ。ちっと盛大に舌打ちしてエリゴスがそっぽを向く。子供染みた真似をする魔界の王にソルーシュが眉を吊り上げて怒り出した。
「この野郎!この期に及んでガキみてぇなことしてんじゃねぇよ!本当に魔界の王かよ、このおっさん!」
『まごうことなき魔界の王だが、何か?』
「何か?じゃねぇよ!まったく!」
しれっと返すエリゴスにソルーシュが鋭く突っ込む。ああいえばこういう男なのだ。この子供染みた魔界の王は。