ナズナが意識を集中させて、ユーフェイの魔力の気配を探る。
ここにある記憶の欠片が小さいのか、感じられる気配も微かなものだった。おおよその位置は特定出来たが、どこの部屋にあるかは分からない。
とりあえず感じ取れたおおよその位置を協力者であるジェラルドに報告する。
「閣下、欠片の位置ですが…おそらく西の方だと思います」
「おそらく?詳細は分からないのか?」
「えっと…欠片が小さいものなのか感じ取れた気配も微かなものなのです。
そういう訳でお恥ずかしい話、大体の位置しか分からないのです…」
面目なさそうに肩を落とすナズナにジェラルドは慌てた。別に彼女を責めた訳ではないが、自分のぶっきらぼうな物言いのせいで責めているように伝わってしまったらしい。
ナズナの中にいる神威がジェラルドの不器用さに苦笑している。
空気を変えるようにジェラルドはわざとらしく咳払いし、ナズナが感じた方向に何があるのかを思い巡らす。
確か西の方には宝物庫と彼の実母の部屋、そしてミッターマイヤー家自慢の美しい庭園がある。母の部屋はともかく、宝物庫が怪しい。ナズナが見せてくれた記憶の欠片は一見宝石のように見えたので、そこに紛れ込んでいるかもしれない。
ちなみに宝物庫の鍵はミッターマイヤー家の当主が持っている。しかし、その当主は今不在。当主不在時は、代行のジェラルドの兄であるエミールの手にある。
あまり気乗りはしないが、ナズナに協力すると言った手前、行かねばならない。
しかしどのようにして兄から鍵を借りればいいのか。考えるまでもなく、兄はただで貸してくれないだろう。
ジェラルドはどこぞの商人のように口が上手くない。兄を口でやり込めることなど出来ないのだ。考え込むジェラルドにナズナが声を掛ける。
「閣下、どこかお加減でも悪いのですか?」
ちらりとナズナを見て、今度はジェラルドが恐縮そうに答えた。
「お前の言う西の方向には我が母の部屋と宝物庫、そして庭園がある。
私が考えるに、お前の記憶の欠片は宝物庫にあるのではないかと思うのだが…」
言葉を濁すジェラルドに、ナズナはただ黙って彼が続けるのを待つ。
「その宝物庫の中へ入るには、鍵がいる。ただ、その鍵は当主代行である私の兄が持っているのだ」
それを聞いてナズナは少し身構えた。
彼女も幼馴染の商人程口が上手くない上に交渉事が苦手だ。もし、ナズナが素直にエミールに頼んだところで彼がミッターマイヤー家よりも身分の低い者の頼みを聞いてくれるはずがない。鼻で笑われて終わりだろう。