ここが自分の家なら何の気兼ねなく本人達が厭きるまでやらせておくのだが、家ではなく王宮内なのでそのままにしておく訳にはいかない。
「もう二人とも止めて下さい!」
ナズナが声を荒げても二人の耳には入らず、口論はますますヒートアップしていく。どうしよう、とナズナが途方に暮れかけたところで助け舟が入った。
従兄のヴィルヘルムである。彼は騎士団の制服を着ておらず、正装をしていた。
「こんなところにいたのか、ナズナ。
待ち合わせ場所にいなかったから、何かあったのかと思ったよ」
「ヴィル!」
久しぶりに会った従兄にナズナは顔を綻ばせた。ナズナが最後に彼と会ったのは、昨年の彼女の誕生日だった。それ以降はヴィルヘルムが騎士の仕事で忙しかったので、会えない日が続いていた。
同じように顔を綻ばせたヴィルヘルムがナズナの手を取り、会場であるダンスホールの方へと導いていく。ナズナがソルーシュ達の方を振り向き、無駄だとは思いつつも声を掛けた。
「ソル、エリゴス!行きますよー!」
律儀に呼び掛けるナズナにヴィルヘルムは苦笑した。
ナズナの呼び掛けにようやく彼らは気づき、慌てて後を追ってくる。追いついてきたソルーシュがヴィルヘルムを見て口を尖らせた。
「ヴィルの野郎、来てたんなら一言言ってくれよな」
「今日の主役を放っておいてエリゴス殿と楽しくやっていたみたいだからね。邪魔しちゃ悪いと思って」
ヴィルヘルムの無自覚な嫌味にソルーシュは顔を曇らせる。
「す、すまん…。ナズナ姫も申し訳ありませんでした」
「いえ…」
長い付き合いだからこそ見慣れたものだが、二人の言い争いを止められるとなればまた別の話である。不本意そうな呟きがナズナの中に戻ってきたエリゴスから漏れていたが、何と言っているかは分からなかった。
ダンスホールに着くと、ナズナはミッターマイヤー家の隣に用意されているテーブルへと案内された。ナズナの本来の身分であれば五大貴族の集まるテーブルとは遠いところへ用意されるはずなのだが、本日は彼女が主役なので特別に五大貴族の隣に用意されている。
ソルーシュが椅子を引き、そこへナズナが席に着いた。
ヴィルヘルムもナズナと同じテーブルの席へ着き、彼女の後ろにソルーシュが護衛として立つ。