ナズナが気にしていないことに少し心が軽くなったのか、ジェラルドがいつもの堂々とした態度に戻った。
「うむ。ここなら心置きなく貴様の事情とやらが聞けるからな。ざっくりとした話はヴィルから聞いた。だが、私はお前の口から詳細を聞きたい。
この城のどこかに、お前の探し物があるのだろう?そのためには私の協力が不可欠だ。私の協力が必要ならば、是非とも事情をお聞かせ願いたいものだな」
確かに事情を説明せずに協力を求めるのは筋違いだろう。ナズナは記憶の欠片をジェラルドと自分の間にあるテーブルの上に置き、たどたどしく事情を説明した。
水妖族の青年、リュウシンのこと。空白の記憶を埋めるために自分でこの記憶の欠片を探していること。戻ってきた断片的な記憶のこと。
しかしながら、ユーフェイのことはまだ伏せておいた。何となくだが、彼のことを話さない方がいいのではないかと感じたからだ。
一通りナズナの事情を聞き終えてジェラルドの眉間に皺が寄る。
「一つ聞きたい」
固いジェラルドの声にナズナは思わず姿勢を正した。
「は、はい!何でしょう?!」
「お前は何故、貴族なのに自ら動く?」
彼の質問に迷わず即答する。
「だって、自分のことですから」
ナズナの答えを聞いてジェラルドは目を丸くした。
ジェラルドの知る貴族令嬢という者は何でも人にやらせて自分は何もしない。自分の姉や妹もそうだし、令嬢でなくとも大抵の貴族は皆そうだ。(もちろんジェラルドのような例外もいることはいるが)
それなのにこのナズナ=フォン=ビスマルクという者は貴族令嬢でありながら自ら動く。
自分が狙われているにも関わらずだ。自分の運命に流されず、自ら行動することで抗おうとしている。
大抵の貴族は自分が狙われていると知ったら尻尾を巻いて城に立てこもり、危険が排除されるまで姿を見せない。もちろんその危険を排除する役目は自分自身ではなく、金で雇った傭兵や王国騎士だ。
あまりにも向こう見ずなこの貴族令嬢にジェラルドは物珍しさを覚えると同時にさらに興味を抱いた。それと、ほんの少しの好意も。
ジェラルドは薄く笑い、ぽつりと呟いた。
「…なるほど、確かにな。自分のことは自分で為さねばならない」
何となく、ソルーシュやヴィルヘルムがナズナに対して過保護になるのも分かる気がした。
彼女はあまりにも危なっかしい。ジェラルドは立ち上がり、ナズナに手を差し伸べた。
「行くぞ“ナズナ”、私についてくるがいい。
お前の記憶の欠片がありそうな場所へ案内しよう」
「あ、ありがとうございます!」